東京パラ開幕まであすで半年 6割以上の競技団体“開催に不安”

東京パラリンピックの開幕まで24日で半年となるのを前に、NHKがパラリンピックの競技団体にことしの大会開催について尋ねたところ、不安を感じているという団体が6割以上にのぼることがわかりました。新型コロナウイルスの影響や開催の賛否が分かれていることが主な理由で、政府や大会組織委員会などはコロナ対策を進め国民の理解を得ることができるか問われることになります。

NHKは東京パラリンピックの開幕まで半年となるのを前に今月、国内26の競技団体を対象にアンケート調査を行い25の団体から回答を得ました。

この中で、ことし8月の東京パラリンピックの開催について尋ねたところ「不安」「少し不安」と答えた団体が合わせて64%にのぼりました。

理由としては新型コロナウイルスの影響が最も多く「多くの人が集まることで感染拡大のおそれがある」とか「試合と感染対策の両方に集中しなければならず、大きなストレスになる」といった声がありました。

また、大会開催に対して世論の賛否が分かれていることに対する不安も多く、「メダル獲得を喜んでもらえるのか、選手へのネガティブな声が出てこないか心配」とか「組織委員会の森前会長の発言などで世論がますます厳しくなっている」といった意見もありました。

さらに、ことしの開催に欠かせないことを尋ねたところ、
▽国内の感染者数の減少が80%で最も多く、
次いで
▽ワクチンなどの感染対策が76%、
▽国民の理解、選手への共感が68%、
▽すべての国・地域の参加と選手の公平な選考が
いずれも56%となりました。

一方で
▽会場の観客が欠かせないと答えたのは20%、
▽開閉会式、聖火リレーなどのイベントは12%にとどまり、
競技団体の多くが観客の制限やイベントの縮小はやむをえないと考えていることが明らかになりました。

政府と東京都、組織委員会は残る半年でコロナ対策を進め、国民の理解をどこまで得ることができるか問われることになります。

“実戦経験の不足” 9割近くに

また、アンケート調査では実戦経験の不足をあげた団体が9割近くにのぼり、大会の中止が相次ぐ中、選手の強化が進まない実態が浮き彫りになりました。

この中で新型コロナウイルスの選手への影響について尋ねたところ、
▽実戦経験の不足が88%にのぼり、
次いで
▽練習不足・調整の遅れが60%と、
大会が半年後に迫った今も強化が思うように進んでいないことがわかりました。

さらに
▽練習場所の確保が困難と答えた団体も48%にのぼり、
以前から練習場所の不足に悩んできたパラ競技が施設の利用制限でさらに厳しい状況に陥っていることが明らかになりました。

また、大会の開催に世論の賛否が分かれていることの影響を尋ねたところ、
▽「開催が不透明で選手が不安を覚えている」が52%で最も多く、
次いで
▽「合宿や大会を行いづらくなり強化が進まない」が32%、
▽「スポンサーの獲得が難しくなり、運営面に影響がある」が28%と、
選手の精神面や強化や運営など多くの影響が出ていることがわかりました。

各競技では専門家による選手への定期的なカウンセリングなどが行われていますが、大会まで残り半年の間に練習機会や実戦経験を確保して強化を進め、選手の不安をどこまで取り除いていけるかが課題になります。

パラ専用施設 コロナ軽症患者の療養施設に

東京 品川区のスポーツ施設「パラアリーナ」は東京パラリンピックに向けてパラ競技の強化を進めるため3年前に日本財団が開設したもので、国内では数少ないパラ専用の施設です。

シャワーやロッカーなどもバリアフリーの設計でトレーニング用の機材なども充実していることから、比較的障害の重い選手がプレーするボッチャからパワーリフティングまで、さまざまな競技が練習の拠点にしていました。

また、車いすラグビーや車いすバスケットボールなどは床に傷がつくとして一般の体育館の利用を断られることがあるため頻繁にこの施設を利用していました。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて軽症患者の療養施設に転用され、去年3月から練習拠点として使えなくなりました。

体育館の中は一時、多くの仕切りとともに100床のベッドが設置され、現在も隣接する駐車場に14棟のプレハブの建物が並び、軽症や無症状の患者が入所しています。

新型コロナウイルスの流行が続く中で選手たちは1年近く、主要な練習拠点が使えないまま強化に取り組んできました。

パワーリフティング 強化拠点が臨時の療養施設に

東京パラリンピックを目指す選手たちは、新型コロナウイルスの影響で練習場所を失ったりモチベーションが低下したりするなど大きな影響を受けています。

このうち足などに障害のある選手が行うパワーリフティングは強化の拠点としていた都内のパラ競技専用の体育館が去年の春、新型コロナウイルスの軽症患者の臨時の療養施設に転用されました。

この体育館を拠点に練習していた男子65キロ級の奥山一輝選手(23)は去年2月に日本記録を更新し、東京パラリンピックを本格的に目指すやさきに練習場所を失いました。

奥山選手はその後、ホームセンターで買った普通のダンベルや鉄パイプを使って自宅での個人練習を余儀なくされました。

パワーリフティングは個人競技ですが、強化にはライバルと競い合ったり専門のコーチから指導を受けたりすることが欠かせないということで、奥山選手も一時は上げられるバーベルの重量が20キロほど落ちました。
このため競技団体は、全国にいる選手たちにトレーニングの動画をSNSに投稿してもらい選手どうしがライバルの動画を確認したり動画を見たコーチからアドバイスをもらったりする仕組みを整えました。

