びわ湖で“最後のレース”

国内で最も歴史のあるマラソン大会が、ことし大きな節目を迎えます。28日に滋賀県で行われる「びわ湖毎日マラソン」。
戦後まもない昭和21年に始まった大会は、その後、オリンピックや世界選手権の代表選考レースにもなり、国内外のトップランナーたちが熱戦を繰り広げてきましたが、「大阪マラソン」との統合が決まり、びわ湖の湖畔を走る現在のコースで開催されるのは、ことしが最後となるのです。

“裸足のアベベ”が快走

昭和21年に始まった大会。当初は大阪が舞台でした。
昭和36年の第16回大会は、前年に開かれたローマオリンピックで、裸足で走って金メダルを獲得したアベベ・ビキラさんが招待選手として出場したのです。
沿道は『裸足のアベベ』を一目見ようという人たちであふれかえりました。
当時は、6月に開催され、気温26度、湿度77%と高温多湿の悪条件でもアベベさんは圧倒的な走りを見せて優勝しました。
アベベさんは、びわ湖が舞台となった4年後の大会で優勝し、その光景は地元滋賀の人たちの心に今も焼き付いています。
(※画像は1960ローマオリンピック 裸足で走って金メダルを獲得したアベベさん)

瀬古さんの嫌な思い出

日本選手では、昭和63年の第43回大会に出場した瀬古利彦さんを忘れてはなりません。
現在、日本陸上競技連盟のマラソン強化戦略プロジェクトリーダーを務める瀬古さんは、前年、ソウルオリンピックの代表選考会と位置づけられた福岡国際マラソンをけがのため欠場しました。

このため、びわ湖のレースがオリンピックの出場権を得る最後のチャンスでした。プレッシャーがかかるなか、瀬古さんは、びわ湖特有の風などに苦しみながらも、2位を3分近く引き離して優勝し、代表の座をつかみました。
ただ、2時間12分台の平凡な記録だったため、すっきりしない形でオリンピックの代表となり、厳しい批判も受けました。

瀬古さんは「いい思い出がない」と冗談めかして振り返りますが、間違いなく見る人の記憶に残る大会となりました。

五輪代表選手の契機にも

平成に入ってからも、びわ湖を舞台にトップランナーたちが力を発揮してきました。

平成15年の第58回大会では、当時21歳の藤原正和さんが日本選手トップの3位に入り、現在も初マラソンの日本最高記録として残る2時間8分12秒で世界選手権の代表を射止めました。
平成30年の第73回大会には、後に東京オリンピックの男子マラソン代表に内定した中村匠吾選手が出場。
日本選手トップとなる7位となり、MGC=マラソングランドチャンピオンシップへ進出しました。
中村選手は、このレースが初マラソンで、まさにびわ湖を足がかりにオリンピックへの道を切り開きました。

最後に名前を刻むのは誰?

偉大な先人たちが歴史を紡いできたこの大会。
大会の価値を高めるため、市民マラソンとして注目を集める大阪マラソンとの統合が決まり、びわ湖の湖畔を走る現在のコースで争われるのはことしで最後となります。
出場を予定していた選手の中で、最も注目されていたのは、東京オリンピック代表の座をつかんだ中村選手でしたが、大会1週間前に万全な状態でないとして、欠場が発表されました。

ただ、ほかにも魅力あふれる選手が顔をそろえます。

川内優輝 人生の節目に

その1人が世界選手権に4回出場し『最強の公務員ランナー』と呼ばれた33歳の川内優輝選手です。
今回で5回目の出場、びわ湖毎日マラソンは人生の節目にあった大会と語ります。

特に、プロ転向を決めて臨んだおととし、2019年の大会では、2時間10分を切れないような状況が続き、本当にプロになっていいのかという迷いもあった中で、スタートラインに立ちました。
それでも持ち前の粘り強い走りで、2時間9分台をマークして、世界選手権の代表入りを決めました。
公務員10年の締めくくりにすごくいい走りができ、こういう力があるんだから、これからプロになってもっともっと記録を伸ばせるぞと感じることができたレースだったと振り返ります。

下村悟 自信や誇り

もう1人は、地元、滋賀県出身の下村悟選手。今回で18回目の出場、年齢はなんと46歳です。
びわ湖毎日マラソンは、トップ選手を対象にした大会のため、2時間30分以内という出場資格が設けられています。高い実力を維持し続けなければ、スタートラインに立つこともできません。

住宅建材の工場で働く下村選手は、練習時間も限られる中、毎年、このレースへの出場を最大の目標にトレーニングして、出場を続けてきました。
「堅実な走りと粘りでしっかり帰ってくる」をモットーに、これまでの17回はすべて完走。「目をつぶっていても走れるくらいコースが頭に浮かぶ」とも話し『ミスターびわ湖』と言っても過言でないランナーは、誇りを胸に最後のびわ湖路を走ります。

大会を支える人たちも

半世紀にわたってびわ湖で行われてきたレースは、多くの人に支えられてきました。

選手たちを先導する滋賀県警交通機動隊の白バイ隊員も特別な思いで大会を迎えています。
ことし重要な役割を担うのは、ともに27歳の西村公平巡査長と早川真多巡査長です。
2人は同じ高校の野球部で甲子園を目指して苦楽をともにしてきました。当日は西村巡査長が後方の選手との距離を確認し、早川巡査長が先の安全確保を行います。
西村巡査長
「高校の同級生と一緒に先導するというのは夢にも思ってませんでした。大会は僕たちじゃなく、やはり選手がメインになりますので、僕らはサポートという意味でしっかりやっていきたいと思ってます」
マラソンは主役はもちろん選手たちですが、ランナーの安全を懸命に守りながら先導する2人の白バイ隊員にも少しだけエールを送っていただけたらと思います。

沿道での観戦自粛を

大会は28日午前9時15分に滋賀県大津市の皇子山陸上競技場をスタートします。

大きな節目を迎える大会。NHKは総合テレビやラジオ第1で中継するほか、NHKプラスでもお楽しみいただけます。

新型コロナウイルスの感染対策で、沿道での観戦は自粛が求められていますが、選手や地元の人たちの思いを感じ取ってほしいと思います。