【データで読み解く】日銀短観 2期連続改善も厳しい状況続く

日銀が発表した短観=企業短期経済観測調査で、大企業製造業の景気判断を示す指数はマイナス10ポイントと、前回・9月の調査に続いて2期連続で改善しました。
指数は大きく改善しましたが、新型コロナウイルスの影響で大企業の景気に対する見方は依然として厳しい状況が続いています。

日銀の短観は、国内の企業およそ9500社に3か月ごとに景気の現状などを尋ねる調査で、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた指数で景気を判断します。

今回の調査は、先月中旬から今月中旬にかけて行われ、大企業製造業の指数はマイナス10ポイントと、前回・9月の調査に続いて2期連続で改善しました。
前回のマイナス27ポイントから17ポイント改善し、改善幅は2002年6月調査以来18年半ぶりの大きさとなりました。

国内外で経済活動の再開が本格化し、すそ野の広い自動車産業で生産が回復していることが主な要因で、「自動車」が48ポイント、「鉄鋼」が30ポイント、それぞれ改善しました。

また、前回調査でマイナス12ポイントだった飲食や宿泊などを含めた大企業の非製造業も、7ポイント改善してマイナス5ポイントと、こちらも2期連続の改善となりました。
ただ指数は、製造業・非製造業ともに、新型コロナウイルスの感染が拡大する前の去年12月を下回っています。
さらに先行きについても、大企業の製造業の改善幅は2ポイントにとどまったほか、非製造業は逆に1ポイント悪化しており、感染が再拡大する中、企業の景気に対する見方は依然として厳しい状況が続いています。

景気判断 改善した業種と悪化した業種

今回の短観で、景気判断が改善した業種と、悪化した業種を見ていきます。

大企業の製造業

まず、大企業の製造業です。

改善幅が最も大きかったのは
▽「自動車」で、前回に比べ48ポイントの改善となりました。
改善幅は、2011年9月調査以来、およそ9年ぶりの大きさです。

また、自動車がけん引する形で
▽「鉄鋼」が30ポイント、
▽銅やアルミの加工メーカーなどの「非鉄金属」が27ポイント、
▽工作機械メ-カーなどの「生産用機械」が22ポイント、
いずれも前回に比べ改善しました。

一方、「造船・重機など」は、新型コロナウイルスの影響で受注が減ったため、7ポイント悪化しました。

大企業の非製造業

続いて、大企業の非製造業です。

新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けている「宿泊・飲食サービス」は、今回の調査でもマイナス66ポイントでしたが、前回に比べると21ポイント改善しました。
日銀は、政府の需要喚起策、「Go Toキャンペーン」の効果が主な要因と見ています。

また、遊園地や劇場などの「対個人サービス」も22ポイント改善しました。

ただ「建設」は、工場やビルなどへの投資が控えられていることもあり、4ポイントの悪化となりました。

日銀「景気の先行きに懸念示す回答も多い」

日銀は「今回の調査では幅広い業種で『需要が回復している』という声が聞かれたものの、新型コロナウイルスの感染が再び拡大していることで、先行きに懸念を示す回答も多かった。特に中小企業の非製造業は先行きを厳しく見ていることがうかがえる」と話しています。

企業の慎重な見方 雇用や設備投資の調査結果にも

景気の先行きに対する企業の慎重な見方は、雇用や設備投資の調査結果にもあらわれています。

来年度=2021年度の新卒の採用計画は、今年度に比べ大企業でマイナス7.5%、中小企業でマイナス2.0%でそれぞれ下方修正されました。
すべての規模・産業では、今年度に比べマイナス6.1%となっています。
また、通常は年度の後半にかけて上向く傾向がある設備投資も、今回の調査では下方修正されました。
今年度の設備投資計画は、すべての規模・産業でマイナス3.9%となり、12月調査としてはリーマンショックのあとの2009年以来、11年ぶりにマイナス圏に沈んだ形です。
日銀は「企業の業績が悪化する中、『不要不急の設備投資は先送りしたい』という声が聞かれた」としています。

専門家「天井の低い成長軌道 回復軌道に」

みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは、「かなり速いペースでの回復が見られたのは素直に好材料だと思う。ただ、回復したとは言っても大きく落ち込んだところからあくまで半分戻した程度に過ぎず、コロナ以前の景気のレベルからははるかに低いのが現状だ」と分析しています。

また、「経済をもとの状態に戻すには相当のバネが必要になるが、成長のけん引役が見当たらない。水準の低い経済活動が続いていること自体が、新しい投資や新しい雇用を抑制してしまうリスクが高まってきている」と指摘しました。

その上で先行きについて小林チーフエコノミストは「この先、V字回復が待っているとは現時点では言い切れず、どちらかと言えば天井の低いL字型のような成長軌道・回復軌道になることを余儀なくされてしまう可能性も残っている」としています。