北京五輪まで1年 テスト大会中止相次ぐ 米議会からは反対の声

来年、中国の北京で開かれる冬のオリンピックの開幕まで4日で、あと1年です。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、大会本番の会場で予定されていたテスト大会などが相次いで中止となったほか、今後の国際大会の見通しも不透明で、選手たちは、難しい調整を迫られています。

北京オリンピックは中国で開かれる初めての冬のオリンピックで、来年2月4日から20日まで17日間にわたって7つの競技、史上最多の109種目が行われます。

北京は、2008年に夏のオリンピックが開かれていて今回の大会で史上初めて夏と冬のオリンピックが開催されることになります。

大会組織委員会では競技会場や関連施設の整備は順調に進んでいるとしていますが、大会本番を前に現地で行われる予定だったテスト大会は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けてすべて実施されない状態が続いています。

このうち、フィギュアスケートでは、去年12月に北京で開かれる予定だった世界のトップ選手たちで競うグランプリファイナルが中止となりました。

このほか、オーストラリアで開かれる予定だった四大陸選手権も中止となるなど影響が出ていて、羽生選手は去年12月に行われた全日本選手権のあとのインタビューで、北京オリンピックについて「東京オリンピックもまだ開催されていない状況で冬のオリンピックのことを考えている場合ではないというのが僕個人の意見だ。僕にとってオリンピックは最終目標だが、本当にいろいろな方々がいろんなことを考えていろんな意見をされている中で、そこに向けてはシャットダウンしている」として先行きが見えない現状に戸惑いがあることを明らかにしています。

フィギュアスケート以外の競技でも国際大会の中止や延期は相次いでいて、選手や関係者にとっては1年先のオリンピック本番を見据えた調整や強化が難しいこれまで経験したことのないプレシーズンとなっています。

テスト大会中止 コロナ感染拡大で中国への入国制限影響

北京オリンピックのテスト大会をかねて行われる予定だった大会については、各競技団体などが新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、中国への入国に制限があり、今後も状況が不透明なことから相次いで中止を決めました。

スキー競技では、今月予定されていたスノーボードとフリースタイルの世界選手権、それに来月にかけて予定されていたジャンプ、ノルディック複合、クロスカントリー、アルペンのワールドカップなど、本番の会場での開催がいずれも中止となりました。

スピードスケートではテスト大会をかねて北京で行われる予定だった世界選手権がオランダでの開催に変更となっています。

日本スケート連盟は、この世界選手権について感染拡大が続いていることやオリンピックの代表枠がかかる大会ではないことなどから、日本選手を派遣しないとしています。

会場の整備状況は

北京オリンピック・パラリンピックは、中国の首都・北京と、北京郊外の延慶、それに北京に隣接する河北省張家口の、3つのエリアの合わせて12の競技会場で行われます。

国営メディアによりますと、会場はいずれも、去年の末までに完成しています。

主にスケート競技が行われる北京市内の会場は、2008年夏の大会で使われた競技施設や跡地を再活用するところが多くなっています。

このうち「国家スピードスケート館」は夏の大会のホッケーとアーチェリー会場の跡地に建設されました。

リンクの面積は1万2000平方メートルあり、先月から製氷作業が始まりました。

また、水泳の会場だった「国家水泳センター」、通称「ウォーターキューブ」は、カーリングの会場に改修され「アイスキューブ」と呼ばれるほか、体操などが行われた「国家体育館」は、アイスホッケーの会場として使われます。

一方、延慶と張家口ではスキーやそり競技が行われ、北京市内からそれぞれの会場まで高速鉄道が整備されました。

大会期間中、選手たちが滞在する選手村は3か所あり、このうち先月公開された北京市内の選手村では居住エリアの建物の建設が終わり、仕上げの内装工事が行われていました。

習近平国家主席は先月、これらの会場などを訪れ、施設の建設状況や大会に向けた選手たちの調整を視察したのに続いて、IOC=国際オリンピック委員会のバッハ会長と電話で会談し「準備を予定どおり進め、オリンピックが成功できると信じている」と述べ、大会の成功に自信を示しました。

政府主導で冬のスポーツ振興

中国は、卓球や体操、バドミントンなど人気、実力とも高い夏のスポーツに比べて、冬のスポーツは競技人口が少なく、前回のピョンチャンオリンピックで獲得した金メダルは1つにとどまりました。

こうした中、習近平国家主席は北京大会の開催が決まった2015年、冬のスポーツの愛好者を3億人に増やす目標を打ち出し、政府主導でスキーやスケートなどの振興を進めています。

先月、競技会場を視察した際にも「『体育強国』の建設は、社会主義現代化国家を全面的に築くうえで重要な目標だ」と述べ、中国の建国100年にあたる2049年を見据え、冬のスポーツの飛躍的な発展を目指す考えを強調しました。

