ワクチン接種の流れは? 接種後の体調は? 米在住医師らに聞く

海外では新型コロナウイルスのワクチンの接種が始まり、現地に住む日本人も接種を受け始めています。どんな流れで接種するの?接種のあとに体に変化は?アメリカ在住で優先的に接種を受けた3人の医療従事者に話を聞きました。
(国際部記者 北井元気 藤井美沙紀)

山田悠史医師

(ニューヨーク州マウントサイナイ医科大学病院 山田悠史医師・1月16日取材)

Q.いつ接種しましたか?
(山田医師)
12月21日に1回目、3週間後の1月11日に2回目を接種しました。

Q.アメリカでは接種は義務ですか?
(山田医師)
義務ではなく、接種するかしないかは完全に個人の意思に委ねられています。

Q.接種しようと思った理由は?
(山田医師)
医師として高齢者の診療にあたっているので、例えば自分が感染すれば患者に感染を広げてしまうおそれがあります。「接種が始まったら必ず受けなければいけない」と半ば責務のように考えていました。

Q.接種を断った方は周りにいますか?
(山田医師)
周りの医療従事者にそういう方はいませんでしたが、患者の中にはアメリカで以前起きたワクチンをめぐる問題を理由に接種しないという方もいました。また、SNS上の根拠のない情報を信じて打ちたくないと話す方もいました。

Q.接種は医療機関で行われるのですか?
(山田医師)
医療機関でも行われますが、ほかに介護施設や街なかの薬局でも行われています。日本とは違い、薬剤師や薬学生も注射器を使って接種を行うことができます。地域の人々が集まる施設を会場にした接種や、ドライブスルー方式の接種も計画されているようです。

Q.どんな流れで接種しましたか?
(山田医師)
接種が始まることを知らせるメールが大学から届き、インターネット経由で場所と日時を選んで予約しました。現状(1月16日時点)では2月まで予約がいっぱいなようです。

ワクチンの種類は選べず、私はファイザーなどが開発したワクチンを接種しました。

私の接種会場は勤務先の1つである高齢者福祉施設の1室でした。一般的な病室ぐらいの大きさの診察室に1人ずつ順に入りました。

部屋の前に着くと、まず問診票が渡されました。記入を終えて同意の署名をしたあと診察室に入り、インフルエンザなどのワクチンと同じようにアルコールで消毒してから、左肩の筋肉に注射しました。わずか1~2秒で痛みもなく、気付いたら終わっていました。

もしかしたら少し「チクッ」としたのかもしれませんが、覚えていないぐらいあっという間でした。他のワクチンと大きな差はないと思います。

Q.接種の時、周りはどんな様子でしたか?
(山田医師)
私の時は接種の対象がまだ医療従事者だけだったので、来ていたのは同僚でした。互いに接種の様子を写真に撮ったり、SNSに投稿したりしていて、期待感あるいは使命感のようなものを感じました。

写真などを多くの人に見てもらおうという行動には「接種して大丈夫」というメッセージを発信したいという意味合いが込められていたのではないかと思います。

Q.接種のあとは?
(山田医師)
診察室のすぐ隣の部屋が待機場所になっていて、体に異変がないか15分間様子をみました。医師や看護師も常駐していました。重いアレルギー症状に備えるためです。私は幸いにもアレルギー反応は出ず、15分たったあと帰宅しました。

Q.副反応のような症状はありましたか?
(山田医師)
次の日の朝、左腕に少し違和感がありました。痛みといえるほどではありませんが、動かすと何かおかしな感覚がありました。違和感は翌日も続きましたが、接種から3日後にはなくなりました。

Q.周りで何か症状を訴えた人はいましたか?
(山田医師)
私の上司と同僚の何人かが、接種の翌日に38度を超える熱が出たり、体のだるさを訴えたりしました。仕事を休んだ人も何人かいました。

そのうちの1人は以前、新型コロナウイルスに感染したことがある人で「感染した時のような症状が、軽めに、短期間で出た感じ」と話していました。

Q.2回目の接種はどうでしたか?
(山田医師)
1回目と同じ左肩に接種しました。症状も1回目と全く同じで、打った直後は何もなく、翌日から2日間ほど左肩に違和感が出て、3日後からは違和感はなくなりました。強いて言えば、2回目のほうが少し痛みが強かった印象です。

Q.周りの人は?
(山田医師)
人によってバラバラで個人差が大きいと感じました。

1回目では体調が悪くなったけれど、2回目は何ともなかった人や、反対に1回目は何ともなかったのに、2回目では少し体調が悪くなったという人がいました。

2回目の時も、接種のあとに熱が出て休まなければならなくなった人が何人かいて、私もそういう方のカバーで急きょ別の業務に入りました。

Q.効果の実感や、気持ちのうえでの変化は?
(山田医師)
そもそもワクチンは、苦しい症状を抑える薬のようなものではなく、病気になったり重い症状になったりするのを未然に防ぐものだと思います。この辺に治療薬とは違う、効果を実感しにくいワクチンの難しさがあると思います。

