菅首相 施政方針演説「最前線に立ち 難局乗り越えていく」

菅総理大臣は、衆参両院の本会議で施政方針演説を行い、新型コロナウイルスをめぐり「闘いの最前線に立ち、難局を乗り越えていく決意だ」と述べ、対策に万全を期す考えを強調しました。また、新たな成長の原動力として、グリーン社会とデジタル化の実現に改めて意欲を示しました。

菅総理大臣は、衆参両院の本会議で、去年9月の就任後初めての施政方針演説を行いました。

この中で、菅総理大臣は「総理大臣に就任し、政権を担って4か月、直面する困難に立ち向かい、この国を前に進めるために、全力で駆け抜けてきた。私が、一貫して追い求めてきたものは、国民の『安心』と『希望』だ」と述べました。

そして、感染拡大が続く新型コロナウイルスを一日も早く収束させるとして「国民には、再び制約のある生活をお願いせざるを得ず、大変申し訳なく思う。いま一度、協力をいただきながら、私自身も闘いの最前線に立ち、知事はじめ自治体関係者とも連携しながら、難局を乗り越えていく決意だ」と述べ、対策に万全を期す考えを強調しました。

“『ステージ4』を早急に脱却する”

そのうえで「緊急事態宣言を発出し、これまで1年近くの闘いの経験に基づき、効果的な対象に徹底的な対策を行っている。感染を抑え込み、減少傾向に転じさせ、いわゆる『ステージ4』を早急に脱却する」と述べました。

また、菅総理大臣は、
▽特別措置法を改正し、罰則や支援を規定して、飲食店の時間短縮の実効性を高めるほか、
▽ワクチンを対策の決め手と位置づけ、安全性と有効性の審査を行ったうえで、自治体と連携して万全な接種体制を確保し、できる限り、来月下旬までには接種を開始できるよう準備する考えを示しました。

東京五輪・パラ「人類がウイルスに打ち勝った証し」

そして、夏の東京オリンピック・パラリンピックについて「人類がウイルスに打ち勝った証しとして、感染対策を万全なものとし、世界中に希望と勇気をお届けできる大会を実現するとの決意のもと、準備を進めていく」と述べました。

東日本大震災「東北復興の総仕上げに全力」

ことし3月で東日本大震災の発生から10年になることについて「心のケアなどのきめ細やかな取り組みを継続し、原発事故で大きな被害を受けた福島では『創造的復興の中核拠点』となる国際教育研究拠点を設立する。福島の本格的な復興・再生と東北復興の総仕上げに全力を尽くしていく」と述べました。

『グリーン』と『デジタル』

一方、菅総理大臣は「わが国の長年の課題に答えを出していく」としたうえで「まずは、次の成長の原動力をつくり出す。それが『グリーン』と『デジタル』だ」と強調しました。

そして「グリーン社会」に向けて「もはや環境対策は経済の制約ではなく、産業構造の大転換と力強い成長を生み出す鍵となるものだ」と指摘し「民間企業に眠る240兆円の現預金、3000兆円とも言われる海外の環境投資を呼び込む。そのための金融市場の枠組みもつくる。2050年には年額190兆円の経済効果と大きな雇用創出が見込まれる」と述べ、世界に先駆けて、脱炭素社会を実現すると表明しました。

また「この秋、デジタル庁が始動する。改革の象徴であり、組織の縦割りを排し、強力な権能と初年度は3000億円の予算を持った司令塔として、国全体のデジタル化を主導する」と述べました。

“現役世代の負担軽減”

このほか、菅総理大臣は、
▽中小企業の生産性を底上げし、賃金上昇につなげることや、
▽地方の所得の引き上げ、
▽農産品の輸出拡大、
それに
▽新型コロナを克服し、世界の観光大国を再び目指すことなどに取り組む考えを示しました。

