WHO 武漢調査チームリーダー「初期にはすでに感染拡大の兆候」

中国の武漢で、新型コロナウイルスの発生源などを調査したチームのリーダーを務めたWHO=世界保健機関の専門家が、NHKの単独インタビューに応じ、武漢では初期の患者が確認されたおととし12月の時点で、これまで報告されていたよりも感染が広がっていたことを示す明確な兆候があったと述べました。そして、発生源を解明するには、中国側がさらに情報を提供する必要があるという認識を示しました。

WHOの調査チームは、先月から今月にかけて武漢を訪れ、感染拡大の初期に多くの患者が確認された海鮮市場を視察したほか、患者の治療にあたった医療関係者に聞き取りを行うなどして、ウイルスの発生源について調査しました。

調査チームのリーダーを務めたWHOの専門家で、デンマーク出身のピーター・ベンエンバレク氏は、15日にスイス・ジュネーブのWHO本部からNHKの単独インタビューに応じました。

この中で、ベンエンバレク氏は「中国側は、調査チームが到着する前に多くの研究をすでに終えていた。それらを一緒に再調査したが、より多くのデータを見て深く分析したかった」と述べ、中国側は調査チームに対し、一定のデータを提供したものの、発生源を解明するには、中国側がさらに情報を提供する必要があるという認識を示しました。

また、武漢での新型コロナウイルスの感染の拡大について「おととし12月には、これまで報告されていたよりも感染が広がっていたことを示す明確な兆候があったことを証明することができた」と述べました。

その根拠についてベンエンバレク氏は、中国側のデータを分析した結果、おととし12月に報告された174人の感染者は、いずれも重症化した患者とみられ、これ以外に、当時は報告されなかった軽症や無症状の感染者がより多くいたはずであることや、武漢とその周辺地域で去年1月の第3週に死亡した人が、例年に比べて急激に増えており、この時期に亡くなった人の多くが12月の後半に感染していた可能性があることなどを挙げています。

一方で、「12月よりも前の段階では武漢でも、ほかのどの場所でも広い範囲での感染を示す明確な兆候は見つけられなかった」と述べました。

そして、武漢市内の海鮮市場については「市場で売られていた、いくつかの動物は新型コロナウイルスのようなウイルスに感染しやすいことが分かった。そして、これらの動物は、過去に別のコロナウイルスが確認できた地域から持ち込まれたものだということも分かった」と述べ、当時、市場で扱われていた動物の流通ルートの詳細な調査が欠かせないという考えを示しました。

そのうえで、今回の調査で当時、動物を扱っていた10の業者を特定したことを明らかにしたうえで、「次に調査する機会があれば、これらの業者を訪ね、扱っている動物を確認することで、どのような感染経路が考えられるのか、手がかりが得られるかもしれない」と述べました。

さらに今回の調査では、輸血などに使う血液を保管する武漢の血液バンクに、2018年以降のおよそ20万点の血液サンプルが残されていることも分かったということです。

こうした血液を調べることは、新型コロナウイルスの感染が、いつごろから始まったのか分析するのに有効だとして、WHOとして中国側にデータの提供を求めていることも明らかにしました。

WHOは現在、調査の報告書をまとめていて、必要があれば再び武漢入りも検討したいとしています。

しかし、中国側が調査チームの求めるデータをさらに提供するのかや、求められた場合に再度の現場調査に協力するのかどうかなど、依然、不透明な点が多く、発生源の解明は難航するという見方も出ています。