一方で、感染対策は続けていますが、自分自身への安心感というか、“見えない頑丈なマスク”をもう1枚着けているような感覚はあります。

Q.これから接種が始まる日本の方々に伝えたいことは?
(山田医師)
これからワクチンを接種する日本の方々に私自身の経験が参考になれば、という思いで取材に応じました。

アメリカでもワクチンに不安を抱く方がたくさんいます。私は家族や友人を守るために、このパンデミックを終わりに近づけるために、ワクチンは最も有効な手段の1つだと考えています。

桑間雄一郎院長

(ニューヨーク州マウントサイナイ病院ニューヨーク東京海上記念診療所 桑間雄一郎院長・1月14日取材)

Q.いつ接種しましたか?
(桑間院長)
1月5日に1回目を接種しました。

Q.接種はどうやって決まりましたか?
(桑間院長)
病院から「ワクチンの接種がまもなく始まる」という説明が12月中旬にありました。院内で優先順位が最も高かったのは救急、集中治療室、そして新型コロナの患者の対応をしている医師や看護師で、私をはじめとする診療所のメンバーは入っていませんでした。病院から接種を予約するようメールで連絡が来たのは1月4日でした。

Q.どのように予約しましたか?
(桑間院長)
届いたメールから予約専用のWEBサイトに誘導され、そのサイトで会場となる医療施設や時間帯を選択しました。

勤務先の診療所には非常に低い温度でワクチンを保管する設備がなかったため、そうした設備があるグループ内の施設に出向いて接種する手順でした。

サイトではアレルギー歴や最近の体調などに関する多くの質問に答えました。

Q.接種にためらいはありませんでしたか?
(桑間院長)
インフルエンザのワクチンの有効率は半分程度と言われています。それに比べてファイザーなどが開発した新型コロナのワクチンは効果がはるかに高いと言われています。

新型コロナで死ぬ危険性が、ワクチンで副反応に見舞われる危険性より圧倒的に高いので、接種を心待ちにしていました。

Q.接種当日は、どんな流れでしたか?
(桑間院長)
勤務先の診療所から1キロほど離れた病院でファイザーなどが開発したワクチンを接種しました。

その病院は3階のフロア全体を接種用にしていて、受付に並ぶ人のために、6フィートの間隔で床にマークがつけられていて、その上で待つと、人々の距離が保たれるような工夫がされていました。

受付では本人確認のほか、事前にサイトで答えたのと同じような質問を口頭で聞かれました。

その後、今回のワクチンは緊急で使用が認められたことなどの説明を受け、ワクチンのリスクなどに関する情報が記されたパンフレットを渡されたのち、接種の同意の確認がありました。
Q.会場はどんな様子でしたか?
(桑間院長)
フロアは10か所くらいのブースに分かれていて、待っているとその1つから声がかかりました。

中に入ると看護師がいて、アレルギー歴や健康状態などについて再び聞かれ、それらに次々と答えました。看護師は私の回答をコンピューターに打ち込んでいました。

そのあと肩に接種を受けました。

Q.接種後は?
(桑間院長)
終わるとフロアの出口近くに設けられた観察室に行くよう指示されました。観察室で名前を告げると、だいたい2メートルおきに置かれたいすの1つに座るよう案内されました。

そこで15分間、体調に異常がないか観察し、変わったことは起きていないことを確認して、帰ってよいと言われ病院を出ました。午後6時15分に接種会場の病院に到着し、離れたのは6時45分でした。

Q.その後、体調はどうでしたか?
(桑間院長)
接種の時は全く痛みはありませんでしたが、その後肩に痛みが出て接種の2日後まで残りました。

他のワクチンでも似たような痛みが出たことはありますが、強めだと感じました。周りでも肩の痛みを訴える人が多かったようです。

私の場合、接種から3日後には症状はなくなりました。

Q.接種に慎重な人は周りにいますか?
(桑間院長)
診療所が所属する母体の病院には、接種したくないという医療従事者もいるようです。接種が始まって1週間が経過したころ、接種を拒否している職員も少なからずいることを受けて、病院の幹部がワクチンについて説明する機会をもうけました。

病院も強制はできないので、それでも接種しない職員は専用のフォームに記入して提出することになりました。

接種の予約を受け付け始めて1週間の時点で、外来患者の対応をしている職員のサンプル調査の結果、およそ400人のうち90人余り、4人に1人が接種をためらっているというデータが示されました。

