ゴーン容疑者の逃亡を手助けした米国人2人逮捕 日本に移送

日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン容疑者のレバノンへの逃亡を手助けしたとして拘束され、日本側に引き渡されたアメリカ人の特殊部隊の元隊員ら2人を乗せた航空機が、成田空港に到着し、2日夜、東京拘置所に移送されました。東京地検特捜部は、2人を犯人隠避の疑いで逮捕していて、逃亡の詳しい経緯について解明を進めることにしています。

成田空港に到着したのは、アメリカ軍の特殊部隊「グリーンベレー」の元隊員、マイケル・テイラー容疑者(60)と息子のピーター・テイラー容疑者(28)です。

2日未明、アメリカ・ボストンの空港で日本の検察当局の係官らに引き渡され、2人を乗せた航空機は、午後4時すぎ、成田空港に到着しました。そして夜10時前に東京拘置所に移送されました。

2人は、おととし12月、特別背任などの罪で逮捕・起訴され保釈中だった日産のゴーン元会長を大型のケースの中に隠してプライベートジェットに乗せ、レバノンへの逃亡を手助けした疑いがあり、東京地検特捜部は去年1月、犯人隠避と出入国管理法違反のほう助の疑いで逮捕状を取っていました。

2人について、アメリカの捜査当局は去年5月、東部・マサチューセッツ州で身柄を拘束し、国務省は10月、容疑者の身柄の引き渡し条約に基づいて日本側への引き渡しを認めました。

一方、弁護側は「不当な扱いを受けるおそれがある」などとして裁判所に差し止めを申し立てましたが、ことし1月に連邦地方裁判所が却下し、連邦控訴裁判所や最高裁判所も申し立てを退けていました。

特捜部は引き渡しを受けたあと2人を犯人隠避の疑いで逮捕していて、今後、本格的に取り調べ、ゴーン元会長の逃亡の詳しい経緯について全容解明を進めることにしています。
一方、特捜部は、ゴーン元会長についても、ICPO=国際刑事警察機構を通じて国際手配し、出入国管理法違反の疑いで逮捕状を取っていますが、レバノン政府は、これまで、「レバノンの滞在に法的な問題はない」という認識を示していて、日本に戻る見通しは立っていません。

マイケル・テイラー容疑者 「何も悪いことしていない」

AP通信は、2月1日、勾留中のマイケル・テイラー容疑者にインタビューを行ったとして音声を配信しました。

この中でマイケル・テイラー容疑者とされる人物は「考えてもみてほしい。何も悪いことをしていないのに、元検事がそう言うからといって刑務所に送るというのだ。こんなことで私や息子を日本に引き渡そうとするなんて、本当に裏切られたと感じる」と話しています。

テイラー容疑者親子 移送までの経緯

日産自動車の元会長カルロス・ゴーン容疑者は保釈中で海外渡航が禁止されていたおととし12月29日、大型のケースに身を隠してプライベートジェットで関西空港から不正に出国し、中東のレバノンに逃亡しました。

ゴーン元会長は保釈を取り消されるとともにICPO=国際刑事警察機構から国際手配され、東京地検特捜部は去年1月、出入国管理法違反の疑いで元会長の逮捕状を取りました。

また、特捜部は逃亡に協力したとして
▼アメリカ軍の特殊部隊、「グリーンベレー」の元隊員マイケル・テイラー容疑者(60)と
▼息子のピーター・テイラー容疑者(28)
▼ジョージ・ザイエク容疑者(61)のアメリカ人3人についても犯人隠避と出入国管理法違反のほう助の疑いで逮捕状を取りました。

日本側の要請を受けたアメリカの捜査当局は去年5月、テイラー容疑者と息子の身柄を東部マサチューセッツ州で拘束し、東京地方検察庁は日本とアメリカの間で結ばれている条約に基づいて2人の身柄の引き渡しを要請しました。