さらに「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心という構造を見直す」と強調したうえで
▽来年4月から不妊治療を保険適用し、
▽待機児童の最終的な解消を図るほか、
▽全国の小学校で35人学級へ人数を引き下げ、
▽75歳以上の高齢者のうち、単身者の場合、年収200万円以上の人たちの医療費の窓口負担を2割とし、現役世代の負担を軽減させる考えを示しました。

外交・安全保障

外交・安全保障で、菅総理大臣は「ポストコロナの国際秩序づくりに指導力を発揮していく決意だ」として、ことし11月に開かれる地球温暖化対策の国連の会議「COP26」までに意欲的な2030年目標を表明し、世界の脱炭素化を前進させると強調しました。

各国との関係では、今週、新政権が発足するアメリカについて「日米同盟は、わが国の外交・安全保障の基軸で、バイデン次期大統領と早い時期に会って、日米の結束をさらに強固にする」と述べ、気候変動などで緊密に協力していく考えを示しました。

中国については「安定した日中関係は、地域、国際社会のためにも重要だ」と指摘し「さまざまな懸案が存在するが、ハイレベルの機会も活用しつつ、主張すべきは主張し、具体的な行動を強く求め、共通の諸課題の解決に向けて連携していく」と述べました。

また、ロシアについて「北方領土問題を次世代に先送りせず、終止符を打たねばならない。これまでの両国間の諸合意を踏まえて交渉を進める」と述べました。

北朝鮮による拉致問題は政権の最重要課題だとして、キム・ジョンウン(金正恩)総書記と条件を付けずに直接向き合う決意を重ねて示しました。

一方、去年10月の所信表明演説で「極めて重要な隣国」としていた韓国については「重要な隣国」とし「現在、両国の関係は非常に厳しい状況にある。健全な関係に戻すためにも、わが国の一貫した立場に基づき、適切な対応を強く求めていく」と述べました。

憲法「国民的議論につなげていくこと期待」

憲法について、菅総理大臣は「あるべき姿を最終的に決めるのは、主権者である国民だ。与野党の枠を超えて、憲法審査会の場で議論を深め、国民的な議論につなげていくことを期待する」と述べました。

また、安定的な皇位継承などに関する課題については、衆参両院の委員会で可決された付帯決議の趣旨を尊重し、対応していく考えを示しました。

「桜を見る会」 答弁で陳謝

菅総理大臣は「一人ひとりが力を最大限発揮し、互いに支え、助け合える『安心』と『希望』に満ちた社会を実現する。こうした社会の実現には、何よりも国民の信頼が不可欠だ」と述べたうえで「先の国会における『桜を見る会』前夜の夕食会に関する私の答弁の中に、事実と異なるものがあったことについて、大変申し訳なく、改めておわび申し上げる」と陳謝しました。

結びに、菅総理大臣は、衆議院議員に初当選した際、自身が「政治の師」と仰ぐ梶山静六元官房長官から、
▽負担を求める政策の必要性を国民に理解してもらわなければならないということや、
▽国民の食いぶちをつくっていくことが仕事だということを言われたエピソードを紹介し「私の信条としてきた」と述べました。

そして「これらのことばを胸に『国民のために働く内閣』として、全力を尽くしていく」と、演説を締めくくりました。

梶山静六氏 2つのことば

菅総理大臣は、施政方針演説の結びで、平成8年に衆議院議員に初当選した際、「政治の師」と仰ぐ梶山静六・元官房長官から言われた2つのことばを紹介しました。

このうち、1つが「今後は右肩上がりの高度経済成長時代と違って、少子高齢化と人口減少が進み、経済はデフレとなる。お前は、そういう大変な時代に政治家になった。その中で、国民に負担をお願いする政策も必要になる。その必要性を国民に説明し、理解してもらわなければならない」というものです。

