苦境に立たされる飲食店「勝負の3週間」から2週間

“第3波”とも言われる感染拡大を受け、政府が「勝負の3週間」と対策を呼びかけてから2週間。全国の飲食店の来客数データからは、客足が大幅に減少するなど変化が見られる中、年の瀬を前に苦境に立たされる飲食店も出ています。

飲食店に予約や顧客管理のシステムを提供している東京のIT企業「トレタ」は、全国のおよそ5300店舗の来客データを週ごとにまとめています。

このうち「来客数」を見ると、緊急事態宣言が出されたことし4月には去年の7%と、最も少なくなりましたが、その後は、感染対策やテイクアウトの導入が進んだことなどを背景に、回復傾向をたどってきました。

さらに
▼「Go Toイート」が始まった10月には、去年の80%まで回復する週も見られ、
▼最も客足が戻った先月2日の週には88%となりました。

しかし、その後減少に転じ、
▼「勝負の3週間」が始まった11月23日の週には前の週から10ポイント減って去年の67%に、
▼先週の11月30日の週にはさらに13ポイント余り減って去年の54%にまで落ち込み、
この2週間で23ポイント、1か月で34ポイント減少したことがわかりました。

データをまとめたIT企業では、
▼11月には「Go Toイート」のポイント付与事業が終了し、
▼先月25日には西村経済再生担当大臣が「この3週間が勝負」と述べ、各地の自治体が相次いで▽営業時間の短縮を要請し、▽「Go Toイート」のプレミアム付き食事券の新規発行を一時停止する措置をとったことなどが背景にあると見ています。

都道府県ごとの来客数

飲食店の来客データを去年と比較できた都道府県をみると、感染が拡大している地域を中心に来客数が大きく減少していることが分かります。

このうち早い段階から不要不急の外出自粛が要請されるなどしていた北海道は、先週、11月30日の週の来客数は去年の26%と、ことし6月ごろの水準まで落ち込み、この1か月でみると40ポイント以上減少しています。

このほか
▼1か月前には去年の96%にまで回復していた大阪府では、前の週から20ポイント余り減って先週には去年の43%に、
▼宮城県は去年の49%、
▼東京都は去年の50%と、
いずれもことし8月ごろの水準に戻っています。

一方で、感染者の大幅な増加は見られないとして、「Go Toキャンペーン」の利用制限などを行っていない福岡県では、前の週から10ポイント以上下がっているものの、去年の73%となっています。

3~4人利用も減少

飲食店に来店した際の「人数別データ」にも変化が見られます。

宴会を中心とした「11人以上」の来店は、客足が戻った10月から11月にかけても20%ほどにとどまり、直近の11月30日の週では、およそ11%とより低い水準となっています。

一方、1人から4人の少人数での来店は去年より増える時期もあり、「3人から4人」を見ると、11月2日の週には去年の115%まで伸びましたが、11月30日の週は75%と、1か月近くで40ポイント減少しています。

データをまとめたIT企業「トレタ」では、「感染拡大の中で少人数の利用者が苦境の飲食店を支えてきたと考えられるが、その層も再び利用を控え始めていると見られる。『万策つきた』という店側の声もあり、飲食店にはさらに厳しい状況が続くと予想される」としています。

都内の区では格差

23区のうち、飲食店の来客データを去年と比較できた11区を見ると、40ポイント以上の差が開いています。

去年の同時期と比較した、先週、11月30日の週の来客数の割合は、
▽世田谷区で去年の84%、
▽目黒区で70%となっている一方で、
オフィス街が多い
▽千代田区では37%、
▽中央区では43%と
ことし8月ごろの水準まで戻っています。

データをまとめたIT企業では、住宅地周辺の店では比較的、客足が踏みとどまっているものの、テレワークの導入が進んだことなどからオフィス街が多い地域を中心に大きく落ち込んだことが背景にあると見ています。

飲食店「かなり追い込まれている」

あらゆる対策を講じながら営業を続けてきた都内の飲食店では、「勝負の3週間」に入ったあと、売り上げは去年の3割まで落ち込み再び苦境に立たされています。

東京 千代田区のオフィス街にある宴会居酒屋では緊急事態宣言以降、アクリル板や空気清浄機の設置など感染対策はもちろん、人が触る場所はすべて抗菌コーティングをするなどあらゆる対策を講じてきました。

