中国 武漢 都市封鎖から1年 最初にコロナ感染拡大の街はいま

新型コロナウイルスの感染が最初に拡大した中国 武漢で、都市の封鎖が始まってから23日で1年です。世界ではいまも感染者が増え続けていますが、武漢は日常を取り戻しつつあります。

日常を取り戻しつつある武漢

中心部の繁華街にある夜市では、22日夜、買い物や食事に訪れた大勢の人々でにぎわっていました。また、広場では路上ライブが行われていて、訪れた人たちが輪になって楽しむ姿も見られました。

武漢在住の女子高校生は「感染が拡大した当時は、死んでしまうかもと不安だったが、いまはとても安心だ。政府の対策は外国よりもうまくいっていて自慢できる」と話していました。

WHOの国際的な調査チームが武漢に入ったことについて、50代の女性は「発生源は、まだわかっていない。アメリカ人がウイルスを持ち込んだのかもしれない。科学者たちは事実を見てくれると信じているので、調査は怖くない」と話していました。

このほか、封鎖措置に伴って一時閉鎖された高速鉄道などが停車するターミナル、漢口駅では23日、来月から始まる旧正月の大型連休に向けて、多くの利用客が訪れていました。

一方で、NHKの取材班が取材を続けていると、当局の関係者が駆け寄り「きょうは敏感な日だ」と告げたうえで撮影を中断させられ、外国メディアの取材に神経をとがらせていることがうかがえました。

大きな波紋 感染拡大に警鐘鳴らした医師の死

中国国内では当初、政府による徹底した情報統制の下で、人々に感染のリスクが十分に伝わらなかったことが感染拡大を招いたとして、批判の声が相次ぎました。

特に大きな波紋を広げたのが、当局の発表前から感染拡大に警鐘を鳴らしていた武漢の眼科医、李文亮氏の死です。李氏は2019年12月30日、複数のウイルス性肺炎の患者が出ていることをSNSのグループチャットに投稿したあと、「デマを流した」などとして警察に処分されました。

そして、都市封鎖のさなかの去年2月にみずからも感染して亡くなると、当局の情報の隠蔽や初期対応の遅れを批判する国内世論が一気に高まりました。
武漢の人々は李氏を「英雄」とたたえ、勤務先の病院には多くの市民が追悼に訪れ、敷地の一角を埋めるほどの花束がささげられました。

当局への批判の高まりを受けて、中国政府は、その後、李氏の処分を撤回し、医師としての功績を評価する一方「李氏は共産党員で反体制派の人物ではない」と強調し、批判の矛先が習近平指導部に向かうことを強くけん制してきました。

NHKの取材班が22日、李氏が勤めていた武漢市内の病院を取材しようとすると、すぐに病院関係者に呼び止められ、外国メディアだと分かると、撮影をやめるよう求めてきました。

李氏は亡くなる前「健全な社会は『1種類の声』だけになるべきでない」として、中国政府の情報統制のありかたに疑問を投げかけていて、李氏をめぐる人々の記憶が言論の自由を求める動きにつながらないよう、神経をとがらせているものとみられます。

当時、武漢で何が起きていたのか 情報統制は…

中国政府が感染対策の成果を大々的に宣伝する一方で、当時、武漢で何が起きていたのか、真相究明を求める人々の声は影を潜めつつあります。

こうした中で、都市封鎖のさなか、患者の治療にあたった医師が、匿名を条件にNHKの取材に応じ、当局の情報統制の実態を証言しました。

この医師によりますと、勤務先の武漢市内の病院では去年1月以降、新型コロナウイルスへの感染が疑われる患者が、肺の病気で相次いで死亡し、保健当局に報告しようとしたところ、死因を高血圧や糖尿病などの持病に書き換えるよう死亡診断書の改ざんを指示されたということです。

そのうえで、遺体を直ちに火葬するよう求める意見も、合わせて診断書に記入するよう命じられたということです。

医師は「同僚の医師が、亡くなった患者3人の死因を新型コロナではなく『肺の病気で死亡』と書いただけで、その日の晩に、院長が保健当局に呼び出され、『死者を3人も報告するなんて迷惑だ』とどなられた。当局の目的は、死者の数を減らすためであることは明らかだ。元のデータが改ざんされているので、いったい、どれだけの人が亡くなったのかわからない」と話していました。

また、政府の発表前に感染拡大への警鐘を鳴らしながら亡くなった医師の李文亮氏については、「李氏は医師としての職業倫理から話すべきことを話しただけで、英雄になろうと思っていたわけではない。このような経験をした武漢市民は、李氏のことを決して忘れることはないだろう」と話していました。

医師は、情報統制の在り方に疑問を投げかけていた李氏の訴えに中国政府が向き合わなければ、再び対応を誤る可能性があると指摘し「真相を目の当たりにしながら口を閉ざせば、この国で何が起こっているのか、誰も知ることができない。私も医師として経験したことを話さなければならない」と話していました。

WHOの調査の焦点は

WHOによりますと、今月14日に武漢に到着した国際的な調査チームのメンバーは、隔離先のホテルでオンラインで中国の専門家らと協議を行っているということで、今後の調査の方針などについて意見を交わしているものとみられます。

このうち、アメリカから参加している専門家は、自身のツイッターに、隔離されているホテルの室内や、防護服を着てPCR検査に訪れた医療従事者を撮影した写真を投稿し「きょうも会議があり、忙しい日が始まる」などと書き込んでいます。

今後の調査でWHOは、中国側が保管しているとみられる患者の検体の分析のほか、感染拡大の初期に多くの患者が確認された海鮮市場の視察や病院関係者への聞き取りなどを通じて、感染経路の解明を進めたい考えです。

一方で、今回の調査をめぐっては、WHOの関係者の間でも中国政府が協力に消極的なのではないかという声や、感染拡大からすでに1年が経過していて、発生源などの特定につながるか疑問視する見方も出ています。

また、今月15日には、アメリカのトランプ前政権で国務長官を務めたポンペイオ氏が、武漢にある「中国科学院武漢ウイルス研究所」の複数の研究員が2019年秋に新型コロナウイルス感染症とよく似た症状になっていた可能性があるとする声明を出し「WHOの報告が信用されるためには、ウイルスのサンプルや内部告発者などに制限なくアクセスできることが重要だ」として、調査チームに対し徹底した調査を行うよう求めています。

アメリカ側は、今月18日に行われたWHOの執行理事会でも、中国側にウイルスに関するすべての情報を開示するよう求めたのに対し、中国側は「透明性と責任感を持って対応にあたってきた。政治的な圧力をかけるのはやめるべきだ」と反論しています。