政府 新たな経済対策決定 規模73兆円超 コロナ対策など3つの柱

政府は8日の臨時閣議で、事業規模が総額73兆6000億円程度となる新たな経済対策を決定しました。新型コロナウイルス対策として「地方創生臨時交付金」を1兆5000億円拡充するほか、グリーン分野の研究開発を支援する2兆円の基金の創設などを盛り込んでいます。

政府は8日夜、臨時閣議を開き、新型コロナウイルスの感染拡大防止策と、ポストコロナに向けた経済構造の転換、国土強じん化の3つを柱とした、新たな経済対策を正式に決定しました。

このうち感染拡大防止策では、自治体が飲食店に営業時間の短縮を要請し、協力金を支払う場合などに活用できる「地方創生臨時交付金」を1兆5000億円拡充するほか、医療機関向けの「緊急包括支援交付金」を増額し、病床などを確保するとしています。

経済構造の転換では、グリーン分野の研究開発を支援する2兆円の基金を創設し、今後10年間継続的に支援するほか、デジタル化をめぐって、いわゆる「ポスト5G」などの開発を強化するとともに、世界レベルの研究基盤を構築するため10兆円規模の大学ファンドを設けるとしています。

また、業態転換などに取り組む中堅・中小企業を支援する補助金の創設や、「雇用調整助成金」の特例措置を来年2月末まで延長し、3月以降は段階的に縮減して、雇用情勢などが厳しい地域や業種に特例を設けることを盛り込んでいます。

「Go Toトラベル」については、当面の予算不足を予備費で補い、感染状況を踏まえて柔軟に対応し、来年6月末までを基本に延長するとしています。

さらに不妊治療への支援をめぐり、令和4年度からの保険適用を見据え、所得制限を撤廃したうえで、対象拡大を前提に助成額を大幅に拡充するほか、予備費を活用して、所得の低いひとり親世帯に年内をめどに給付金を再度支給するとしています。

一方、国土強じん化では、来年度から令和7年度までの「5か年加速化対策」を取りまとめるとして、必要となる事業規模は15兆円程度を目指すとしています。

新たな経済対策は、財政支出が40兆円程度、事業規模が総額73兆6000億円程度となり、政府はこれをもとに、今年度の第3次補正予算案と来年度=令和3年度予算案の編成作業を加速させる方針です。

1つめの柱 新型コロナウイルスの感染拡大防止

まず、1つめの柱である「新型コロナウイルスの感染拡大防止」です。

このところ、新規の感染者数や重症患者の数が夏の“第2波”のピークを超え、感染の“第3波”に入ったという指摘もあります。

感染拡大は、外出の自粛などを通じて個人消費や企業業績の悪化につながるため、経済の落ち込みを抑えるうえでも、感染拡大の防止は最優先の課題です。

このため、政府は「緊急包括支援交付金」を増額し、重点医療機関などの病床や軽症者を受け入れる宿泊療養施設の確保、外国人対応の充実など医療を提供する体制を強化するとしています。

また、PCR検査や抗原検査を確実に受けられる体制の確保や、ワクチンが開発された際、希望する国民が接種を受けられるように接種費用を国費で負担するなど体制の整備に万全を期すとしています。

このほか、各都道府県が飲食店に営業時間の短縮や休業を要請する際の協力金などの財源として「地方創生臨時交付金」を拡充します。

2つめの柱 ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現

次に2つめの柱「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現」です。

感染の拡大を防ぐだけでは、日本経済を成長軌道に戻すことは難しく、ポストコロナを見据えた経済や社会の構造転換を加速する必要があります。

このため、政府は厳しい経営環境にある中小企業の事業転換を後押しして、生産性の向上や賃金の上昇につなげたい考えです。
具体的には、事業転換などにかかる設備投資などの費用を最大で1億円補助したり、政府系金融機関の日本政策金融公庫が低金利で融資したりする仕組みを導入します。
また「デジタル化」を進めるため1兆円を超える規模を対策に盛り込んでいます。
実用化が始まった最先端の通信規格、「5G」をさらに強化した「ポスト5G」や「6G」の技術開発を加速させます。

