新型コロナの感染拡大 がん治療に影響 “救える命が救えない”

新型コロナウイルスの感染拡大で、がんの治療に支障が出ています。大阪大学医学部附属病院が、ことし4月以降に関西の関連病院で行われた胃がんの手術の数を調べた結果、去年より2割近く減少していたことが分かりました。新型コロナウイルスの重症患者の受け入れで集中治療室が不足していることなどが原因で、調査をした病院は「このままでは助けられる命が助けられなくなる」と危機感を訴えています。

大阪大学医学部附属病院は、大阪府と兵庫県にある合わせて40余りの関連病院について4月から先月末にかけて行われた胃がんと大腸がんの手術の数を調査しました。

その結果、胃がんの手術は1007件で去年の同じ時期の81%に、大腸がんは2583件で89%にそれぞれ減少していたということです。

病院によりますと、これらのがんの患者で心筋梗塞などの合併症がある場合、手術後も集中治療室で治療を続ける必要がありますが、新型コロナウイルスの重症患者の受け入れが増えて集中治療室と看護師が不足し、以前にように手術ができなくなっているということです。

調査を実施した病院では全国の消化器系のがんの手術のおよそ1割が行われていて、早急に手術が必要な患者は別の病院に転院させ、医師が出向いて手術をしたり、集中治療室を使う期間を去年の半分程度に抑えたりして対応しているということです。

大阪大学医学部附属病院の病院長を務める日本癌治療学会の土岐祐一郎理事長は「新型コロナウイルスは医療全体にダメージを及ぼしていて、すでに病院の努力だけでは解決できない状態だ。このままでは助けられる命が助けられなくなるといった影響が確実に出てくる」と話しています。

感染おそれ患者が受診控えるケースも

新型コロナウイルスへの感染をおそれて、がん患者が自分の判断で受診を控えるケースも相次いでいます。

大阪大学医学部附属病院でも特に緊急事態宣言が出ていた前後の4月から6月にかけてこうした患者が目立ち、中にはがんの進行を疑わせる症状があった人もいるということです。

関連病院で食道がんのステージ3と診断された、山口啓仁さん(73)は、ことし2月からのどに違和感を感じていましたが、診断を受けたのは9月に入ってからでした。

山口さんは「4月に受診しようと思ったが、緊急事態宣言もあり家から出ない状況が続いて、外出してもいいのかどうかも分からなかった。診断されたときはショックで足が震えて、もう少し早く発見できなかったのかという気持ちになった」と話しています。

その後、手術でがんを切除して治療を終えましたが「新型コロナウイルスがなければ早く見つかって手術せずに済んだのではないか、もっとステージが低かったんじゃないかといまだに考えている」と話しています。

日本癌治療学会の土岐祐一郎理事長は「がんは必ず進行するので病院に来なかった患者がどうなってしまうのかが非常に気がかりだ。治療をやめてしまう人も出てきていると思うので、正確な知識や情報を患者に提供していきたい」と話しています。

診断の遅れが生存率の減少に

イギリスの研究機関などが医学雑誌「ランセット」に発表した論文によりますと、一般的ながんでは、医師の診断が3か月遅れると大半の年齢で10年後の生存率が10%以上減少する可能性があるとしています。

一方で、がん患者を支援している団体「CSRプロジェクト」がことし10月に、新型コロナウイルスによる治療への影響を調査したところ、5年以内にがんと診断された患者の12.9%が「治療内容やスケジュールに変更があった」と回答しました。

このうち「自分の判断で変更した」という人が37.5%に上ったということです。

また、主治医などに判断してもらわずに治療内容などを変更した理由を尋ねると、76.5%が「院内感染の不安」を挙げたということです。