Q.そうした理由は何でしょうか?
(桑間院長)
具体的な理由はわかりませんが、個人的には周りにいろいろ聞いています。

12月はじめに聞いた時には「安全性が完全には確立されていない。心配があり、受けたくない」「副反応が不安だが、医療従事者としてやむをえず接種する」などの声が聞かれました。

また、ある診療科では受付と看護師、合わせて4人全員が「受けたくない。安全かわからないから」と言っていました。これは私にとって予想外で、未知のものに対する不安感が多くの人にあると感じました。

Q.2回目もワクチンを打ちますか?
(桑間院長)
すでに2回目を予約しています。私が周りに話を聞いて感じるのは、初めてのワクチンに不安を抱く人も少なくないということです。

丁寧に説明することで、そうした人たちの不安を解消できるよう努めていくことが大切だと感じています。

安川康介医師

(首都ワシントン ジョージタウン大学医学部内科助教 安川康介医師・1月21日取材)

Q.いつ接種しましたか?
(安川医師)
アメリカでワクチンの接種が全国的に始まって間もない12月16日です。2回目は1月5日に接種しました。ファイザーなどが開発したワクチンです。

Q.接種しようと思った理由は?
(安川医師)
医師として新型コロナウイルス感染症の患者を日々診療しています。自分が感染するリスク、自分が感染すると患者や同僚、家族に感染を広げるリスクがあると常に思っています。自分だけではなく、周りの人もできるだけ守りたいと思い、接種を受けることにしました。

また、大規模な臨床試験の結果を見る限り、今回のワクチンはとても良いワクチンだと思いました。

Q.接種をちゅうちょする人はいましたか?
(安川医師)
周りの医師はほとんど接種していると思います。私の施設では接種の開始後2週間で研修医の9割が接種したということです。

ただ看護師のなかには、ちゅうちょしている人はそれなりの数でいました。

そうした中で、新型コロナウイルス感染症の患者の病棟で働く看護師の方から「接種率を上げたいのでワクチンについて説明してほしい」と依頼がありました。無理に説得はしませんでしたが、今回のワクチンに関する科学的な知識や臨床試験の結果について説明しました。

Q.接種に慎重な人たちの理由は?
(安川医師)
今回のワクチンが「メッセンジャーRNAワクチン」という新しいタイプだということも関係していると思います。

このワクチンの使用が認められるのは今回が初めてで、これまで大規模に使用されたことはありません。

臨床試験でも、副反応など短期間の安全性は検証されていますが、中長期的な安全性や有効性はまだ検証中ということもあり、もう少し様子を見たいという人がいます。

ただ話を聞くと「よく知らないから」「なんとなく怖い」というのがほとんどでした。なので、説明会のあと接種率は上がったと思います。

Q.ご自身はどんな流れで接種しましたか?
(安川医師)
勤務先の病院の中の大きな会議室で接種しました。壁沿いに6か所ぐらい接種用のブースがあって、打ったあとは部屋の真ん中に置いてあるいすに間隔をあけて座り、15分間、アレルギー症状など体に異変が出ないか観察しました。病院内だったので何かあればすぐに応急措置が受けられる態勢でした。

Q.1回目のあと、副反応のような症状はありましたか?
(安川医師)
接種の数時間後に、打った部分に痛みが出てきて翌日まで続きました。接種の3日後ぐらいには痛みはなくなりました。

Q.周りで体調に変化があった人はいましたか?
(安川医師)
接種した日の夜に熱が出たり悪寒があったりした方はいましたが、同僚のほとんどは接種した部分の痛みだけで済んだようです。

Q.2回目の後はどうでしたか?
(安川医師)
接種した部分の痛みの経過は1回目とほとんど同じでしたが、2回目は接種の翌日にけん怠感、体がだるい感じがあって夜まで続きました。その後、接種の2日後には良くなって普通に生活できました。こうした症状は一般のワクチンでもある程度起こる免疫の反応だと思います。

Q.周りの方は?
(安川医師)
1回目には出なかった頭痛や熱、それに悪寒が2回目のあとに出てつらいという方がいました。一方で、1回目では熱や悪寒が出たけれど、2回目のあとは出なかったという方もいて、個人差があると思いました。

Q.接種のあと気持ちの上で何か変化はありましたか?
(安川医師)
世界規模の感染拡大が始まって1年近くがたち、自分が感染したり重症化したりするのではないかという状況で働き続けてきました。接種を受けたことで、少なくとも発症したり重症化したりするリスクは下がったと、気持ちが楽になった部分はあります。これは私だけでなく多くの同僚も同じだと思います。

臨床試験の結果をみると、今回のワクチンの有効性は95%と高く、重大な副反応もかなりまれです。100万人に11人ぐらいの割合で起こる重いアレルギー症状も治療可能です。

メディアやインターネットには医者の目から見てかなり不正確な情報もたくさんあるので、できるだけ信頼できる、正確で科学的な情報を得て判断していただきたいと思います。