米 新型コロナ 国家非常事態宣言から1年 若者に深刻な影響

新型コロナウイルスの急速な感染拡大を受けて、アメリカが国家非常事態を宣言してから1年がたつ中、若者の間で、経済的な困窮が広がり、心の健康にも深刻な影響が出ていることが明らかになってきています。

アメリカでは去年3月13日、当時のトランプ大統領が国家非常事態を宣言し、各州の権限によって、外出制限や休校などの措置がとられました。

それから1年がたち、ワクチンの接種が進む中、本格的な経済活動の再開に向けた動きも始まっていますが、若者の間では深刻な影響が出ていることが分かってきました。

感染対策として営業が制限されていたサービス業などで働く人は若い世代に多く、この1年で仕事を失うなど若者の間で経済的な困窮が広がっていると指摘されています。

また、心の健康にも影響が出ていて、アメリカCDC=疾病対策センターの調べでは、「過去7日間に不安またはうつの症状があった」と答えた18歳から29歳は、去年4月から5月にかけては46.8%でしたが、ことし2月から3月では55.4%に増加しています。

これはほかの年代よりも高い割合となっていて、経済的に困窮していることや、オンライン授業が続くなど社会的な関わりが少なくなっていることが理由として考えられています。

こうした状況について、現地のメディアは、将来への不安が大きくなっていることから若者の前には、越えることができない壁「パンデミック・ウォール」が立ちふさがっていると例え、支援の必要性を訴えています。

ニューヨークを離れた女性は

シンシア・ピアスさん、29歳。今月1日、ニューヨークを離れました。

フロリダ出身の彼女が、資材メーカーの事務の仕事を見つけ、ニューヨークに出てきたのはおととしの夏。

マンハッタンにあるオフィスに通い、週3日はスポーツジム。

週末には友人とレストランで食事をしたり、観光を楽しんだりしていました。

しかし、「これからもっと」という時に、新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われました。

オフィスは3月に閉鎖、スポーツジムにも通えなくなったと言います。

ピアスさんは「何百万人の人をニューヨークで見ていたのに、突然、皆、孤独になった。私もね」と、当時のことを振り返りました。
家賃も負担になり、ニューヨークから出ていくことを決めたピアスさん。

今後は、しばらく乗用車で寝泊まりして、半年ほど過ごしたいと言います。

遊牧民という意味の「ノマド」とも呼ばれる、こうした車で生活する人はアメリカには多くいて、最近では映画も作られ、話題になりました。

ピアスさんは、車の後部座席を外して空いたスペースに木製のテーブルのような台を設置しました。

台の上に寝泊まりするマットレスを置き、下には、衣服や調理器具、調味料などを入れています。

以前もこうした生活を経験したというピアスさんは、少しでも多くの人に対面で会えるのが楽しみだと話していました。

ニューヨークを離れる当日、ピアスさんは、感染拡大で立ちはだかった壁、「パンデミック・ウォール」について誰でも直面するものだとしたうえで、「日々の生活から何から、すべてを変えてしまった。でも、それを乗り越えるために進んでいくしかないと思う」と話していました。

カリフォルニア州の苦学生は

ジョセリン・ロメロさんはメキシコ生まれの移民で25歳。

生活費や学費を賄うために仕事をしながら、ロサンゼルス郊外の2年制の公立大学に通っています。

新型コロナウイルスの感染拡大で経済的に厳しい状況に追い込まれたといいます。

ロメロさんが弟などと4人で暮らしているアパートを出るのは毎朝5時。

最初に向かうのは1つ目の勤務先のスーパーマーケットです。レジなどを担当しています。

勤務は午前6時半から午後2時半までの8時間です。

帰宅は夜遅くになるため、次の仕事までの時間も使って勉強しています。

ロメロさんの専攻は演劇です。

2つ目の勤務先はコーヒーショップ。勤務は午後4時から午後10時までの6時間です。

感染拡大の前は、この店で1日8時間、週40時間の勤務ができて十分な収入を得ることができました。

責任あるポストを任され処遇もよかったといいます。

しかし、感染拡大で勤務時間の削減を余儀なくされ、収入も減少。
やむをえず、2つの仕事を掛け持つことになりました。

今、ロメロさんの1日の労働時間は14時間にもなっています。

ロメロさんは「大学側からの経済面での支援は不十分です。『これで食べ物でも買って。あとはがんばって』という程度です。ですから、経済面でも学業の面でも自分でやりくりをしなければなりません。私にとってパンデミック・ウォールというのは一種の不安です。それは感染拡大の前に感じていた不安とは全く異なるものです」と話していました。

ロメロさんの夢はエンターテインメント産業で働くことですが、その夢は実現しないかもしれないと考え始めています。

演劇に加えて、社会学も学び始めました。

その理由について、ロメロさんは「以前は自分のやりたいことを勉強すると考えていましたが、今は将来に不安を感じないようお金を稼ぐために必要な勉強をしなければならないと考えています」と話しています。

また、ロメロさんは精神的にもつらい状況が続いているといいます。

「在宅の生活が続く中、精神面でも影響がありました。孤独で気が変にならないようにやるべきことに集中するのはとても大変でした。ソーシャルメディアはありますが、人とのつながりという点では実際に会うのとは違います。そして、今は、普通に人と会うというノーマルに戻ることは難しく感じられ、パンデミック・ウォールになっています」と話していました。