アストラゼネカのワクチン 南アフリカ接種一時的に見合わせ

イギリスの製薬大手アストラゼネカなどが開発した新型コロナウイルスのワクチンについて、南アフリカの保健当局は、近く開始する予定だった接種を一時的に見合わせると発表しました。南アフリカで確認された変異ウイルスでは、軽度から中程度の症状を防ぐ効果が低い可能性があることを示す初期段階の臨床試験の結果が出たためだとしていますが、アストラゼネカは「重症化を防ぐ効果があると確信している」としています。

南アフリカ政府は去年12月、イギリスとは別の変異ウイルスを確認したと発表し、今月、アストラゼネカなどが開発したワクチン100万回分を輸入して、近く医療従事者に接種を始める予定でした。

しかし、ムキゼ保健相は7日夜、記者会見を開き、このワクチンは南アフリカの変異ウイルスでは、軽度から中程度の症状を防ぐ効果が低い可能性があることを示す初期段階の臨床試験の結果が出たとして、一時的に接種を見合わせると発表しました。

この臨床試験は地元の大学が比較的若い年代のおよそ2000人を対象に行ったものだということで、ムキゼ保健相は、今後、より詳しい研究が必要だと強調したうえで、ファイザーとドイツのビオンテックが開発したワクチンなどほかのワクチンを確保して、接種を進めていきたいという考えを示しました。

一方、アストラゼネカは「初期段階の臨床試験の結果では、南アフリカで確認された変異ウイルスに対し、軽度から中程度の症状を防ぐ効果は限定的だったが、試験に参加した人は主に若くて健康な人なので、重症化や入院を防ぐ効果については、確実に評価できない」とコメントしています。

そして「ワクチンは重症化を防ぐ効果があると確信している」としたうえで、すでにオックスフォード大学とともに南アフリカの変異ウイルスに対応したワクチンの研究を始めていて、ことしの秋には供給できるとしています。

南アフリカでは感染が確認された人が累計で147万人を超えるなどアフリカ大陸で最も深刻な状況で、ワクチンの接種開始をめぐり国民の関心が高まっています。

アストラゼネカは、日本政府との間で6000万人分のワクチンを供給する契約を結んでいて、今月5日には、日本国内での使用に向けて厚生労働省に承認を求める申請を行っています。

専門家「水際対策と変異株の監視に力を」

アストラゼネカなどが開発した新型コロナウイルスのワクチンについて、南アフリカで確認されている変異ウイルスに対しての効果が限定的だとする情報があることについて海外の感染症に詳しい東京医科大学の濱田篤郎教授は、「南アフリカやブラジルで確認されている変異ウイルスは、従来のウイルスや、イギリスで広がった変異ウイルスとは違い、免疫から逃げるような働きに関係する遺伝子の変異があることが知られていて、以前からワクチン接種による効果が得られにくいのではと懸念されていた。ただ、ワクチンは仮に発症防ぐ効果が十分でなくても重症化を抑えられるなら使う価値はあるので、効果の詳しい検証が必要だ」と指摘しました。

そのうえで日本の状況については「現時点で日本国内では、南アフリカやブラジルでみられるような変異株は広がっていないため、日本ではワクチン接種への影響は少ないと考えられる。ただ、今後、緊急事態宣言が解除されるなどして海外からの入国が増えると多くの変異株が入ってくる可能性があるのでより水際対策と国内での変異株の監視に力を入れる必要がある」と話していました。