墨田区保健所長が語る“新型コロナのいま”

「負担は増しているが、すべての感染者について濃厚接触者などの積極的疫学調査は継続したい」。こう語ったのは、東京・墨田区保健所の西塚至所長です。これまでも発信を続けてきた西塚所長に、第3波でいま現場に何が起きているのか、そして新たな対策について話を聞きました。

感染が隅々まで広がった

記者
現在の感染拡大の状況について。

所長
第3波については、12月の第2週くらいから極めて急峻な立ち上がりがありました。
家族内感染、そして高齢者の絶対数が多いという特徴があります。
感染が隅々まで広がったなという形で、いつどこで感染してもおかしくないという状況です。

高齢者が感染して1週間くらいたって肺炎が起こるという事例も多く見られるようになっています。

記者
「医療崩壊」について。

所長
都内では、都立病院など地域の3次救急が新しい初診患者の受け入れを少しストップするという情報が入ってきています。

冬場に増える脳卒中や心筋梗塞などの通常診療がひっ迫すれば、助けられる命が助けられなくなる。

幸いそうした事例は区内では発生しておらず、完全な“医療崩壊”までは至っていません。

ただ区外への入院調整では20件、30件と断られるケースもあります。
重症者用のベッドが足りず、危機的な状況にあるという印象です。

濃厚接触者の調査 態勢8倍に増強も…

記者
感染経路や濃厚接触者を調べる「積極的疫学調査」に関して、調査を縮小する動きが出てきている。

所長
墨田区では今のところ、なんとかすべての感染者について疫学調査を行うことができています。

「トレーサー」とよばれる疫学調査を行う保健師を中心に10人だった感染症係を80人に増やして態勢は厚くしていますが、聞き取りに時間がかかっているのが実情です。

会食が原因で感染し、ほかの施設に広がっているような特徴も見受けられる中で、感染経路を追いかけていくことに意義があるという認識でいるので、調査をやめていいのかと戸惑いがあります。

記者
態勢を厚くしてもなお調査に時間がかかっているのはなぜ。

所長
今は小さな診療所でも、1日に数件発生があり、届け出が午後7時や8時にまとめて送られてくることがあります。

それからの調査になるので夜をまたぐことも多くなっています。

1人の入院調整に3時間かかることもありますし、連絡が取れない人も自宅を訪問して確認しているので、全ての調査が終わるのに翌日に持ち越すということも増えてきています。

保健所からの連絡が翌日まで来ないといった不安の声も寄せられています。

1月7日の対策本部会議でさらに10人以上人員を増やすことが決定し、経験のない職員も含めて応援をもらうことになったので、わかりやすいマニュアルを作るなどして対応したい。

積極的疫学調査 なぜ継続?

記者
首都圏の1都3県では、調査の簡略化などの基準を示すよう国に求めている。

所長
これは簡単に言うと「濃厚接触者を探さない」ということになります。
墨田区ではマスクをしていなかった忘年会の集団を見つけたこともありました。

調査をする中で墨田区民であれば濃厚接触者として特定し、すぐに検査ということになりますが、例えば神奈川県民がいた場合に「濃厚接触者ですよ」となっても検査できなくなってくる。

同じ集団でも検査できる人とできない人がいて混乱が生まれるという実例もあります。

ひっ迫の度合いに応じて地域ごとに考えるべきことだと思いますが、同じ集団の中で対応が違うということが現実起こってきているので区民、都民、国民の理解をどう得るのかが難しくなってきていると感じます。

保健所の都合で調査やめられない 事業継続に影響も

クラスターを潰していくこれまでの日本のやり方を捨てても、次にどういう戦略があるのかを区民に示すことができていません。

各企業や各団体の力も借りて、1例でも感染者が出たら調査しましょうという条件で経済回していく、事業を進めていくということで今までやってきました。

保健所の人員の都合だけで「検査しません」「濃厚接触者かどうかも判断しません」となると、感染者が出た場合に事業を継続できるのか。

区と一緒になってコロナと戦ってくれてた人たちを見捨てることにならないか、理解が得られにくいかなとしゅん巡していて、遅れ遅れになっても態勢を厚くしながらなんとか対応しているのが実情です。

急増する自宅療養者への対応は

記者
病床のひっ迫により自宅療養者が急増している。

所長
基礎疾患がある70代の患者でもすぐに入院できないという事例が実際に起きています。

1月7日の対策本部会議で在宅療養者の安全安心を確保することが緊急課題となりました。

血中の酸素濃度を測るパルスオキシメーターを必要な方に貸し出すことや、リスクの高い高齢者を中心に自宅療養中の患者を訪問して、脈や呼吸数、酸素飽和度等を把握して重症化の予兆を毎日確認する取り組みを始めています。

予兆があれば早め早めに入院の手続きを進めるので、いざ本当に悪くなってからお待たせすることがないように準備もできる。

住民の安心にもつながるし、健康観察をしている職員の疲労、ストレスなどにも少し安心が広がっているという実感があります。

長期化する対応

記者
長期化で職員のストレス、負担感は。

所長
年末年始も休みなしに職員は対応にあたりました。

対応する数がどんどん増えてきて、健康観察をしてる方の人数も増えているので、完璧にやらないといけないというこれまでの考え方では行き詰まりも出てきてるのも実情です。

重症者が手遅れにならないように効率的にやっていく、1日50枚も出てくる発生届をすぐに入院させなければならない人をトリアージしていく優先度をつけていくという中で、後回しせざるを得ない人たちを保健師たちは心配しています。

そういった中でも住民の健康、命をしっかり守るためにも、重症者を見逃さないこともそうですし、在宅の方の声をしっかり把握して、急変があったら飛んでいくという体制が常にとれてないといけないという責任の重さを痛感しています。

ワクチンへの期待

記者
今はどういう時期。

所長
ワクチンの準備も進んでいます。

区でも接種会場も大体決まってきましたし、ワクチンの必要数や、いつまでに何人というのも具体的に見えてきました。

2月から3月にも動き出すので明るいニュースが見えてきているなかで今ががんばりどころだと考えています。

集中的に患者を減らす協力を

記者
最後に区民に伝えたいことは。

所長
医療がひっ迫しているということで、自宅で療養している感染者も重症化した場合助かるのかという心配の声を聞きます。

墨田区でも24時間体制で病院を探すオペレーションを医師が行っております。

入院まで少し自宅で待ってもらうという期間があるかと思いますが、訪問看護やパルスオキシメーターを使って健康を守っていきたい。

感染者をこれ以上増やさないように7割のテレワークも含めてお願いしていますが、いま集中的に感染者を減らすことで命が守れます。
ご協力をお願いしたいと思っています。