“勤務先が謝罪要求”など 追い込まれる感染者 精神的ケア課題

新型コロナウイルスに感染した人が勤務先から謝罪を求められたり周りにうつさないか心配になったりして精神的に追い込まれている実態があることが当事者の証言などから明らかになりました。自宅で療養中の女性が自殺するケースも出ていて、専門家は感染者に対する精神的なケアの重要性を指摘しています。

勤務先から謝罪を求められた女性は

新型コロナウイルスに感染し、ホテルでの療養を終えた40代の女性がNHKに取材に応じ、勤務先の上司から謝罪を求められた経験を語りました。

関東地方に住む40代の女性は先月、急な発熱があったためPCR検査を受けた結果、新型コロナウイルスに感染したことが分かりました。

症状は比較的軽く、ホテルで療養することになりましたが、子どもの頃にぜんそくの持病があったことなどから、重症化するのではないかと不安な日々を過ごしたといいます。

しかし、勤務先の福祉関係の会社に感染を報告したところ、上司から「社内のほかの人たちもあなたからうつされたのではないかと不安な気持ちになった」と言われたということです。

女性は「『自分も死ぬかもしれない』と追い詰められている時にそのようなことを言われ、驚きとともにつらい気持ちになりました」と話しています。

さらに、ホテルでの療養を終えたことを電話で伝えた際には「出社できるようになったら迷惑をかけた人に謝罪をしてから仕事を始めてください」と指示されたほか、療養を終えて3週間がたった今も在宅勤務を命じられているということです。

女性は自宅以外での飲食を避けるなど感染対策をしていましたが、勤務先とのやり取りから「感染した人が悪い」という空気が広がっていることを実感し、ショックを受けたといいます。

女性は「体調が悪いのに責められて『ごめんなさい』と言わなければならない。新型コロナだけなぜ、感染した人が悪いということになるのでしょうか。支えてくれる友人や家族がいなければもっと追い詰められていたかもしれません。感染した人が『周りに迷惑をかけたから生きていたくない』などと思わずに済む社会になってほしいです」と話していました。

高齢の母親が暮らす自宅で療養の女性は

また、感染したあと、高齢の母親が暮らす自宅で5日間療養したという女性は「母親にうつしてしまうのではないかと不安で、申し訳ない気持ちばかりだった」と当時の心境を語りました。

都内に住む30代の女性は先月、会社の同僚が感染したことからPCR検査を受けたところ、みずからも陽性と判明しました。

70代の母親と2人で暮らしていた女性はホテルで療養することにしましたが、部屋の空きがなく、5日間、自宅での療養を余儀なくされたということです。

母親は高齢の上基礎疾患があるため、もし感染すれば命にかかわるのではないかと恐怖を感じたといいます。

女性は「私が感染したことで、母親もがっくりうなだれていました。うつしてしまうのではないかという恐怖と不安でいっぱいで、ウイルスを持ち込んでしまって申し訳ないという気持ちばかりでした」と振り返ります。

母親との接触を極力避けるため、女性は会話を電話に切り替えたり、ドアノブに触れるたびにアルコールで消毒したりと神経をすり減らす日々が続き、精神的に参ってしまったということです。

当時のツイッターには「母親が不安そうになってしまった。申し訳ない。年の瀬にどうなってしまうんだろう」といった投稿もあり、追い詰められている様子がうかがえます。

みずからが感染したことを責めるようになったという女性ですが、LINEでやり取りしていた友人の励ましが心の支えとなり、母親が感染することなく無事、療養を終えたということです。

女性は「私は症状は軽いほうでしたが、精神的にかなり不安定になりました。追い詰められると視野がどんどん狭くなるので、SNSなど気軽に触れられる場所に心のケアに関する相談窓口などがあればいいなと思います」と話していました。

専門家「精神面でのケア強化すべき」

都内では今月、自宅で療養していた30代の女性が「自分のせいで迷惑をかけた」というメモを残して自殺するなど、感染した人への精神的なケアが課題になっています。

精神保健福祉士の新行内勝善さんは、「感染したことで罪悪感を感じる人も多いが、感染者に対しては『何も悪くない』ということをしっかりことばにして伝えることが重要だ。特に自宅での療養者は周りの人との接触が断たれて孤立してしまうケースがあるが感染者を対象にした専用の相談窓口を設けるなど体調だけでなく精神面でのケアも強化すべきだ」と話しています。

神奈川 自宅療養者など対象の電話相談窓口設置

NHKが全国の都道府県や政令市などに取材したところ、新型コロナウイルスに感染した人の精神的なケアについてはまだ取り組みを十分に行っていないという自治体がほとんどでした。

一方で、神奈川県は自宅で療養している人やその家族を対象に臨床心理士などが対応する専用の電話相談窓口を去年5月から設けています。

およそ9か月間で600件近くの相談が寄せられ、今月に入って特に増えているということです。

中には「自宅療養が終わり仕事に復帰しようと思うが勤務先から必要以上に検査を求められている」「感染したあと職場の対応が不誠実で困っている」「子どもが感染したが、いじめられないか心配だ」などといった内容もあるということです。

相談に対応している看護師の大神那智子さんは「孤立しているなどとして、さまざまな悩みを寄せてくる人が多い。電話をしてくる人には『何でも言いたいことを言っていいですよ』と伝えているが、どんな内容でもいいので不安になったり思い詰めたりしたら電話をしてほしい」と話していました。