地震計が捉えたコロナの影響 活動抑制でノイズ減少

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出の自粛や社会・経済活動の抑制、街の変化が首都圏に多数設置されている地震計に捉えられていました。研究機関の分析では車や人々の往来、工場の操業などに伴って生じるわずかな振動が去年の春に大幅に減少し、2度目の緊急事態宣言が出されたあとは23区内を中心に再び減少傾向になっていることがわかりました。

地震学が専門で、産業技術総合研究所の矢部優研究員のグループは東京や神奈川など1都5県に設置されている首都圏地震観測網=MeSO-netの去年1月以降のデータを分析しました。
地震計は地震の揺れ以外にも、車の走行や街中の雑踏、エアコンの室外機の稼働などに伴う振動も記録しており、ふだんは「ノイズ」として処理されています。
分析の結果、この「ノイズ」は去年4月にはおよそ290ある地震計のほとんどで新型コロナの感染拡大前の去年1月の水準を下回り、場所によっては20%から30%程度、新宿付近では50%程度も下回っていました。
「ノイズ」はその後も多くの地点で減少傾向が続き、2度目の緊急事態宣言が出された先月は、去年1月と比べて5%以上下回っていたのが東京23区を中心に全体の4分の1にあたる72地点に上りました。

一方、郊外などにある地震計では平年の水準を上回っているところもあり、車の通行量や在宅勤務が増えた可能性もあるとしています。
産業技術総合研究所の矢部研究員は「ノイズの減少は人の活動が低下していることの表れで、街がふだんよりも静かになっていることが伺える。地震本来の揺れを観測するうえでは望ましいことだが、これほどの大きなノイズ変化が続くことは異常な事態だ」と話していました。

地震計が観測する「ノイズ」の減少は海外でもアメリカや中国などいわゆるロックダウン=都市封鎖を行った時期を中心に報告されていて、研究グループでは今後の推移も注視したいとしています。

“耳印”減って孤立する視覚障害者

「ノイズ」の減少にみられるように社会活動がおさえられることは感染拡大を防ぐうえでは歓迎されることかもしれません。

しかし、そうした「ノイズ」の元となる生活の中のさまざまな音を日々頼りにしている視覚障害者の中には孤立を感じている人もいます。
東京・豊島区で暮らす市原寛一さん(54)は20年前、事故で視力を失いました。

強度の弱視で全盲に近く、通勤や買い物などの際は白じょうのほか、車のエンジン音や人の足音を頼りにしていますが、駅前を行き交う車の数や人混みが減って歩道や車道の位置がわかりにくくなったといいます。
交差点では周囲の車の音や足音がうまく聞こえず、信号を渡るタイミングを逃したり逆に赤信号で横断歩道に飛び出したりしてしまうこともあるということです。

また、街中では店のBGMや換気扇、自動販売機の音などを今いる場所を知る手がかり、“耳印”として記憶していたものの閉店や休業する店も相次いでいるため、頼りにしていた“耳印”を失い、道に迷うことが増えたということです。

また、換気のために入り口の自動ドアなどを開けっ放しにする店では、開閉音がしなくなり入り口がわからなくなることもあるといいます。

市原さんは「コロナの前と後では人の動きや生活音の環境が様変わりし、今までの歩き方が通じなくなってしまいました。車通りが少なくなったと、一か八かで勝手な判断で渡るときもあり、とても怖さを感じます」と話しています。

そして、市原さんがコロナ禍で変わったことの中で、何よりも残念だとしているのが、人が人との接触を恐れるようになってしまったことです。

市原さんは「私たちが手伝ってもらうときはひじや肩を貸してもらうなど、どうしても接触の機会が多くなりますが、人が距離や間隔をあけて過ごすようになり『声かけ』などの日常的な支援も減っています。視覚障害者にとっては出歩きづらく、とても生活しにくい社会になったと感じます」と話していました。

消えた入り口 “2メートル” の配慮が救う

こうした中、視覚障害者が直面している困難に気付き、細かな配慮が実現したところもあります。
市原さんの自宅から程近い豊島南大塚郵便局では、去年の4月から営業時間中は入り口の自動ドアを開けたままにしています。

これまでは、扉が開閉するたびに防犯用に付けられた小さな鈴が鳴り、視覚障害者のいわば“耳印”となっていましたが、開けたままになったことで鈴が鳴らなくなり、郵便局の前を通り過ぎたり、立ち尽くしたりする視覚障害者が相次いだということです。

当事者からの要望もあり、郵便局が区などに相談したところ、去年11月に道路を管理する東京都が歩道の点字ブロックを増設しました。

また、郵便局でも歩道に設置されたブロックから建物のドアまでのおよそ2メートルの間に点字マットを敷き、迷わず中に入れるようにしました。

郵便局の利用者で、全盲の武井悦子さん(65)は「郵便局や店など近くまでは来られても、入り口がわからずウロウロしてしまうことが最近はよくあり、大変助かります」と話していました。

郵便局の福富裕人局長は「視覚障害のある皆さんがまさか鈴を頼りに局を利用しているとは知らず驚きました。設置後は安心して利用できるようになったという声をいただいています」と話していました。

自分たちでも声をかけてもらいやすい環境を

人と人との接触が避けられるようになり、先が見えない状況が続く中、視覚障害のある人たちも声をかけてもらいやすくする取り組みを進めています。
市原さんや武井さんたち視覚障害のある当事者でつくる豊島区の盲人福祉協会は去年11月、白じょうに貼るためのシールを300枚作りました。
「2・3分サポートしてください」と書かれ、助けが必要なときには白じょうを高く掲げて周りに示します。

武井さんは「嫌がられたらどうしようと、助けを求めるのをためらう視覚障害者もいます。コロナがあって皆さん不安だと思いますが、声をかけてくれるだけでもありがたいので1人でも手を貸してくれる人が出てくれたらうれしい」と話していました。

市原さんは「声をかけてもらいやすくなった実感があり、手応えを感じています。もし白じょうが上がっているのを見かけたら、ほんの少しの時間でいいので助けてほしいです」と話していました。

このシールは、豊島区の障害福祉課や社会福祉協議会で受け取ることができるということです。