進むオンライン化 聴覚障害のある人とのやり取り 大切なことは

新型コロナウイルスの感染拡大で普及が進んだオンラインでのコミュニケーションについて耳に障害のある人はどう感じているのか。社団法人の調査で聴覚障害者の7割がメリットがあると回答した一方、不便を感じたと回答した人も同じ程度に上ることが分かりました。

調査は先月、社団法人の「ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ」がインターネットを通じて行い、聴覚障害のある10代から70代の会社員と学生合わせて111人から回答を得ました。

職場や学校などで普及が進んだオンラインでの会議や授業について尋ねていて、このうちよかったことがあるかという質問には68%が「ある」と回答しました。

具体的には大きな負担だった移動の必要がなくなったことやチャットなどの文字情報が増えたこと、マイクに向かってしっかり話す人が増えたことなどが挙げられていました。

一方で、オンラインのやり取りに不便を感じたことがあるかという質問でも「ある」と回答した人が72%に上りました。

アンケートの自由回答では、カメラをオフにしたまま話す人が多く口元や表情が見えず会話を理解しにくいとか、マスクをしている人の話はオンラインだと特に聞き取りにくい、話に入るタイミングが分からないといった記載が見られました。

調査を行った「ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ」の志村真介理事は「社会のオンライン化が進んだことで聴覚障害がある人にとっても利便性が高まる一方で、やり取りをする際にはさらなる工夫が必要な現状も浮き彫りになっている。障害がある人も参加しやすい会議や授業の在り方について職場や学校でもう一度考えてほしい」と話しています。

「コミュニケーションの方法 劇的に変わった」その一方で

調査を行った社団法人で働く聴覚障害のある松森果林さんも去年以降、企業とオンラインで打ち合わせをすることが増えました。

松森さんは障害の有無や国籍に関係なく誰もが利用しやすい「ユニバーサルデザイン」について企業へのアドバイスを行っていて、オンライン会議のメリットを感じています。

チャットや音声を認識して文字化するアプリなどの開発が進んだほか、理解がある企業では事前に手話通訳者を手配してくれるところもあり、会議に参加しやすくなったということです。

松森さんは「オンラインの普及でコミュニケーションの方法が劇的に変わってきている」と話しています。

一方で、チャットやアプリを使った文字のやり取りだけでは十分なコミュニケーションが取れず、「疎外感」を抱きやすいともいいます。

会議では自分の顔が写らないようカメラをオフにする人も多くいますが、聴覚に障害がある人にとって大切な情報となる相手の表情が見えないためストレスを感じてしまうということです。

また、チャットで会議の内容を理解してもどのタイミングで話し出せばよいか、会話の切れ目が分かりにくく、発言のタイミングをはかるのが難しく感じるということです。

松森さんは「会議が白熱するとどうしても聴覚に障害がある人は忘れられがちになってしまう。まずは障害がある人にどうすればコミュニケーションしやすいか希望を聞くことが大切だ。そのうえで、誰もができるちょっとした工夫をきょうからでも実践してほしい。それは障害がある人だけでなく誰にとっても利用しやすいコミュニケーションにつながると思う」と話しています。

オンライン会議の5つのポイント

この社団法人が聴覚障害者とともに考えたオンライン会議の5つのポイントです。

1 カメラはオン

まずは自分の顔が写るようにパソコンなどのカメラをオンにすることです。カメラをオフにしたまま顔を出さずに発言しがちですが、聴覚障害者にとって相手の表情は大切な情報です。音声を文字化するアプリを利用していても、顔が見えないと雰囲気やニュアンスが分からず、不安を感じてしまいます。

2 表情を意識して

2つ目は表情を意識することです。たとえば、売り上げを話題にする際、よい話の時は笑顔で、悪い話の時は困った表情を少し意識してみてください。会議がいまどんな雰囲気になっているか誰もが理解しやすくなります。口元を見て会話を理解する聴覚障害者もいるため、感染のリスクがないことを確認したうえでマスクを外せる場合は外してください。

3 突然話し出さないで

3つ目、いきなり話し出すことはしないでください。発言するときは挙手して進行役に指名されてからにしてください。チャットに書き込んでから話し出すのも配慮に満ちた方法です。

4 誰が話しているか明確に

4つ目は誰が話しているかを明確にすることです。特に複数で話している時、議論が白熱すると誰が何を話しているか分かりにくくなります。オンラインの会議では1人ずつ発言することを心がけてください。

5 身ぶり手ぶりを

5つ目は身ぶりや手ぶりを交えて話すことです。多少大げさにするくらいがちょうどいいといいます。同意する発言の際は画面に向かって手でマルを見せたり、反対ならバツを作ったりするだけで、はるかに分かりやすくなるということです。