弁護士は、引き渡しを認めるかを審理する裁判所の手続きの中で、保釈中の人物が逃走すること自体は日本では犯罪ではないため、逃走を手助けしたとされる行為も違法ではないと主張して、釈放を求めましたが、裁判所は去年9月、身柄の引き渡しを認め、アメリカ国務省も去年10月27日付けで日本側への引き渡しを認めました。

日本への引き渡しについて弁護側は「不当な扱いを受けるおそれがある」などとして裁判所に異議を申し立てたため移送の手続きは差し止められていましたが、ことし1月に連邦地方裁判所が却下し、2日までに連邦控訴裁判所や最高裁判所も申し立てを退けていました。

この事件では、日本からプライベートジェットを運航して逃亡を手助けし、ゴーン元会長を密航させた罪に問われたトルコの民間航空会社の元営業部長とパイロット2人の合わせて3人が先月24日、現地の裁判所でいずれも禁錮4年2か月の実刑判決を受けています。

公表された事件の内容

東部マサチューセッツ州の裁判所にアメリカの検察当局が提出した文書によりますと、2人のうち息子のピーター・テイラー容疑者は、ゴーン元会長が逃亡する5か月前のおととし7月以降、12月上旬までの間に、少なくとも3回、日本を訪れ、元会長と7回面会していたとしています。

そして、ゴーン元会長が逃亡する前日の12月28日に再び日本を訪れ、都内のホテルで元会長とおよそ1時間、会っていたということです。

一方、父親のマイケル・テイラー容疑者は、逃亡当日の12月29日午前10時すぎに、共犯とされるジョージ・ザイエク容疑者とともに、UAE=アラブ首長国連邦のドバイからプライベートジェットで関西空港に到着したということです。

その際の様子をとらえた防犯カメラには、マイケル・テイラー容疑者ら2人が音楽機器の入れ物のような2つの大きな箱を抱えて入国する様子が映っているということです。

裁判所に提出された関西空港のプライベートジェット専用施設の従業員の供述調書によりますと、マイケル・テイラー容疑者とみられる人物は入国した際、「私たちはバイオリニストで、きょう大阪市内で演奏する予定だ。しかし、明日どうしても遅れてはならない会議があるため、できるだけ早く出国したい。東京オリンピックを観戦するために、また日本に来たい」などと話していたということです。

このあと2人は関西空港近くのホテルにチェックインしたあと、新大阪駅から東京に向かい、29日の午後3時以降、都内のホテルで、ゴーン元会長やピーター・テイラー容疑者と合流したとしています。

そして、ピーター・テイラー容疑者が、成田空港から中国に向かう一方、マイケル・テイラー容疑者ら2人は、ゴーン元会長とともに大阪に向かい、午後8時すぎに、チェックインしていたホテルに入ったということです。

ところが、およそ2時間後の午後10時前に部屋を出るときにはゴーン元会長の姿はなく、午後11時すぎ、マイケル・テイラー容疑者らは、プライベートジェットで経由地のトルコに向けて関西空港を出発したということです。

マイケル・テイラー容疑者は去年2月にドバイからアメリカに帰国し、3月には息子のピーター・テイラー容疑者も、同じくドバイからアメリカに帰国したということです。
また裁判所が公表した文書によりますと、ピーター・テイラー容疑者側には逃亡前のおととし10月から逃亡後の去年5月までにゴーン元会長とその息子からいわゆる仮想通貨=「暗号資産」を含め、合わせておよそ1億4400万円相当が送金されていたということです。

マイケル・テイラー容疑者 手口と動機

ゴーン容疑者の逃亡を手助けしたとして、アメリカから日本の検察当局に引き渡されたアメリカ人の親子のうち、父親のマイケル・テイラー容疑者は去年7月、アメリカの「バニティ・フェア」誌のインタビューで手口の詳細や動機を語っていました。