今月、奥山選手が都内で行ったトレーニングでは、バーベルを上げる様子を競技団体のスタッフがさまざまな角度から撮影して投稿し、イギリスでその動画を見たコーチから届いたフォームの改善点などを奥山選手に伝えていました。

こうした取り組みの結果、奥山選手は練習再開後、4か月ほどでみずからの日本記録を10キロ更新したほか、先月行われた全日本選手権でも動画投稿の仕組みを活用した若手選手たちが記録を伸ばしたということです。

奥山選手は「練習場所が使えなくなったときは途方に暮れたし練習を再開するときも『以前より細くなった』といちばん言われたくないことばをかけられ、悔しくてたまらなかった。今は動画を見たコーチが近くで見ていたかのように的確な指摘をくれるし、ほかの選手の動画にも刺激をもらえるので、スマホがなければ強くなれないと思うくらい、頼りにしている」と話していました。

日本パラ・パワーリフティング連盟の吉田進 理事長は「集まって練習できない状況が続いて困ったが、この競技の対策としてオンラインの活用は非常に効果的だった。コロナ禍で工夫をして選手にいい環境を与えられた国が強くなっていくと思うので、この先も工夫を重ねていきたい」と話していました。

密は不可避 視覚障害者の柔道は

パラリンピック競技の中には競技の特性から密の状態が避けられず感染リスクが高いものがあり、選手の練習と実戦経験の不足が課題になっています。

柔道は選手全員が視覚障害者のため互いに組み合った状態で試合が進められ、練習でも選手どうしの接触が増え、密の状態は避けられません。

ほかにも視覚障害があるため手で周囲の物に触れる機会が多く、どうしても感染のリスクが高くなります。

このため、日本視覚障害者柔道連盟は選手の感染を避けるため去年3月の強化合宿を最後に代表の活動や大会もとりやめました。

こうした中、女子52キロ級で東京パラリンピック出場を目指す藤原由衣選手(28)も練習と実戦経験の不足に直面しています。

去年、感染が拡大すると相手と組み合う練習が禁止され、練習時間も1時間以内に制限されたため自宅で筋力トレーニングなどをするしかなかったということです。
一時は地元の岐阜県から県外への出稽古も禁止されたため練習相手が見つからず、実戦形式の練習もままなりませんでした。

こうした状況を受け、連盟では感染対策を徹底したうえで今月、およそ1年ぶりに滋賀県で強化合宿を再開し女子選手4人が参加しました。

合宿で選手たちは
▽全員がPCR検査を受けたうえで
▽道場に入る前の検温と
▽練習中にも選手の手足や顔、畳をこまめに消毒するなど
感染対策に取り組んでいました。

連盟は今後も移動による感染リスクを下げるため地域ごとに分散して強化合宿を開く計画です。

藤原選手は「ふだんは1人の練習やトレーニングが多くてさみしい部分もあったしつらいときも1人で乗り越えないといけなかった。合宿ではまわりの切さたく磨している選手たちと一緒に練習できて有意義な時間だった」と話していました。

重症化のおそれ 練習に制約受ける選手も

東京パラリンピックを目指す選手の中には新型コロナウイルスに感染した場合、障害によって重症化するおそれがあるとして練習に制約を受けている選手が少なくありません。

リオデジャネイロパラリンピック、ボッチャの団体で銀メダルを獲得し東京パラリンピックの代表にも内定している藤井友里子選手(48)もその1人です。

藤井選手は脳性まひの障害があり、感染すると重症化する不安があるとして去年の感染拡大時は外出をできるだけ控えていました。

専門家によると脳性まひなどの障害がある選手は呼吸器などの機能が弱い人もいていったん感染すると肺からウイルスが排出されにくいため重症化しやすい傾向があるということです。

藤井選手の練習は自宅の玄関先にシートを敷いてボールを投げるなど厳しい制約を余儀なくされました。

都内のナショナルトレーニングセンターなどで予定されていた代表チームの強化合宿も半年間にわたって中止され、去年秋の再開後も藤井選手は自宅がある富山から都内に出向くことを諦め、地元の体育館で練習せざるをえませんでした。

こうした選手が全国にいることから日本ボッチャ協会は選手の地元やホストタウンになっている自治体に協力を依頼し、新たに全国5か所に練習拠点を作る取り組みを始めました。

このうち藤井選手の地元の富山県魚津市では体育館の一角に早ければ来月にもボッチャの専用コートが新たに整備されることになり、担当者が現場の確認を行いました。

藤井選手が現在、練習している体育館は長年、別の競技で使われていて床に傷や凹凸があり、ボールの転がりに影響が出ていました。

新たに整備される専用コートはパラリンピック本番でも使われる特殊な床材が使われるうえ、選手が練習のために遠方まで出向く必要がないため練習環境が格段に向上するということです。

藤井選手は「重症化リスクが高いと言われているのが不安で東京や大阪での合宿参加が難しくなってしまったが、地元が新たな拠点となれば人と接触する可能性がある公共交通機関を使う必要がなく安心して練習に取り組める。パラリンピック本番と同じコートが使われるため、ボールの転がり方や弾み方の確認がより実戦に近いものになりありがたい」と話していました。

魚津市教育委員会生涯学習・スポーツ課の政二弘明課長は「藤井選手にはこの拠点を本拠地として頑張ってほしい。市としても子どもからお年寄りまですべての世代の市民ができるボッチャを通して健康づくりの拠点にしたい」と話していました。