“交流断念”検討も コロナに揺れるホストタウン 五輪・パラ

来年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて政府などで作る会議は、海外の選手団を受け入れるホストタウンの自治体に対し、選手との接触を避けることなどを盛り込んだ感染予防策をまとめました。自治体の中には厳しい制約によって本来のホストタウンの目的が果たせないとして交流事業の断念を検討するところも出ていることがわかりました。

政府や東京都、大会組織委員会で作る会議は、2日、大会の感染対策を取りまとめ、全国で510の自治体が実施する予定のホストタウンの対策の指針も盛り込まれました。

この中で、事前合宿や交流などを目的に海外の選手を受け入れる際には、自治体側に選手の行動を管理し感染を防ぐ責任が生じるとしています。

そのうえで選手の移動には専用バスなどを確保することや宿泊施設では個室を原則とするほか、練習会場は貸し切りにし、地元の住民を練習相手にしないよう求めています。

また、選手との交流はオンラインを活用するなどして接触を避け、直接の交流は大会終了後を勧めています。

さらに指針では、選手は選手村を出たあとホストタウンでの交流を除き、速やかに帰国するルールを定めるとしていて、オーストラリアはすでに競技の2日後には選手を帰国させる方針を示しています。

このためホストタウンの中には厳しい制約のもとでは本来の目的が果たせないとして、交流事業の断念を検討する自治体も出ていることがわかりました。

このうちカリブ海のドミニカ共和国のホストタウンになっている広島県北広島町は柔道と陸上の事前合宿が行われる予定ですが、大会前の交流の断念も検討し始めています。

自治体は今後、国の指針にもとづき相手国との間で具体的な感染対策や交流に関する合意書を交わすことが求められていて、交流事業を断念する自治体が増える可能性も出てきています。

自治体から戸惑いの声

国が示したホストタウン向けの感染対策の指針を受け、事前合宿を受け入れる自治体からはどこまで対策を講じられるか、戸惑いの声があがっています。
茨城県下妻市は、アフリカのブルンジのホストタウンで、大会前に陸上や水泳などの選手たちの事前キャンプを受け入れることになっています。

これまで、ブルンジとのつながりはなく、東京大会をきっかけに交流が進むことを期待していて、2日もブルンジから一時帰国しているNPOの職員を招いて講演会を開きました。

ブルンジの豊かな自然のほか国民の暮らしぶりや生活習慣などが紹介され、市は講演を収録して地元の中学生の教材に活用するなどして、ホストタウンとして機運を高めようとしています。

こうした中、国が示したホストタウンの感染対策の指針によって、受け入れ態勢の見直しを迫られています。

指針では選手たちが滞在する宿泊施設について、ほかの宿泊客との接触を避ける措置を取るよう示されたため、下妻市は当初、一般客の宿泊も想定していた選手たちの宿舎を、滞在期間中は併設する日帰り温泉施設も含め、全館貸し切る方向で調整することになりました。

練習場の一部も貸し切りにせざるを得ず、費用は当初見込んでいた600万円から倍近いおよそ1100万円に増加する見通しです。

このほかにも指針では、必要に応じて選手などの検査の実施や、感染が疑われる事例に備えて医療機関などとの連携体制の構築なども求められていますが、下妻市では、検査態勢の見通しが立たないうえ、現在、市内には感染者の入院を受け入れている病院はなく、近隣の自治体の病院まで搬送しなければならない可能性があるといいます。

さらに、大会前や大会期間中に計画していた選手と市民の直接的な交流事業は白紙となり、このままでは当初、望んでいた交流が実現しないおそれがあります。
下妻市企画課の染野昌浩さんは、「オリンピック選手の安全確保を基本にする国の方針は理解していますが、感染対策を講じると、事業費が増えて大きな負担になってしまう。選手がそのまま泊まって帰ってしまうのであれば、ホストタウンの意義が薄れてしまうので、どのような交流を展開するか考えたい」と話しています。

断念検討の自治体も…

広島県北西部にある人口1万8000の北広島町は、カリブ海の島国ドミニカ共和国のホストタウンに登録し、柔道と陸上の選手団を受け入れる予定です。
20年以上前から町内でウエスタンリーグを行っていたプロ野球の広島カープが、ドミニカ共和国に育成機関を持っていた縁で3年前にホストタウンに登録し、事前合宿の受け入れが決まりました。

それ以降、大阪で開かれる国際大会に合わせて毎年、ドミニカ共和国から柔道の選手が町を訪れ、地元の子どもたちと柔道教室やもちつきなどを行い交流を重ねてきました。

町役場でも職員が休憩の時にドミニカ産のコーヒーを楽しむ会を設けるなどオリンピックへの機運の盛り上げを図ってきました。

しかし、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大したことし5月ごろから町の職員の大成純一郎さんのもとには現地で暮らす選手から国内でも感染が広がり、日本を訪問できないかもしれないと訴えるメッセージが届くようになったということです。

それでも町は、町内の高校の体育館に畳を敷いて練習場所を確保するなど準備を進めてきました。こうした中で今回、ホストタウンが行う感染対策の国の指針が示され、大成さんの悩みは深まるばかりです。

