初の「大学入学共通テスト」へ 高校は厳戒態勢

およそ30年続いた大学入試センター試験に代わり、初めて実施される「大学入学共通テスト」。都内の高校ではオンライン授業に切り替えたり自習室を拡充したりと、感染対策を徹底して厳戒態勢で臨んでいます。

このうち東京 台東区にある都立の白鴎中高一貫校では、今月16日から共通テストが始まるのを前に、高校3年生の授業を冬休み明けからすべてオンラインに切り替えています。

共通テストで「現代社会」を受験するおよそ20人の生徒を対象にした授業では、教員が空き教室から配信し、社会問題や景気変動に関する問いなどを出し、理解度を把握したうえで間違えやすいポイントを説明してテスト対策を進めていました。

池田仁教諭は、「感染リスクを避けるため受験生はオンライン授業にしています。生徒たちが頑張ってきたことは知っているので、対面で直接元気づけたいところですが、離れていても応援しているので頑張ってほしい」と話していました。
また東京 杉並区の都立西高校では受験生のために感染対策を徹底しながら自習スペースを拡充しています。

学校では先週までに高校3年生の授業を終えていて、今週は受験勉強に備えて自主登校期間に入っていますが、ことしは塾や予備校の自習室から分散して、学校に自習に来る生徒も少なくないということです。
学校では、教室のほか同じ敷地内にある会議室や放課後の食堂も開放し、アクリル板で仕切るなどの感染対策を講じたうえで自習スペースを拡充していて、各教室では3、4人ほどの3年生が問題集を解いたり、共通テストの対策を取ったりしていました。廊下のコーナーには、初めて行われる共通テストに備え教員が作った対策プリントが毎日置かれていて、生徒たちが活用していました。

高校3年の男子生徒は「家だと集中力が続かず、学校のほうがクラスメートも勉強しているので刺激にもなります。共通テストのプレテストでは文章量が多く、センター試験の問題より解くのが難しかったので、今は重点的に対策しています」と話していました。

また女子生徒は「塾も感染対策をしていますが、学校のほうが人が少なくて距離を取れ、先生にもすぐ質問ができるので自習に来ました。どんな問題が出るのかすごく不安ですし、コロナで受験にも影響が出たらと思うと怖いですが、できることは感染対策を徹底して勉強することだけなので引き続き頑張りたい」と話していました。
都立西高校の萩原聡校長は「今回は英語の民間試験や数学と国語の記述式の導入が見送られ、どれほど思考力や判断力が問われる問題になったかは、当日の問題を見てみないと分からない。ことしは試験の内容がどうなるかも定まらず、感染拡大などで環境も変わり世の中が混とんと動く中での受験となったが、自分たちがやってきたことを信じて、試験で発揮できるよう頑張ってもらいたい」と話していました。

試験会場も異例の対応

緊急事態宣言の対象地域が拡大する中で、受験生を受け入れる試験会場でも異例の対応がとられています。

共通テストを実施する大学入試センターでは会場となる大学などに対し、
▼受験生の席は1メートルほど間隔を空け、1科目終了ごとに換気を徹底すること、
▼急な体調不良に対応する医師や看護師の配置や、
▼無症状の濃厚接触者のための別室の確保、
といった感染対策を求めています。
このうちおよそ2500人が受験する東京 小金井市の東京学芸大学では大量のアルコール消毒液やマスク、フェイスシールドなどの確保を進めてきました。

無症状の濃厚接触者の受験生への対応では、一般の受験生の会場から離れた正門のそばの建物を会場に設定し、試験監督の席の前方にアクリル板を設置したり、席の間隔を2メートルほどあけるなど受け入れの準備をしています。

また国立の福井大学では、学生や教職員の感染により試験に使う施設が消毒などで使えなくなったり、試験監督に欠員が生じたりする事態を防ぐため、冬休み明けの今月5日から共通テストの当日までの授業を原則としてすべて遠隔にしていて、受験生の努力が報われるよう各地の会場で最大限の感染対策が行われています。

どう変わるのか 予備校も対策

大学入試センター試験に代わり「大学入学共通テスト」が初めて実施され、「入試改革元年」とも言われる中でのことしの受験。これまでとどう変わるのか、予備校も分析し対策しています。

「大学入学共通テスト」は、グローバル化やAIなどの技術革新が進み、「答えのない時代」と言われる社会を生きていく子どもたちが、必要な力を伸ばせるよう大学入試改革の議論の中で導入が決まりました。

当初、改革の柱として予定されていた英語の民間試験の活用や国語と数学の記述式問題の導入はいずれも見送られ、マークシート方式が維持されますが、思考力や判断力がより重視され、知識偏重ではなくみずから考える力が問われるようになります。

こうした中、大手予備校の河合塾は大学入試センターが2017年と18年に実施した共通テストの試行調査などを分析したうえで、独自に国語と数学、それに英語で模擬試験を作成して対策してきました。

担当者によりますと、特に英語で変化が想定されるということで、試行調査の「リーディング」では文章や図など複数の資料が示され、使われている単語の分量をセンター試験と比べたところ、2割ほど多くなっていたといいます。

独自に作成した模試ではこうした傾向を反映させたうえで、英語では歴史上の人物の経歴を英文で示した資料を読み解き、自分がその人物について発表するとしたら、どの要素を伝えるか選択肢の英文から答えさせる問題を盛り込みました。

また数学でも九九についての思い出などを語る2人の人物の会話から計算式を導き出す問題などを示し、限られた時間の中で複数の資料や対話の内容を読み解く力が試されることを想定しているといいます。

この模試は、新たな入試を想定して無料で実施され、全国から6万人余りが参加したということですが、およそ7割が時間が足りなかったと答えたということです。
河合塾新宿校の鶴田昌也校舎長は「これまでと同様に基礎学力は必要だが、思考力や判断力などが求められる入試になる中で、より考えて答えを導き出すことや、多くの資料のどこに着目するか判断し、時間を有効に使うことが重要になると思う」と話していました。

“力を試す大きなチャンスと捉えて”

緊急事態宣言が出ている中で始まる大学入学共通テストについて、入試に詳しく国の委員も務めたリクルート進学総研の小林浩所長は「新たなテストの導入は、グローバル化や技術革新、それに今回の新型ウイルスのように社会が大きく変化する中で、知識の量ではなくみずから考え表現する力が必要になっていることが背景にある。知識を活用して実社会に対応していく、答えが1つではない問題に自分で解を見つけていくことが求められている」としています。

そして、ことしの受験生に対し「学校が休校になったり、クラブ活動や大会に出られなかったりと、いろんな苦労があったと思う。まさに“答えのない時代”というのが目の前にあるが、今回の新テストも2030年、2040年を生き抜いていく若者たちに向け変わっていくと思うので、自分の力を試す大きなチャンスと捉えて臨んでほしいと思います」とエールを送っていました。