習主席としては、競技のすそ野を広げることで国際大会で活躍できる選手を発掘して育成し国威発揚につなげるとともに、新たな産業の創出にもつなげたいねらいがあります。

中国では、冬のスポーツのインフラ整備が急速に進みつつあり、2000年に国内に50か所しかなかったスキー場は、おととしには770か所まで増えているということです。

経済効果も大きく、政府系のシンクタンクは今シーズン、冬のスポーツなどを楽しむレジャー客による観光収入は、3900億人民元、日本円で6兆3000億円を超えると予測しています。

北京郊外のスキー場では、新型コロナウイルスの感染への懸念が続く中、この週末も大勢のスキー客が訪れ、スキーを始めて3年になるという男性は「スキーは今の流行です」と話していました。

また、スキー板などの売り上げも伸びているということで、北京市内のスキー用品店の店長は「5、6年ほど前から、売り上げが明らかに増えている。オリンピック熱が高まり、自分の道具を持ちたいという愛好家が多い」と話していました。

懸念は運営面

北京オリンピック・パラリンピックに向けて競技会場などのインフラ整備が進む一方、大会関係者が懸念しているのが運営面です。

去年の末から来月にかけて、本番の会場で行われる予定だったスキーやスケートなどのテスト大会が新型コロナウイルスの影響で相次いで中止や延期となったためです。

組織委員会などは中国選手のみが参加するテスト大会の開催を検討していますが、国際大会を運営する手順を確認したり、課題を検証したりするための貴重な機会が失われ、1年後の本番での円滑な運営が不安視されています。

組織委員会の劉興華さんは、NHKの取材に対し「感染状況が改善しさえすれば国外の選手に中国に来てもらい、テストをしたい」と話しています。

また、組織委員会は、ことし夏に予定されている東京オリンピックとパラリンピックが新型コロナの影響で開けない事態になれば、およそ半年後の北京大会の開催にも影響が出かねないと懸念していて、劉さんは「東京大会が予定どおり行われ、われわれも順調に開催できることを望んでいる」と話しています。

新型コロナ 北京での感染状況は

中国は、新型コロナウイルスの感染拡大をほかの国に先駆けて抑え込んだとしてきましたが、先月は国内の市中感染で2000人を超える感染者が確認され、去年3月以来の高い水準となるなど、感染再拡大の兆しが見られました。

特に首都・北京では、イギリスで見つかっている変異ウイルスの感染者が確認されたほか、競技会場がある河北省でも感染が拡大し、当局が大規模なPCR検査を行うなど、対応に追われました。

一時は国内の1日当たりの感染者が100人を超える日が続きましたが、先週以降は徐々に減ってきています。

中国では、旧正月の「春節」に合わせた大型連休が今月11日から始まるのを前に、各地で帰省がすでに本格化していて、延べ11億人余りが移動すると見込まれています。

中国政府は、農村部に帰省する人などにはPCR検査を義務づけているほか、ことしはなるべく帰省しないよう呼びかけるなど、感染のさらなる拡大を防ぐため、警戒を強めています。

公式グッズ販売店 次第に増える

北京オリンピック・パラリンピックの開幕を1年後に控え、北京では大会の公式グッズを販売する店が次第に増えています。

競技会場に近い日系スーパーの中にある店には、40平方メートルのスペースに、文房具や衣類、バッジなど、さまざまな公式グッズが並んでいます。

中には、大会のマスコットで、パンダをモチーフにした「ビン・ドゥンドゥン」や赤い灯籠をモチーフにした「シュエ・ロンロン」のぬいぐるみや関連商品もあって、子どもたちが手に取ったりしていました。

公式グッズ店のある北京イトーヨーカ堂の長田哲・総経理は「週末を中心に家族連れやグッズ愛好家が訪れます。記念メダルなどの限定商品が人気です」と話していました。

人権団体や米議会から開催反対の声

来年の冬のオリンピックの中国、北京での開催には、中国の人権状況を問題視する人権団体やアメリカの一部から反対の声があがっています。

このうち、中国のチベットやウイグルなどを巡る人権状況の改善を訴える世界各地の180の人権団体は連名で各国政府にあてた公開書簡を公表し、「中国の人権侵害に反対の意思を示す役割を担うのは各国政府だ。各国がオリンピックをボイコットしないかぎり、中国共産党の独裁政治を支持し、人権問題を黙認していることを示すことになる」として、ボイコットを呼びかけました。

また、アメリカの連邦議会では2日、共和党の7人の上院議員が中国でのオリンピックの開催に反対する決議案を提出しました。

決議案では「中国政府が宗教や言論などをめぐる基本的な人権状況を大幅に改善させないかぎり、IOC=国際オリンピック委員会は来年冬のオリンピックの開催国を再検討する必要がある」としていて、決議案を提出したスコット上院議員は声明で「世界でもっともひどい人権侵害のある国で開催されるべきではない」と主張しています。