変異ウイルス拡大 英からの旅客機受け入れ停止 欧州諸国が警戒

イギリスで、感染力が強いとされる変異した新型コロナウイルスが広がっていることを受けてヨーロッパ各国はイギリスからの旅客機の受け入れを停止するなど、影響が広がっています。

イギリスでは、首都ロンドンを含む南東部で、変異した新型コロナウイルスの感染が拡大していることを受けて、20日から急きょこの地域での外出制限など厳しい感染対策が導入されました。

イギリス政府は、変異したウイルスは感染力が強いとみられるものの、重症化のリスクが高まることを示す根拠はないとしています。

これを受けてヨーロッパ諸国は警戒を強めていて、ドイツやイタリア、それにオランダなど各国がイギリスからの旅客機の受け入れを停止する措置をとることを決めました。

また、フランスは、旅客機のほか、イギリスからのトラックによる輸送なども21日から2日間、停止するとしています。

これについてイギリスではシャップス運輸相が「重大な混乱が見込まれる」として、運送事業者などに対しフランスに向かわないよう呼びかけています。

また、イギリスの業界団体の食品・飲料連盟は「クリスマスの時期の生鮮食品の供給や、食品や飲料の輸出に深刻な影響を引き起こすおそれがある」と懸念を示しています。

イギリス政府は、21日に緊急の閣僚会議を開いて対応を協議するとみられていて市民生活への影響が広がりかねない事態になっています。

WHO 英ほか3か国で変異ウイルス確認

WHO=世界保健機関で新型コロナウイルス対応の技術責任者を務めるバンケルコフ氏は20日、イギリスの公共放送BBCの番組に出演し、変異した同じウイルスがイギリスのほか、デンマーク、オランダ、それにオーストラリアでも確認されたことを明らかにしました。

そのうえでバンケルコフ氏は「ウイルスの変異自体は常に起きうる。大切なのは、今回の変異で何が起きるのか理解することだ」と述べ、変異したウイルスの特性を見極める必要があるという考えを示しました。

変異ウイルス イタリアでも1人感染確認

イタリア政府は20日、イギリスからの旅客機の受け入れを禁止し、過去14日間にイギリスに滞在した旅行客の入国も禁じると発表しました。

また、すでにイギリスからイタリアに入国した人に検査を呼びかけていて、これまでに1人が変異した新型コロナウイルスに感染していることを確認したということで、隔離を行うとともに家族など濃厚接触者の調査を行っているとしています。

EU域外の国でも旅客機受け入れ停止の動き広がる

イギリスで、変異した新型コロナウイルスの感染が拡大していることを受け、EU域外の国もイギリスなどからの旅客機の受け入れを相次いで停止しています。

中東のサウジアラビアは20日、国営通信が内務省当局者の話として、すべての国際線に加え、陸路や海上からの入国を1週間にわたって停止する緊急措置をとると伝えました。

隣国のクウェートも21日からイギリスを「高リスク国」に加え、旅客機の受け入れを停止すると発表しました。

また、トルコも20日、イギリスのほか、変異したウイルスが確認されたデンマークやオランダなどからの旅客機の受け入れを一時的に停止すると発表しました。

変異型のウイルスとは

イギリスの保健当局は、変異したウイルスが、重症化や体の免疫の働き、あるいはワクチンの効果に何らかの影響を与えることを示す証拠は、今のところはないとしています。

また、北半球で冬に流行するインフルエンザウイルスが毎年変異するように、ウイルスが変異するのは珍しいことではないとしています。

今回確認された変異型は、ウイルスの表面に「とげ」のように突き出ている「スパイクたんぱく質」と呼ばれる部分に変異があるということです。

この部分は、ウイルスがヒトの細胞に入り込む際に重要な働きをすることがわかっていて、保健当局は、この部分の変化は、よりヒトに感染しやすくなったり、ヒトからヒトに広がりやすくなったりすることにつながる場合もあるとしています。

一方、ジョンソン首相が19日に「従来よりも最大で70%感染しやすいようだ」と述べたことについて、公共放送BBCは専門家の発言を引用して「何かを言うにはまだ早すぎる。しかし、これまでよりも、感染の広がりはとても速い。注視することが重要だ」と伝えています。

BBCは、この変異型が初めて確認されたのはことし9月で、11月にはロンドンで感染が確認されたケースの、およそ4分の1で見つかったとしています。

また、今月中旬には、ロンドンで感染が確認されたケースの3分の2近くで見つかるようになったということで「変異したウイルスによって重症化するという証拠はないが、感染力が強まれば、医療現場の負担が強まる」と伝えています。

官房長官「英政府やWHOとも緊密な情報交換」

加藤官房長官は、閣議のあとの記者会見で「変異したウイルスが重症化しやすいかや症例数の増加につながるかは現時点で不明で、厚生労働省においてイギリス政府やWHO=世界保健機関とも緊密な情報交換をしている。国立感染症研究所によると、わが国において同様の変異したウイルスは確認されていないということだが諸外国の感染状況や対応を注視しながら感染拡大防止対策に努めていきたい」と述べました。

そのうえで、イギリスからの入国について「わが国はもともとイギリスを上陸拒否の対象国に指定しており、特段の事情のないかぎり新規入国は原則禁止としている。感染状況などを見つつ慎重に対応していく」と述べました。

厚生労働相「専門家と相談し対応を早急に検討」

イギリスで感染力が強いとされる変異した新型コロナウイルスが広がっていることについて、田村厚生労働大臣は、記者会見で「外務省を通じて確認している最中だが、ジョンソン首相が『感染力が70%増している可能性がある』と話し、ヨーロッパの隣国もいろんな対応をしているので、重く受け止めないといけない」と述べました。

そのうえで「情報を確認したうえで専門家と相談をしてどういう対応をすべきか早急に検討し、実施していかないといけない」と述べました。

一方、田村大臣は、国内の感染状況について「史上最多の水準が続き、医療提供体制に負荷がかかっている。忘年会や新年会、帰省などの時期になるので、静かな年末年始を迎えるために感染を広げないための対応をお願いしたいし、最大限の危機感を持って体制の整備を進めたい」と述べました。

茂木外相「英国は上陸拒否対象国」

茂木外務大臣は閣議のあとの記者会見で「英国との人の往来については従来から、英国を上陸拒否の対象国に指定していて、特段の事情が無いかぎり、新規入国は原則、禁止している状態だ。英国からの入国に関しては感染状況を見ながら、引き続き、慎重に対応していきたい」と述べました。