その1つが、「移動手段」です。
これまでは財源が乏しいドミニカ側を支援しようと広島空港に到着した選手たちを、町が所有するマイクロバスを担当課長がみずから運転して送迎し経費を抑えていました。しかし、指針では公共交通機関の利用をできるだけ減らすよう求めているため、東京から町まで専用バスをチャーターすることも検討していますがドミニカ側がどこまで費用を負担できるか不透明です。

また、「宿泊施設」も課題です。
町内には20人余りが宿泊できる研修施設がありますが、ふだんは一般客も利用し、食堂や浴場は共用です。選手と一般客の接触を防ぐには施設の貸し切りが必要ですが、町に宿泊するのは選手とコーチを合わせても最大3人のため、利用しない部屋の費用まで負担するのはドミニカ側と町の双方にとって容易ではありません。

そして、最大の課題は「交流」の制限です。
地元の広島国際大学の柔道部は、おととし町を訪問した選手と合同練習を行い、今回のオリンピックの事前合宿でもドミニカ選手の練習相手を務めるはずでした。しかし、練習で接触は避けられず、国の指針でも地元の選手との練習は避けるよう求めているため、練習を断念せざるをえないと考えています。
おととし、練習をともにした柔道部の佐々木優主将は「ドミニカの選手は強かったという印象で、交流できるのを楽しみにしていましたが、今の状況では練習は難しいと思います」と話していました。
柔道部の瀬川洋監督は「オリンピック選手と練習できる機会は学生にとって貴重な機会だがドミニカ側の選手も学生も互いに安全を守る必要がある。一緒に練習できない状況になったとしても仕方ない」と話しています。

このほかにも町は選手を招いた歓迎式典や地元の小学校への訪問などを計画していましたが、町で十分な練習環境が確保されない状況で移動による感染リスクや費用の負担を負ってまで本当に町に来てくれるのか、不透明な状況です。このため町は本来の目的が期待できないとして大会前の交流事業を断念することも考え始めています。
北広島町生涯学習課の西村豊課長は「選手と触れ合えないなら当初描いていた交流は難しい。これまでも交流に取り組んできたのにオリンピックでできないのは非常に残念だ。受け入れの協定はあるが細かい合意事項についてこれから協議したい」と話しています。

専門家“開催の意義減じることにも”

オリンピック・パラリンピックの運営などに詳しい奈良女子大学の石坂友司准教授は、「オリンピックはアスリートの大会の運営と、さまざまな国や地域の人々との交流の2つの中心があって初めて本来の形になる。感染状況が落ち着いていない中で大会を開催しようとすると、どうしても交流が不可能に近い形になってしまい、オリンピックの開催の意義というものがかなり減じることになるではないか」と指摘しています。

そのうえで今後について、「各国の選手たちも直前で入国を遅らせたり、イベントをすべてキャンセルするという事例も出てくるかもしれない。準備してきたホストタウンからすると負担だけが非常に大きく得るものが少ないという残念な形になりつつある。事前の交流ができないのはやむを得ないとは思うが、競技や大会が終わった後に選手たちと交流が持てるようなチャンスに開いていく以外にホストタウンの成功はないのではないか」と話しています。

ホストタウン 510の自治体が登録

東京オリンピック・パラリンピックのホストタウンは、大会の機運を全国に広げようと国が初めて設けた制度で、現在、全国の自治体のおよそ3割にあたる510の自治体が登録しています。

ホストタウンでは自治体ごとに特定の国や地域の選手団と契約を結び、事前に申請した計画にしたがって大会前の合宿の受け入れのほか地元の学校や住民との交流などが行われます。

また、東日本大震災の被災地の岩手、宮城、福島では「復興ありがとうホストタウン」、パラ選手の受け入れを行う自治体は「共生社会ホストタウン」など自治体の特色を生かした事業が計画されています。

国籍や人種を超えて相互理解を進めるというオリンピックの理念に基づいてスポーツにとどまらず、教育や文化など幅広い分野での国際交流が計画されているのが特徴です。

国内で行われたスポーツイベントに伴う交流では、これまでも1998年の長野オリンピックで地元の小中学校が実施した「一校一国制度」や2002年のサッカー日韓ワールドカップでカメルーンと交流した大分県の旧中津江村などが注目を集めました。

ホストタウンの事務局を務める内閣官房によりますと、これまでは受け入れ自治体と各国のオリンピック委員会などが個別に契約して交流していましたが、今回のように国が主導して制度を設け全国で展開するのは海外を含めて例がなく、今回初めて交流事業の費用の半分を国が補助しています。

この制度で交流を目指す自治体は姉妹都市などで交流を重ねてきたケースが多い一方で、東京大会を機会に新たに交流を始めようという自治体もあり、全国に広がりました。

内閣官房は現時点でホストタウンの登録を取り下げた自治体はないとしていますが、「感染予防の対応などで自治体から不安の声が寄せられる可能性があるので、注視していきたい」としています。