それによりますと、マイケル容疑者は、まず空港警備やIT、警察事情などに詳しい人物を集めたチームを作り、ゴーン容疑者の年齢なども考慮した結果、船ではなく飛行機で脱出することを決めたということです。

そしておととし12月29日、ゴーン容疑者を音響機器用の箱に隠れさせて関西空港からチャーター機でトルコのイスタンブールに向かいました。

関西空港を選んだ理由について、マイケル容疑者は、日本国内の5か所の空港を調べたところ、関西空港には逃亡に使われた大きさの箱をスキャン検査できる機械がない「重大な欠陥」があることがわかったからだとしています。

実際、ゴーン容疑者が隠れた箱だけでなく、マイケル容疑者らの手荷物も検査を受けなかったということです。

また、この計画を引き受けた動機については、お金が目的ではなく、ゴーン容疑者の日本での勾留中の扱いに問題があると感じたからだとしています。

レバノンのベイルートで会ったゴーン容疑者の妻から、日本での勾留中の扱いは「捕虜のようだった」という話を聞いたことに加え、日本の司法制度では弁護士との接触を制限されたり長期間勾留されたりすることがあると知り、ゴーン容疑者が「人質だと感じた」ということです。

そして、計画を実行した理由について、みずからが所属していたアメリカ軍の特殊部隊のモットーを引用して「抑圧からの解放」だと述べたということです。

専門家 「無罪主張 得策ではない」

ゴーン容疑者の逃亡を手助けしたとして、アメリカ人の親子がアメリカから日本の検察当局に引き渡されたことを受けて、弁護士で駿河台大学名誉教授の島伸一氏は、犯人隠避の容疑について罪を認めるかどうかが重要な分岐点になるとしたうえで、「今回の件では防犯カメラで追跡されるなど記録が残されていて、証拠は十分にあると考えられるので、無罪を主張して争うのは得策ではないのではないか」という見解を示しました。

そのうえで、「罪を認めて反省しないと刑は軽くならない。日本の司法制度を批判してもよい結果には結び付かない。国民が関心を持っている事件でもあるので、ありのままの事実を話すことが大切ではないか」と指摘しています。

またゴーン容疑者への影響について、「2人が日本で裁判を受けるからといってゴーン容疑者の身柄が日本に引き渡されるとは考えづらく、ほとんど影響はないだろう」という見方を示しました。

ゴーン容疑者の現在と捜査

日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン容疑者は、おととし12月に逃亡した中東レバノンの首都ベイルートにある高級住宅街などで暮らしているとみられます。

これまでのところ、自身のウェブサイトやツイッターにはテイラー容疑者親子の日本側への引き渡しについての言及はありません。
ゴーン元会長は、去年9月、ベイルート郊外の大学で、経営学の講座の支援などを発表した際、テイラー容疑者親子についても記者から質問されましたが「話をそらしたくない」などと応え、事件については何も語りませんでした。

一方、ゴーン元会長の逃亡をめぐってレバノンへの経由地となったトルコでは、2月、プライベートジェットを運航して逃亡を助けたとして、密航させた罪に問われたトルコの民間航空会社の元営業部長ら3人に対し、裁判所は、いずれも禁錮4年2か月の有罪判決を言い渡しました。

また、フランスの司法当局は、自動車メーカー、ルノーの資金を流用したなどとする疑惑をめぐってことし1月にレバノンでゴーン元会長を事情聴取する予定でしたが、現地での新型コロナウイルスの感染拡大を受けて延期となっています。

一方、レバノンの司法当局は、去年1月、日本から要請を受けたICPO=国際刑事警察機構の国際手配に基づき、本人から事情を聞いたうえで、当面、国外渡航を禁止しましたが、捜査は保留の状態にあるとしています。

日本とレバノンとの間では容疑者の身柄の引き渡しに関する条約が結ばれておらず、レバノン政府はこれまで、ゴーン元会長は合法的な書類を持って入国しており、レバノンでの滞在に法的な問題はないとの認識を示しています。