新型コロナ“感染爆発”の実態「守りたい命が守れない」

今月7日に緊急事態宣言が出されてから10日余り。爆発的な感染拡大に歯止めがかかりません。いったい、何が起きているのか。取材を進めると驚くべき実態が次々と明らかになりました。
感染拡大で必要な医療が受けられない高齢者。PCR検査で陽性になったにもかかわらず「出勤する感染者」の存在。さらに、「変異ウイルス」の感染力の大きさに警鐘を鳴らす研究者。最新調査で“感染爆発”に迫ります。
(NHKスペシャル「“感染爆発”危機をどう乗り越えるか」取材班)

必要な医療が受けられない事態も

東京 港区。ここでも感染者は急増しています。1月4日からの1週間では776人と、12月7日の週の191人の4倍に上っています。

この日、東京港区の保健所職員が向かったのは区内の介護施設。
この施設では、年明けに入居者1人の感染を確認。入居者18人のうち、14人にまで感染が広がっていました。しかし、いまだに誰も入院先が見つかっていません。

港区みなと保健所 看護師 堀 成美さん
「スタッフの人が頑張って、このまま みられる人は みましょうって、どの地域もなりつつある。それは(病床が)空いてないから」
保健所に戻った直後、たずねたばかりの介護施設が、救急車を呼んだという連絡が入りました。

入居者の容体が急変。しかし、受け入れ先の病院がなく、保健所でも探してほしいという内容でした。複数の保健師が、手分けして探します。

「86歳の女性の方で、入院って、厳しいですかね?」
「申し訳ありません。この時間から、ご入院って、難しいですよね。やっぱり、そうですよね。わかりました」
「全部ダメ」
「全部ダメ?」
「いま11箇所かけているんですけど」

入院先の病院が見つからないまま入居者の容体は刻一刻と悪化していきます。

家族に連絡し「医療を受けられず亡くなる可能性もある」と伝えることにしました。
(家族に電話する保健師)
「病院が決まるまで、元気でいられるかどうか、ちょっと難しいところが、もしかしたらあるかもしれないなっていうのが現実かもしれないですよね。病院が決まるまでは本当にもうご本人の生命力しか信じるところがないかなっていうところではあるので」

港区みなと保健所 松本加代 所長
「今、これだけ感染爆発と言われているように数が増えてくれば、守りたい命が守れない。抜け落ちていく人が出てくる可能性はあるかもしれない」

“職場に出勤する感染者”

爆発的な感染拡大の背景に何があるのか。港区の保健所が今、危機感を強めていることがあります。

保健所は、医師が提出した検査で陽性となった人の「発生届」を受理するとすぐに、感染拡大の防止や健康状態の確認のための連絡をすることとなっています。

しかし、陽性が判明した人と連絡がつかないケースが増えています。多いときは6人に1人が電話に出ません。
港区みなと保健所 感染症対策担当係長 新井久子さん
「この人は9日から(電話に)出てない。留守電3回したけど、ずっと出てくれない。どうしたんでしょうね。体調を崩して出られなかったという方もいますけど、行動調査が嫌な人も中にはいるかもしれないですね」
中には、PCR検査の結果を待つ間に外出するというケースもあると言います。

この日連絡を取ったのは、陽性が判明した30代の女性です。

「PCR検査をしたんだけど出勤してたんですね、ああーー」
「マスクはちゃんとされてた。うん、そうでしょうね」

女性の職場では感染が広がり、職場全員のPCR検査を行うことになりました。
港区みなと保健所 感染症対策担当係長 新井久子さん
「PCR検査をすることは自分自身でコロナかもしれないと思って検査してるんですよね。なのに結果も待たないで、人と会ったり。検査の意味があまり理解されていなくて、行動を止めていなかった人たちがやっぱり一番広めてるんじゃないかと思います」

変異ウイルスの脅威

感染拡大に歯止めがかからない中、新たな懸念が高まってきました。

変異したウイルスです。イギリスなどで、猛威をふるい世界的に大きな問題となっています。

万一、変異ウイルスが広がると何が起きるのか。先月、イギリスの大学が公表した論文です。
ひとりの感染者から何人に感染が広がるのかを示す実効再生産数が、これまでに比べ、0.4から0.7高いと分析しています。

実効再生産数が高くなるとはどういうことなのか。
例えば、実効再生産数が2の場合、ひと月後の感染者は累計で127人。実効再生産数が3になると、ひと月後に1093人に感染することになります。
京都大学 西浦博教授
「患者の収容っていうものの対応スピードをはるかに超えるスピードで感染者数が増加するという可能性があり得る。重症な患者数が増えるということでもありますから、医療機関でも負担っていうのが桁違いに増えることになります」

1月19日の時点で、日本では入国者を中心に47人の感染が確認されています。

国立感染症究所は、全国の衛生研究所から陽性者の検体を集め監視を強化。
しかし、今は、ウイルスのすべての遺伝情報を解析する必要があるため時間がかかり調べられているのは、全体の1割程度です。

そのため、より迅速な検査方法の開発を進め、全国的な検査体制の強化を目指しています。

国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター 長谷川秀樹センター長
「現在は水際対策で検疫でチェックしている状況。完璧に防ぐというのは、難しいものがあって、国内のどこでそういったこと(変異ウイルスの広がり)が起きるかは分からない。早急に調べていくというのは重要なことかなと思います」