災害公営住宅の家賃上昇 70%余が生活費切り詰め

東日本大震災から10年となるのを前に、NHKが岩手・宮城・福島の被災した人たちに行ったアンケートで、災害公営住宅の家賃が上がって生活費を切り詰めた人のうち、75%が食費を減らしたと回答しました。
専門家は、値上げが住民の生活の根幹に影響していると指摘しています。

NHKは、去年12月からことし1月にかけて、震災と原発事故で被災した岩手・宮城・福島の4000人余りを対象にアンケートを行い、1805人から回答を得ました。

この中で、現在災害公営住宅に住んでいる657人に対し、入居当初と比べ家賃が変化したか尋ねたところ、
▽値下がりした人は15%
▽変わらなかった人は44%でした。

一方、残りのほぼ4割は値上げがあったと回答し
▽1.1倍から1.5倍未満が22%
▽1.5倍から2倍未満が7%
▽2倍から2.5倍未満が4%
▽2.5倍から3倍未満が2%
▽3倍以上が5%となりました。
そして、値上げがあった人に複数回答で対応を聞いたところ
▽「生活費を切り詰めた」が71%と最も多く
▽次いで「預貯金を取り崩した」が39%
▽「何も出来ていない」と「退去を検討している」が10%などとなりました。
さらに「生活費を切り詰めた」と回答した人にどんな出費かを複数回答で尋ねたところ
▽「食費」が75%と最も多く
▽次いで「レジャーや趣味の遊興費」が63%
▽「服飾費」が61%
▽「水道・光熱費」が47%
▽「医療費」が19%などとなりました。

「常に不安つきまとう」家賃4倍値上がり 子育て世帯は

宮城県石巻市の災害公営住宅で暮らす杉山歩夢さん(30)は、家賃が年々上がって入居当初の4倍以上になり、病気を抱える子どもの治療費などが必要な中、今後の生活設計が見通せないと不安を感じています。

杉山さんは夫と10歳の長男、7歳の次男、3歳の長女との5人暮らしで、震災のよくとしに災害公営住宅に入居しました。

杉山さんは専業主婦で、家賃は当初9000円ほどでしたが、年々上がり、現在は4万円あまりになりました。

小さいころから病気を抱える次男が今月から4か月ほど入院するため、食費はずっとひと月4万円以下に抑えるなどやりくりしてきました。

今後、教育費や治療費などの支出が増えるため杉山さんは働きに出ることにしていますが、知り合いの共働きの子育て世帯で家賃が10万円以上に上がり、家賃の安い民間の住宅に引っ越しを迫られたことを知り、今後の生活設計に不安を抱えているということです。

杉山さんは「収入に応じて家賃が高くなることは理解していますが、子どもが成長し支出も増えていく中、どこまで家賃が上がるのか常に不安がつきまといます。家賃については、収入だけでなく支出も考慮するような基準を設けたり、上限を民間の相場並にしたりするなど、将来の生活を見通せる制度にしてほしい」と話していました。

入居期間や収入増で家賃上がる仕組み

災害公営住宅は、津波で自宅を失った人や原発事故により避難した人たちなどのために全国で3万戸が整備され、家賃は入居者の状況に応じて自治体が毎年、決定します。

入居期間が長くなったり、収入が増えたりすると家賃が上がる仕組みになっているため、子どもの成長に応じて、支出を増やそうと共働きを選ぶ世帯などで値上げの影響が大きいということです。

「借金だけ増えていく…」

アンケートの自由記述では、災害公営住宅の家賃の上昇に戸惑う記述が多くありました。

岩手県釜石市の50代の女性は「預貯金の取り崩しをして生活しています。パートの給与ではなかなかくるしいので、週末も別のパートをしていますが、所得が少しでも増えると家賃があがります。借金の返済などあります。手もとに残るお金が少ないです。働いた分だけ支出がふえているようです」と書きました。

岩手県大船渡市の40代の女性は「災害公営住宅の家賃が高すぎます。働く世代がいなければ税収だって見込めないのに追いだすことが前提のような家賃の値上げ。被災したからこそ、住まいを求めて災害公営住宅に入居したというのに」と書きました。

また仙台市の50代の男性は「復興するための住宅が家賃高騰、なんとか生活を立て直すために復興住宅に入り頑張るつもりが、逆に生活が苦しくなり引っ越しどころか、借金だけが増えていく」と記しています。

さらに宮城県多賀城市の災害公営住宅で自治会の役員を務める60代の男性は「家賃問題が重くのしかかって来ました。若い世代の住民の方が、1人また1人と今月も引っ越しをしていきました。自治会役員も3人ほど。だいじな役職でした。今後の自治会をになってくれる人たちだと思っていました」と不安をつづっていました。

専門家「本末転倒 家賃補助の問題考えていく必要」

アンケートの分析にあたった社会心理学が専門の兵庫県立大学の木村玲欧教授は「生活再建のために建設された災害公営住宅の家賃が上がった影響で、レジャーや衣服ではなく、食費という生活の根幹を切り詰めている結果は、生活再建のためという考え方からすれば本末転倒だ」と話しています。

働き盛りの世代が別の地域の家賃の低い民間住宅に転居するケースもあるということで、木村教授は「若い人たちが出ていってしまうことで、地域全体の復興のマイナスにもなってしまう。地域の未来のために家賃の補助の問題を考えていく必要がある」と指摘しています。