海外客断念 “落胆” “しかたない” 各地の声は? 五輪・パラ

東京オリンピック・パラリンピックで海外からの観客の受け入れを断念することが決まりました。

「とても残念」
「しかたない」
「代わりに何ができるか…」

全国各地からの声をまとめました。

子どもたち 国際交流の機会が… 学校現場からの声

1998年にオリンピックが開かれた長野市の小中学校では、開催から20年以上たった今も、地元の学校と大会に参加する国や地域が互いに交流を深める「一校一国運動」が続けられています。
長野県内の中学校で英語教諭、長野市出身の荒井俊亮さん(26)。
荒井さんは長野オリンピックをきっかけに始まった国際交流活動「一校一国運動」の一環で、小学6年生のときに1週間ほどイギリスを訪れました。
異なる国の人や文化を初めて肌で感じ、海外の人と交流するおもしろさにひかれて英語教師を志すようになったといいます。

(荒井さん)
「ロンドンで、ものすごい人の数とさまざまな国の人がいるのを見て『これが世界なんだ』と感じました。海外の文化に触れた経験が自分のターニングポイントになっています。海外の人たちが日本に来てくれることがオリンピックの大きな魅力だと思っていたので、直接顔を合わせての交流が難しくなるのはとても残念です」
みずからの経験から海外の人と接することで視野が広がると考えている荒井さん。
授業では、写真や動画を使いながら子どもたちに国際的な問題に興味をもってもらおうと工夫していて、今回の方針決定についても授業でとりあげたいということです。

(荒井さん)
「東京オリンピックをテーマに授業を行って、海外の選手や客と直接関われないとしても代わりに何ができるか、子どもたちと一緒に考えてみたい」

普及のきっかけが… 「国際手話」通訳の声

東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに日本でも普及が進むと期待されてきたのが国際手話です。準備を進めてきた国際手話通訳の人たちからは落胆の声が上がっています。

国際手話は国や地域によって異なる手話を使う人たちが意思疎通を図るために作られ、母語としている人はいませんが、国際会議やオリンピック・パラリンピックなどの場で広く使われています。
欧米に比べ日本では国際手話を学ぶ人は少なく通訳ができる人も限られていることから、「日本国際手話通訳・ガイド協会」は今回の東京大会を普及のきっかけにしたいと期待してきました。
3年前から国際手話を学んでいるろう者の阿部浩さん(63)。

神田明神や湯島天神などツアーで案内する場所の歴史を学習したうえで現地で観光案内の練習をしたり、スマートフォンで撮影した手話を復習したりして、毎日4時間勉強を続けてきました。

しかし海外からの観客の受け入れが見送られることで、通訳ガイドのサービスの利用者は大幅に落ち込む見込みです。

(阿部さん)
「国を超えて、ろう者どうしだから分かり合えることがあると思っています。自国だけでなく、外国のろう者と関わることで見識も広めることができ、オリンピック・パラリンピックを通じて外国のろう者に会って彼らの生の意見を聞いてみたかった。その機会が失われるのは本当に残念です」

コロナが終息したら… 震災語り部ボランティアの声

宮城県石巻市出身の高橋匡美さん。
10年前の震災で両親が津波の犠牲になり、海岸近くの実家も全壊しました。

その後、6年前からは、震災の教訓を伝える語り部の活動を続けていて、東京オリンピック・パラリンピックでも、海外から訪れる人たちに震災について紹介しようと、宮城県の都市ボランティアに応募しました。

自宅の壁や台所などに伝えたい内容を英訳したメモを次々と貼って繰り返し勉強してきたほか、去年9月からは英会話教室にも通い、より自然にコミュニケーションを図れるよう準備を進めてきました。

(高橋さん)
「自分の思いや経験を自分のことばで伝えたいと思って勉強してきたので、とても残念です。課題を見つけて成長する機会が奪われた感じで、ボランティアが本当に必要なのかと思うこともあります」

高橋さんは新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、オンラインで海外の人たちに語り部活動を行っているということです。

(高橋さん)
「オンラインでも参加者に何かを感じ取ってもらえている。コロナが終息したら、海外の人たちにも被災地に話を聞きにきてもらいたい」

しかたない部分が… ボランティアの声

東京オリンピックのセーリングの競技会場となる神奈川県藤沢市では、シティキャストと呼ばれるおよそ1000人の都市ボランティアが、会場周辺で観客の案内を行う予定です。
シティキャストは語学の研修のほか、外国人とのコミュニケーションの取り方などを学ぶ研修を重ね、海外からの観客などを受け入れる準備を進めてきました。

(シティキャストの大学生)
「すべての選手や観客、ボランティアが安全に開催することがいちばん大事だと思います。この状況で大人数が集まって誰ひとりコロナに感染しないで開催するのは難しいと思うので、しかたがない部分があります」

キャンセル連絡も… インバウンド専門旅行会社の声

都内にあるインバウンド専門の旅行会社は、東京大会の期間中、浅草や東京タワーをはじめ首都圏の名所を回る100種類を超えるツアーを企画していました。
去年の年末ごろから徐々に予約が入っていましたが、海外からの観客の受け入れを断念することが決まり、ツアーの予約をキャンセルする連絡が入りはじめているということです。
(otomo 北川朝輝 取締役)
「海外からの観客が回遊しやすいようにツアーの内容のブラッシュアップを進めていたので、残念な気持ちが大きいが、悲観していてもしかたがない。観客をしぼり安全な大会をやりきることで、日本が『安全な国』ということが海外に伝わり、アフターコロナに追い風が吹いてくれれば」

280億円で改修も… 成田空港の声

成田空港会社では東京大会の期間中、観客や選手、関係者など1日に最大7万2000人の出国者数を見込み、およそ280億円をかけてターミナルビルの改修などを進めてきました。

海外からの観客受け入れ断念で、空港内店舗の売り上げや、利用客が支払う施設使用料は想定よりも大幅に減少することが避けられないとしています。

(成田空港会社 宮本秀晴 副部門長)
「東京大会で多くの人に日本を知ってもらう最初の入り口になれると準備を進めていたので残念です。今後は選手や関係者を安心安全に迎え入れられるよう、検疫などと一緒に努力したい」