バス会社 法令下回る運賃での運行 新型コロナの影響で再び悪化

大学生など15人が死亡した長野県軽井沢町のバス事故から15日で5年になります。事故で問題となった法令を下回る運賃での運行は、国が監査を強化して徐々に改善傾向にありましたが、新型コロナウイルスの影響で再び悪化する動きがあることがわかりました。

平成28年1月15日、軽井沢町で起きた大学生など15人が死亡したスキーツアーのバス事故では、ツアーを請け負ったバス会社が法令を下回る運賃で運行するなど多くの違反が見つかり、安全を軽視した事業運営が明らかになりました。

その背景には、法令を下回る運賃があった可能性があったなどととして、国土交通省はバス会社に対する監査を強化しています。

国土交通省が全国のバス会社1157社に行ったアンケート調査では、軽井沢の事故前は法令を下回る運賃で運行していたと回答した会社の割合が60.9%でしたが、平成30年12月には9.4%に減るなど、ここ数年改善傾向にあるということです。

しかし新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、貸切バスの利用が大幅に減って、複数のバス会社が旅行会社から再び運賃を下げてほしいと言われていることがわかりました。

国土交通省では、バス会社だけでなく旅行会社に対しても適正な運賃で事業を行うよう指導を徹底することにしています。

運賃悪化の動き バス会社の証言

貸切バスの運賃は新型コロナウイルスの影響で、悪化の動きが出ています。

関東地方にあるバス会社では、首都圏近郊への日帰りツアーの貸切バスの運賃が法令に基づく計算で、11万円台以上になりますが、軽井沢のバス事故の前は、大きく下回る6万円台で運行し、事故後、国の指導が強化されたことや旅行会社に値上げを繰り返し求めたことで、おととしには8万円台まで引き上げることができました。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、ことし9月、旅行会社から「バスツアーの需要が大きく減ってこちらも厳しい。別のバス会社はもっと安い運賃を提示している」と伝えられ、それからはおよそ7万円と1割以上下がったということです。

走行距離が長い別のツアーで、燃料費などとして3000円の値上げを求めましたが、「料金が合わない」とすぐに断られたため、あわてて7万円に戻したこともあったということです。

会社によりますと7万円では、運転手の人件費や車両の整備費、事務所や駐車場などの経費でほとんどがなくなってしまうため、この値段が続けば、万が一の事故を防ぐために運転手に行っている脳ドックなどの費用を十分に出せなくなるおそれがあると言います。

社長は、「運賃が下がるのはかなりの打撃です。本当は断らないといけないが、断ると仕事が確保できない。ほかのバス会社も値段を下げているので、泣く泣く受けています。運賃が下がると、安全対策も十分に講じられず、バスの稼働を増やして売り上げを上げるため運転手にも過酷な勤務をさせることになり結果、軽井沢のバス事故のような大きな事故が起きる可能性がある。非常に危険な状態だが、1社ではどうすることもできない」と話していました。

専門家「今後さらに懸念」

行政書士として、全国150を超えるバス会社に経営のアドバイスをするバス専門のコンサルティング会社の飯島勲社長は、新型コロナウイルスの影響で運賃が悪化し、安全がないしがしろにされるおそれがあると指摘しています。

飯島さんは、貸切バス業界は、新型コロナウイルスの影響で仕事がほとんどなくなり、国の無利子無担保の貸し付けや雇用調整助成金などで生かされている状況だとしたうえで、「今後、貸し付けの返済も加わってより厳しい状況に追い込まれる。一方でツアーの需要は、以前ほどには戻らないため、各社は運賃をどんどん下げて死に物狂いで仕事を取り始めることが懸念される」とみています。

そして車両の整備や運転手の教育など安全にかける費用が不十分になり、安全がないがしろにされるおそれがあると指摘しています。

飯島さんは、「国が監視を強化するだけでなく、利用者の側も安いだけではバス会社も旅行会社も選ばないという、社会の雰囲気を醸成することをコロナの影響で旅行が止まっているいまこそ、改めて考えるべきだ」と呼びかけています。