“認知症で入院困難に” 高齢者施設でクラスターも入院できず

今月、認知症の高齢者が暮らす都内のグループホームでクラスターが発生し、症状が悪化する人が相次いだにもかかわらず、1週間ほど入院できず、施設での療養を余儀なくされたことがわかりました。病床がひっ迫する中、認知症の人の入院が特に困難になっています。

認知症の高齢者16人が暮らす、都内のグループホームでは、今月7日から8日にかけて、80代の入居者の女性4人と職員2人が新型コロナウイルスに感染していることがわかりました。

入居者のうち3人は肺炎を発症していて、保健所が受け入れ先の病院を探しましたが見つからず、そのまま施設内で療養を続けることになりました。

およそ1週間後にようやく2人が入院できたものの、今度は、別の2人の入居者の感染が明らかになりました。

このうち1人は101歳の女性で、感染確認から1週間後の今月21日には血中酸素濃度が低下するなど症状が悪化し、施設は救急搬送を求めました。

しかし、保健所からは搬送先がすぐに見つからず、本人に負担もかかるなどとして、施設内でそのまま様子を見るように言われたといいます。

その2日後の今月23日になって、ようやく別の地域にある医療機関で受け入れが決まりましたが、101歳の女性は感染確認から入院まで実に9日を要しました。

女性は現在、意識はあるものの、自力で呼吸を維持するのが困難な状態だということです。

このグループホームでは、最終的に3人の入居者が感染後も入院できない状態が続きましたが、いずれも症状は回復し、24日、保健所から、「ほかの人にウイルスを移す可能性は低くなった」などと伝えられたといいます。

グループホームの担当者は「保健所も一生懸命、受け入れ先を探してくれたが、どうしても認知症の人が入院できるところが無いと言われた。病床がひっ迫して難しい面があると思うが、入院、もしくは一時的に保護してくれる施設の確保をお願いしたい」と話しています。

認知症の患者 受け入れ難しい事情

認知症の高齢者はなぜ、症状が悪化した人でさえ入院が困難になっているのか。

医療体制がひっ迫する中、認知症の患者を受け入れる余裕がないという医療機関側の事情も指摘されています。

クラスターが発生したグループホームでは、入居者の感染が確認された際、保健所に対して「医師が常駐していないため速やかに入院させてほしい」と依頼していました。

しかし、保健所からは「病床がひっ迫し入院先が見つからない。認知症の感染者を受け入れる余裕が無いと入院を断られることもあった」などと説明を受けたということです。

都内の保健所はNHKの取材に対し、「認知症であったり介護が必要であったりする人は医療機関から受け入れが難しいと断られることが起きている」と話しています。

なぜ、認知症の感染者を受け入れるのは難しいのか。

認知症に詳しく、コロナの患者も受け入れている国立精神・神経医療研究センターの野田隆政 精神科医長は、「認知症の人は自分で感染対策を徹底するのが難しく動き回るおそれもあり、専門のスタッフがいない一般の病院では受け入れが難しい事情もある。一方で、認知症のある無しにかかわらず症状が重い人には優先的に医療が届くよう、医療体制を整えていく必要がある」と指摘しています。

小規模な施設 療養は困難

今回のようにグループホームなどの小規模な施設で、複数の感染者が療養を続ける場合、十分な体制が取れずさまざまな困難に直面します。

クラスターが発生したグループホームのうち、感染者が出たフロアは、ふだん7人の職員が担当。

常駐する医師や看護師などの医療従事者はいません。

職員が防護服を着て感染者の対応に当たらざるを得なかったといいます。

入居者の感染がわかった4日後、同じ系列の介護施設から看護師が派遣され、酸素の投与や点滴などはできるようになりましたが、24時間すべてで対応してもらうのは難しいといいます。

グループホームでは検査で陽性だった人と陰性だった人が同じフロアで暮らさざるを得ず、感染していない人はできるだけ個室にとどまってもらい、感染者と接触しないよう注意を払っています。

しかし、部屋にじっとしていられず、職員が知らない間に共用スペースに出てきてしまう人もいるといいます。

グループホームでは、最初に6人の感染が確認された後、6日後に新たに2人が陽性となり、グループホームの担当者は「感染した入居者が入院できずに施設にとどまったことで、ほかの人に広がった可能性もある。細心の注意を払って対応しているが、小さな施設内では、エリアを区切る“ゾーニング”も難しく、限界がある」と話しています。

有識者「患者受け入れ態勢強化を」

認知症の感染者が入院できないという深刻な事態。

国立精神・神経医療研究センターの野田隆政 精神科医長は、「認知症や精神疾患のある人たちの医療の受け皿はもともと不足していて、その潜在的な課題がコロナで浮き彫りになった」と指摘しています。

そのうえで「認知症の専門スタッフがいる病院で、コロナ患者を受け入れる態勢を強化するとともに、どうしても入院まで時間がかかる場合は、施設などの感染対策を、専門のスタッフが支援していく必要がある」と話しています。

高齢者福祉施設でのクラスターは721件

厚生労働省によりますと、「高齢者福祉施設」では把握できただけで今月18日までの1週間に75件のクラスターが発生していて、これまでの累計では、721件に上っています。

場所別にこれまでに発生したクラスターの件数を見ますと、飲食店が880件で最も多く、次いで企業・官公庁などが815件、「高齢者福祉施設」は3番目に多くなっています。