もう1つが「日本は、戦後の荒廃から、国民の努力と政策で、ここまで経済発展を遂げてきた。しかし、資源の乏しい日本にとって、これからが、まさに正念場となる。国民の食いぶちをつくっていくのが、お前の仕事だ」というものです。

菅総理大臣が初当選した2年後の平成10年に行われた自民党総裁選挙で、菅総理大臣が当時、所属していた小渕派は、小渕・元総理大臣を推すことになりました。しかし、同じ派閥の梶山氏も立候補することを決めて派閥を離れ、菅総理大臣も梶山氏を支持するために派閥を退会しました。

菅総理大臣は、梶山氏が亡くなったあと、折に触れて、茨城県にある梶山氏の墓参りをしています。今回の演説では、梶山氏から言われた2つのことばを「私の信条としてきた」として、梶山氏のことばを胸に「国民のために働く内閣」として、全力を尽くす決意を示しました。

自民 二階幹事長「堂々たる演説と高く評価」

自民党の二階幹事長は、記者会見で「新型コロナウイルスの収束への力強い決意と、その先の社会の変化を見据える堂々たる演説だったと高く評価している。感染対策は喫緊の課題であり、党としても国民の声にしっかりと耳を傾け、予算案の早期成立などに全力を尽くし、実り多い国会にしていきたい」と述べました。

自民党の石破元幹事長は、記者団に対し「派手ではないが、必要な論点を網羅的に取り上げていたのではないか。細かい部分は、これから予算委員会などで議論されることになるが、施政方針演説としては非常によくできたものだった」と述べました。

立民 枝野代表「危機感が全く感じられず残念」

立憲民主党の枝野代表は、党の役員会で「100年に1度と言ってもいいほどの大変な危機にもかかわらず、菅総理大臣の危機感が内容的にも演説の姿勢にも全く感じられず残念だ。ギリギリの状況で苦労されている方の思いを国会審議にぶつけていくことが、われわれの最初の責任だ。総選挙を控えた通常国会でもあり、今の危機感なき政権を変えていくため、われわれの責任は重大だ」と述べました。

公明 山口代表「『国民のために働く内閣』という姿勢表れた」

公明党の山口代表は、記者団に対し「次の展望を示しながら、多岐にわたるテーマについて実践的な取り組みを述べ『国民のために働く内閣』という姿勢がはっきりと表れた演説だった。これからは論議を深めて具体化していくことが重要だ」と述べました。

一方で、政治とカネをめぐる問題について「たび重なる出来事に国民は不信感を募らせている。政権政党としての在り方を厳しく振り返り、襟を正すべきだ。公明党も力を合わせて信頼回復に努めていかなければならない」と述べました。

維新 馬場幹事長「意気込みや実行力は負けない部分ある」

日本維新の会の馬場幹事長は、記者会見で「決して滑舌のよいほうではないが、パフォーマンスが先行する政治家よりも有言実行で、国民との約束を実現させるという意気込みや実行力は負けない部分があると思う。新しい国の形をつくっていくことには協力するが、前例や慣例に縛られたような施策には協力できず、徹底的に反対する」と述べました。

共産 志位委員長「抑止を行う積極的な方策がない」

共産党の志位委員長は、記者会見で「感染がこれだけ急拡大し、多くの国民が不安と苦しみの中にあるときに、政府としてどうやって抑止を行うのか、その積極的な方策が全くない。検査の充実、医療への支援、そして、十分な補償、こういう大事な問題でのメッセージも全くない。中身もない。そこが一番大きな問題だ」と述べました。

国民 玉木代表「熱意 ビジョン 具体性の3つが欠けている」

国民民主党の玉木代表は、記者団に対し「新型コロナウイルスをなんとか抑え込んでいくという強いメッセージが感じられなかった。熱意とビジョン、それに具体性の3つが欠けている。『食いぶちをつくっていく』という梶山静六元官房長官のことばをひいていたが、その食いぶちをどうつくっていくのかが、演説からわからないのが問題だ」と述べました。