また、遅れが指摘される行政サービスのデジタル化に向けて、各府省庁のシステムを統一して行政手続きの利便性を高めるほか、マイナンバーカードの普及を図るためのポイント還元制度である「マイナポイント」の期限を半年間、延長します。

また、世界的に「脱炭素」の取り組みが広がる中、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする目標を掲げています。
その実現に向けて、過去に例のない2兆円の基金を創設し、野心的なイノベーションに挑戦する企業を10年間継続して支援します。

また、省エネにつながるなど一定の条件を満たした住宅を購入すると、ポイントを受け取れる制度を設け、低迷が続く住宅市場の活性化も同時に目指します。

3つめの柱 防災減災・国土強靭化の推進

3つめの柱は「防災減災・国土強靭化の推進」です。

来年度以降も災害などの状況に応じて機動的で弾力的な対応を行う必要があるとして、事業規模で15兆円規模となる防災・減災や国土強靭化のための「5か年加速化対策」を新たに策定することが盛り込まれました。

持続化給付金などは終了へ

今回の経済対策では、延長される支援策がある一方、終了を見込んでいる支援策もあります。

来年1月末がめどとされてきたGo Toトラベルの期限は、制度を段階的に見直しながら、来年6月末まで延長することを、基本の想定とするとしています。

Go Toイートは、プレミアム付き食事券の事業の期限を6月末として、プレミアム分を引き下げて追加発行するとしています。

12月末に期限を迎える「雇用調整助成金」の上限額の引き上げなどの特例措置は現在の水準のまま来年2月末まで延長し3月以降、段階的に縮減するとしています。

このほか、日本政策金融公庫による実質、無利子無担保の融資を来年の前半まで、民間の金融機関を通じて行う実質、無利子無担保の融資は来年3月までそれぞれ延長するとしています。

さらに、生活に困っている人が当面の生活費を無利子で借りられる「緊急小口資金」の申請期限を来年3月末まで延長するとしています。

その一方で、緊急事態宣言のような非常時に盛り込んだ中小企業に対する最大200万円を支給する「持続化給付金」や、賃料の負担を軽減する「家賃支援給付金」は、来年1月の申請期限をもって終了させる見通しです。

感染拡大防ぎ 日本経済下支え

今回の経済対策のねらいは、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐことと、歴史的な落ち込みとなった日本経済を下支えすることです。

日本経済は、ことし7月から9月までのGDP=国内総生産が高い伸びとなるなど、持ち直しつつありますが、新型コロナウイルスの感染が再び広がる中、先行きは不透明感が強まっています。

このため、政府は経済対策を裏付ける予算として、今年度の第3次補正予算案と来年度予算案を合わせた「15か月予算」を組む考えで、詰めの編成作業に入っています。

予算編成の課題「財政状況の悪化」

ただ、予算を編成していくうえでは大きな課題があります。

1つは「財政状況の悪化」です。

今年度の一般会計の歳出規模は、2度にわたる補正予算もあって、すでに過去最大の160兆円余りに膨らみ、歳入の56.3%を国債に頼るという過去最悪の状況に陥っています。

内閣府が先月公表した報告書によりますと、すでに各国の経済対策の事業規模は、GDPとの比率で、日本が42%、ドイツが37%、アメリカが15%に上り、先進国の財政は大幅な悪化が見込まれ、世界経済のリスクにもなっています。

各国の中央銀行は大規模な金融緩和に踏み切っていて、財政出動への期待が高まっていますが、財政政策にどこまで頼ってよいのかという懸念もあります。

日本も例外ではなく、一定の財源の中でいかに効果的な施策を打ち出せるかが課題となります。

予算編成の課題「“新たな日常”への対応」

もう1つの課題は「“新たな日常”への対応」です。

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐだけでは日本経済を成長軌道に戻すことは難しく、ウィズコロナ・ポストコロナなどと言われる“新たな日常”を見据えて経済や社会の構造を転換していくことが必要です。

政府は、非常時の対応として打ち出した「持続化給付金」や「家賃支援給付金」を来年1月の申請期限をもって終了させる方針です。

その一方で、デジタル化の推進や脱炭素社会の実現、中小企業の事業転換の支援などに重点を移す方針です。

こうした施策を通じて、感染症の存在を前提とした“新たな日常”に向けて、経済や社会の変革を推し進めることができるかどうかが、問われることになります。