新型コロナ 変異ウイルスの検査体制に課題 国への対応求める

全国で拡大している、変異した新型コロナウイルスへの感染。16日には、神奈川県がこれまでに死亡した人のうち2人が変異ウイルスに感染していたことがわかったと発表しました。

変異ウイルスへの監視強化の必要性が指摘される中、今の検査体制に課題があることが、埼玉県への取材で明らかになりました。
県は国に対応を求めています。

埼玉 変異ウイルス検査の現状は

埼玉県によりますと、県内ではことし1月28日に初めて変異ウイルスの感染が明らかになってから、これまでに60人の感染が確認されています。

変異ウイルスの検査は、県の衛生研究所やさいたま市など4つの市で行われていて、PCR検査で陽性だった患者の検体を分析しています。
1月25日に始まってから今月7日までに行われた検査は446人分で、この期間に感染が確認された6714人の6.6%と、国が求める5%から10%の目安を満たしているものの、今のままではこれ以上増やすには限界があるということです。

検査が増えない2つの理由

理由の1つが、条件を満たさない検体が多いことです。

変異ウイルスの検査にかけるには一定の量のウイルスが必要ですが、個人差もあり、県が管轄している地域ではPCR検査で陽性だった検体のうち、条件を満たしているのは半数ほどだということです。

もう1つの理由が、民間で検査する仕組みが整っていないことです。

埼玉県内では、PCR検査全体に占める民間の検査機関の割合が圧倒的に多く、行政が行っている検査のおよそ10倍にのぼっています。

しかし、民間の検査機関がみずから変異ウイルスの検査を行ったり行政に検体を提供したりする仕組みは整っておらず、検査の実績は少ないということです。

県は、民間の検査機関に対して協力を要請したい考えですが、県単独では難しいとしています。

埼玉県「国が先頭に立って進めてほしい」

埼玉県感染症対策課の田中良明 感染症対策幹は「民間の検査機関の分の検査が進まなければ国が示す5%から10%をキープするのは難しい。国が先頭に立って進めてほしい」と話しています。

民間の検査会社「保管ルールなく検体は4~5日で処分」

新型コロナウイルスのPCR検査を行っている民間の検査会社では、検査後、一定期間が過ぎた検体は処分するしか無いということです。

埼玉県川越市に研究拠点がある大手検査会社「ビー・エム・エル」では、首都圏を中心に医療機関や行政を中心に検査の依頼を受けていて、この施設だけで1日におよそ1万件の検査を行っています。

厚生労働省によりますと、感染が確認された人の検体については、行政が民間の検査機関から提供を受けることができますが、民間検査での検体の保管期間などについては国のルールなどは定められていないということです。
この会社では、念のため陽性か陰性かにかかわらず、検査後の検体を一定期間保管していますが、マイナス20度で保管する必要があり、冷凍庫のスペースも限られているため、4日から5日程度で処分するしかないということです。

会社では、今後、国の変異ウイルスの調査が拡大される場合に備えて、冷凍庫の増設や陽性となった検体だけの保管への切り替え、それに社内で変異ウイルスの検査ができる体制の整備などを進めているということです。

ただ、今のところ、具体的にどれぐらいの期間保管するのかや、どの検体を変異ウイルスの検査に回すのかなど、国などの方針は示されていないということです。
「ビー・エム・エル」の山口敏和 執行役員は「どのような用途のため、どのタイミングで検体の返却が求められるのか、何らかの指針があれば対応しやすい。変異ウイルスの検査体制拡充のため、スペースの確保などは会社として準備しつつ、国などから具体的な協力要請を待ちたい」と話していました。

専門家「民間の協力不可欠 国は具体的な指針示すべき」

変異ウイルスの検査体制について日本感染症学会の理事長で、東邦大学の舘田一博 教授は「変異ウイルスの検査は、国立感染症研究所や地方衛生研究所を中心に行われているが、実施できているのは陽性者のうちの5%から10%程度で、国民の心配に応えられていない。陽性者の50%以上は検査の必要があるというのが、専門家で一致している意見で、そのためには、民間の検査会社の協力が不可欠だ」と指摘しています。

そして「変異ウイルスの検査方法そのものは複雑ではなく、特別な試薬があれば、どの検査機関でも対応できる。国は民間検査会社に対して、通常の検査で陽性となった検体に対して、追加で変異株の検査も行ってもらえるような具体的な指針を示すべきだ」と話しました。

そのうえで、舘田教授は「民間の検査で変異ウイルスの陽性が判明した場合は、医療機関や保健所に速やかに報告するようなルールを作るなど、変異ウイルスの検出頻度を調べるだけでなく、感染拡大を防止する対策につなげていくことが重要だ」と話していました。