テレワーク「前回の宣言時ほど行われていない可能性が高い」

感染拡大を抑えるため重要とされているのが「テレワーク」です。2回目の緊急事態宣言後、どれだけ実践されているのかを探るため、NHKがビッグデータを使って都内のオフィス街の人出を分析した結果、感染拡大前より40%以上減ったものの、去年の1回目の宣言時と比べると30%から50%ほど多いことがわかりました。専門家は「前回の宣言時ほどテレワークが行われていない可能性が高い」と指摘しています。

NHKは、NTTドコモが携帯電話の基地局からプライバシーを保護した形で集めたビッグデータを使って、東京駅と品川駅周辺のオフィス街について、去年3月から13日まで、日中時間帯の午後3時台の人の数を分析しました。

その結果、1都3県に2回目の緊急事態宣言が出された今月8日から、13日までの平日3日間の人出は、東京駅と品川駅の周辺でいずれも、
▽感染拡大前の平日の平均と比べて45%ほど減少、
▽先月の平日の平均と比べて9%減少していました。

一方で、去年の1回目の宣言時と比べると、
▽東京駅周辺で52%、
▽品川駅周辺で32%、
いずれも多くなっていました。
人の移動の分析に詳しい早稲田大学の佐々木邦明教授は「この1年でテレワークは一定程度進んでいるものの、前回の宣言時ほどは行われていない可能性が高い。飲食店のリスクばかりが注目され、テレワークの必要性が浸透していないおそれもある。政府が目標として掲げる出勤者の7割削減を実現するためには、なぜそこまでの削減が必要か、理由を丁寧に説明していくべきだ」と指摘しています。

テレワークの実態と課題 調査では

民間のシンクタンク「パーソル総合研究所」は、新型コロナウイルスの感染の“第3波”に入っていた去年11月、従業員10人以上の企業で働くおよそ2万人を対象にテレワークの実態や課題を調査しました。
正社員のテレワークの実施率が、
▼最も高かったのは東京都で45.8%、
▼次いで神奈川県が34.9%、
▼千葉県が26.2%、
▼大阪府が24.4%、
▼埼玉県が24%、
▼愛知県が21.7%、
▼兵庫県が19.3%と続きました。
このほか、今回の緊急事態宣言の対象地域では、
▼京都府が17.1%、
▼栃木県が16.7%、
▼福岡県が16.4%、
▼岐阜県が9.1%でした。
業種別では、
▼「情報通信業」が最も高く55.7%、
▼次いで「学術研究、専門・技術サービス業」が43.2%、
▼「金融業・保険業」が30.2%でした。
一方、低かったのは、
▼「医療・介護・福祉」で4.3%、
▼「宿泊業・飲食サービス業」が11.1%、
▼「運輸業・郵便業」が11.3%でした。
企業の規模別では、
▼従業員1万人以上の企業が45%だった一方、
▼1000人から1万人未満は34.2%、
▼100人から1000人未満は22.5%、
▼100人未満の企業は13.1%で、
規模が小さいほど実施率が低くなっていました。
テレワークができていない理由については、
▼「テレワークで行える業務ではない」が45.1%と最も高く、
▼次いで「テレワーク制度が未整備」が37.4%、
▼「通信などの環境が未整備」が13.1%、
▼「会社が消極的で実施しにくい」が10.4%で、
技術的な環境よりも、業務内容や就業制度が実施率に影響していることがわかります。

出勤7割減「非常にハードル高い」

今回の緊急事態宣言で政府は、テレワークの導入によって出勤する人を7割減らすよう呼びかけていますが、対応が難しい職種もあり、課題が浮き彫りになっています。

東京都内に本店を置く「朝日信用金庫」は、新型コロナウイルスの感染が拡大した去年3月にテレワークを導入しました。
在宅勤務中でも本部にある顧客の情報にリアルタイムでアクセスできるよう、社内のネットワークにつながったタブレット端末を新たに開発。およそ400人の営業職員に配布しました。

これに加え、時差出勤制度や交代制の勤務制度、それに特別休暇なども相次いで導入し、感染拡大前に比べ、対面による顧客との接触を大幅に減らすことができたということです。

しかし、これだけの対策をしても、テレワークの実施率は現時点で3割ほど。「出勤者数の7割削減」には遠く及ばないということです。

最も大きい理由は、都内を中心に60以上ある店舗の日々の運営です。

現在必要最低限の人員でやりくりしていますが、お金を扱うだけに、窓口業務の担当者のほか、支店長や一部の管理職など、1店舗につき平均10人の出勤が必要だとしています。

この信用金庫では、感染拡大前と比べても来店する人の数はほぼ変わらないということです。

また、地域との結びつきが強い信用金庫にとって、商談などを電話やオンラインである程度までまとめても、取引先の中小企業の中には最終的には対面でのコミュニケーションを重視する経営者も多いということです。

朝日信用金庫の三澤敏幸専務理事は「地域の金融機関の社会的使命として地元のお客様への支援を最優先に考えれば、最低限の人員は必要になってくる。7割削減しなければならないという意識はあるが、非常にハードルが高いというのが正直な感想です」と話しています。

そのうえで「今回の緊急事態宣言を受け、今後顧客が影響を受けて、問い合わせが増えたり新たな支援が必要になることもありえる。当面はペーパーレス化やデジタル化などを進め、まずは5割削減を目指したい」としています。

専門家「会社の方針示されず 職場の判断に委ねられている」

パーソル総合研究所の小林祐児上席主任研究員は「ここ数日の動きを見ていると、今回テレワークの実施率が去年4月の緊急事態宣言の時を大きく上回ることにはならないのではないか。出勤者数の7割削減というのは難しい情勢だ」と話しています。

その理由について、小林研究員は「この1年で市民がコロナに関していろいろな情報を得て詳しくなった結果、警戒心に個人差が生じている。これに加え、コロナ下でビジネスを回していくことに多くの人が慣れてしまったため、業務自体を止めるという判断があまりみられない。つまり、“ウィズコロナ”のビジネス環境に働き手が順応してきた結果、テレワークの実施率が上がりにくくなっている」と指摘しています。

実施率を上げる方策については「会社全体としての方針が示されないまま、個別の職場ごとの判断に委ねられてしまっている状況が見受けられる。コロナへの警戒心がばらついている中で、属人的な判断に委ねるのではなく、まずは企業のトップが『出社3割を目指す』とか『対面の会議は避ける』といった具体的な指示を出すことが必要だ」と話しています。

そのうえで「顧客に対して納期を延ばせなかったり、取引先との間で書類の受け渡しが必要だったりと、企業どうしの関係性の中で、テレワークできるかどうか決まるケースもあるので、業界として全体の方針を定め、世間やクライアント企業にテレワークへの理解を求めていかないといけないし、政府や自治体も取り組みをお願いしていかねばならない」と指摘しています。