例年の忘年会シーズンには、30人以上が入る宴会場もことしは、パーテーションを設置し席の数も半分ほどに減らして、1組だけ通すなど少人数の客に対応できるよう取り組んでいます。

厳しい経営が続いていましたが「Go Toイート」の運用が始まり、10月の売り上げは去年の6割ほどまで戻り、11月のランチの売り上げは去年と同じ水準まで回復していました。

しかし「勝負の3週間」が呼びかけられたあと、東京都による短時間営業の要請や「Go Toイート」の新規発行が停止されると、戻り始めていた客足は遠のき、売り上げは去年の3割まで落ち込んでいます。

年末のかき入れ時にもかかわらず、12月の宴会による売り上げは去年の2%ほどだと言います。

店長の小林敏宏さんは「すべての予約が1回キャンセルとなり、一気に7月8月ぐらいの状況に戻りました。この状況が続くことは正直考えたくないです。1年間で1番のかき入れ時なのでかなり追い込まれています」と話しました。

周辺のオフィス街では、会食の自粛やリモートワークを継続している企業も多く、緊急事態宣言以降、人出が大幅に減った影響で、閉店に追い込まれた店も少なくないといいます。

小林さんは、「お客様が少しでも安心して利用いただける環境のために、これ以上ないくらいの感染対策をしているので、あとはお客様と一体になって感染者を増やさない努力に取り組んでいきたい」と話しています。

“時短要請応じず” 苦渋の決断も

「勝負の3週間」を受けて、東京都は飲食店に対し、営業時間の短縮を要請していますが、都から支給される協力金では従業員の生活を守れないと、午後10時以降も営業を続ける店もあります。

都内のビアレストランでは、感染拡大で4月には売り上げが例年の3%まで落ち込みましたが、10月には「Go Toキャンペーン」を利用して予約する客が増加し、例年の85%まで回復していました。

しかし、「勝負の3週間」が呼びかけられ都内では営業時間の短縮要請や、「Go Toイート」の食事券の新規発行を一時停止する措置などが取られ、客足は減少し先月下旬から再び例年の半分程度にまで落ち込んでいます。現在、忘年会の予約も一切なくなっているといいます。

感染対策はもちろん、テイクアウトの販売を展開し、社員にはボーナスを支給せずに我慢してもらうなど手を尽くしてきましたが、家賃や社員9人の人件費などの固定費が月におよそ1000万円かかり、都が支給する協力金40万円では大幅な赤字を補えないといいます。

店を経営する男性は、「医療機関が大変だという話を毎日聞いている中で、時短営業に協力しなくちゃいけないという気持ちも強くありますが、やはり従業員や家族の生活、会社自体を守らないといけないというところで、今回の要請に従わないという苦渋の決断をしました」と話しています。

店では、夜中は提供する料理を通常の4分の1程度にし、経営者の男性と妻の2人で店を切り盛りして、社員数人分の給与にあてようとしています。

経営者の男性は「治療薬ができるのが先か会社が潰れるのが先か、危機感を持ちながら営業しています。現状ではコロナに関する融資を受けてなんとかやっていますが、資金が尽きた段階で店を畳まざるを得なくなるので店舗の規模などに応じた協力金を設定してほしい」と話しています。

医師「あと1週間 行動変容が極めて重要」

今回のデータを受けて感染症に詳しい水野泰孝医師は、「短時間営業などに対する補償がないかぎりは事業の継続は極めて難しい。すべての補助や支援を一律に止めるのではなく、たとえば1人での飲食や家族だけでの旅行など、リスクの低い方々に対するキャンペーンを打ち出すなどきめ細かな対策が必要ではないか」と指摘しています。

そのうえで、「飲食店は生き残りをかけ今できる感染対策はすでに取っているところが多いが、利用者が対策を無視しては意味がない。“勝負の3週間”にしっかりとした対策が求められているので、あと1週間ぐらいだが、この時期だけでも大人数や、長時間会食、会話をするといったリスクのある行動を極力避けることで、効果が年末年始に出てくる。そういった行動変容が極めて重要だと考えられる」と話しています。