東京発着「Go Toトラベル」高齢者などへ自粛呼びかけ影響は

「Go Toトラベル」の東京発着の旅行で、東京都と政府が、65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人に、自粛を呼びかけたことへの影響と各地の反応です。

旅行会社にキャンセル相次ぐ

「Go Toトラベル」の東京発着の旅行で高齢者などの利用の自粛が呼びかけられたことを受けて、都内の旅行会社にはツアーのキャンセルの連絡が相次いでいます。

東京 千代田区の旅行会社は、東京発着でシニア層向けのスキーツアーを売りにしていて、参加者の平均年齢は70歳以上です。

1日、東京都と政府が65歳以上の高齢者などに旅行の自粛を呼びかけたことを受け、朝から電話対応のオペレーターをいつもより増員して対応しました。

「Go Toトラベル」についての問い合わせに加え、キャンセルの電話も多く寄せられ、キャンセルは2日の1日で14件にのぼりました。

この会社では、2日の時点でキャンセル料を通常どおりとっているということで、早く自粛呼びかけに伴うキャンセル料の補償などについての詳しい方針を知りたいとしています。

また11月中旬以降、ツアーのキャンセルの数がそれ以前の2倍以上に増えているということで、旅行会社の担当者は「『Go Toトラベル』でせっかく少し持ち直してきたのに、また苦しい状況に置かれている。早くコロナが収まって、高齢の方にスキーなどを楽しんでほしい」と話していました。

福岡の旅行会社「あいまいな政策に困惑している」

福岡市中央区にある旅行会社「アドツーリスト」は、全体の売り上げのうち、8割近くを九州から東京など関東方面に向かう旅行客が占めています。

「Go Toトラベル」の効果で売り上げが徐々に回復していました。

今回、東京発着の旅行が“自粛”を要請する形にとどまったことについて、旅行会社としてどのように扱えばいいのか困惑しています。

アドツーリスト天神営業所の堀江雅子所長は「今回の自粛の対象となっている基礎疾患の有無は、極めてプライバシーに踏み込んだ内容で、旅行会社からたずねることは難しい。感染拡大を抑える必要があるのは理解できるが、東京の発着はだめだとはっきりせずに、自粛という形で判断を投げるあいまいな政策に、正直、困惑している」と話していました。

この旅行会社では、今の段階で東京発着の旅行について対応を決めることができないとして、国から具体的な対処方法を急ぎ示してほしいとしています。

これまでのところ、東京など関東方面のキャンセルなどは出ていないということですが、旅行会社では東京発着の旅行の売り上げが大きく減る事態に備えて、福岡から九州各地へのツアーを強化することにしています。

都内の旅行会社から戸惑いの声

東京 杉並区にある旅行会社「飛鳥旅行」の村山吉三郎社長は、今回の発表について「高齢者と基礎疾患のある人の自粛という中途半端な形で驚いている」と話していました。

この会社では、客のほとんどが高齢者で、今後、どのくらいキャンセルが出るかは見通せないということです。

村山社長はキャンセル料について「どこが負担するのか、はっきりしていない。もやもやとして霧がかかったような状態です。はっきりと国に定めてもらわないと、こちらからお客さんに電話することもできない。動きが止まったような状態だ」と話していました。

そのうえで「Go Toトラベルの東京発着の旅行がせっかく始まったのに、また外されてしまうとまた悩みが出てきてしまう。中止なら中止とはっきりしてほしい」と話していました。

福岡県太宰府市では…

「Go Toトラベル」の効果で観光客の回復が続いていた福岡県太宰府市では、大阪などに続いて、東京からの観光客の減少を懸念する声があがっています。

太宰府天満宮を中心に例年1000万人の観光客が訪れる太宰府市では、「Go Toトラベル」の効果で11月21日からの3連休は、例年並みに観光客が訪れ、にぎわいを取り戻していました。

その後、東京や大阪などでの感染の再拡大を受け、人出が減り始めているということです。

さらに、東京発着の旅行の自粛が広がれば、再び厳しい状況になると懸念の声があがっています。

太宰府天満宮の参道で名物の梅ヶ枝餅を販売する店の従業員は、「宅急便を利用してお土産を買ってくださる東京の方も多かった。その方たちが来られなくなると、売り上げが下がるのではないかと思っています」と話していました。

また、学問の神様として知られる菅原道真にあやかって、参道で合格祈願のカステラを販売している店のオーナーは、「東京から来た年配の方が、お孫さんなどにプレゼントされますので、客が減るのではと思います。コロナの中の初めての正月もすぐなので、どうなるのか心配です」と話していました。

日光東照宮の近くにある旅館でも…

栃木県日光市の世界遺産・日光東照宮の近くにある旅館では、政府と都の自粛の呼びかけを受けて、2日朝、予約客から電話があり、「家族での宿泊を考えていたが、キャンセルする場合はキャンセル料がかかるのか」などと問い合わせがあったということです。

旅行を自粛した人のキャンセル料の取り扱いなど、具体的な対応がまだ示されていないことから、旅館では今後、予約客にどう説明すべきか、不安を感じているといいます。

また、この旅館では感染が急拡大してから東京からの新規の予約はほとんど無くなったということでこれから年末年始の利用への影響を懸念しています。

「日光星の宿」の高田賀奈子代表取締役は、「キャンセル料について問い合わせがあっても、今の状態ではどう答えるべきか判断できないので、国なり都なりにちゃんとしていただきたいと思います。自粛という形になると、なかなかお客様も判断されにくいので、国や都には自粛ではなく、決めていただけたらと思います。このあとどうなるかわからないのが不安材料です」と話していました。

政府分科会は出発地除外を提言

新型コロナウイルス対策にあたる政府の分科会は、11月25日に示した提言で、「Go Toトラベル」の運用の見直しについて感染が急速に拡大している地域を出発地とする旅行も除外の対象とするよう求めています。

この提言では、各地で医療体制などへの負担がさらに深刻化していて、このままの状態が続けば通常助けられる命を助けられなくなる事態に陥りかねないとして、感染が急速に拡大している地域との間で、往来を自粛するなど、3週間程度の短期間に集中してさらに強い対策を行うよう政府に求めました。

そして、「介入が遅れれば遅れるほど、その後の対応の困難さや社会経済活動への影響が甚大になるため、迅速かつ集中的な対応が求められる」と指摘しています。

この提言を出した後の記者会見で、尾身茂会長は「専門家として言えるのは、感染対策をとる上で、感染が拡大している地域に『入る動き』も『出る動き』も一緒に抑えるのが最も有効だということだ。提言を受けて、どういう対策をとるかを判断するのは政府の役割だと考えている」と述べています。

専門家「接触減らさないと拡大止められない」

感染症の専門家で、国の新型コロナ対策にも関わってきた国際医療福祉大学の和田耕治教授は「高齢者や持病がある方に対し、今、東京発着の旅行をするのはリスクがあると伝える点では、意味があるが、行動範囲が広い20代から50代の人たちに動きや接触の機会を減らしてもらえないと、感染拡大は止められない」と指摘しました。

そのうえで「経済を回したいという気持ちも分かるが、このまま感染者が減少傾向に向かわなければ、年末や正月には医療機関は重症者であふれ、救える命も救えなくなってしまう。『Go Toトラベル』を続けるなら、どこまで感染が拡大した段階なら65歳未満の人にも自粛を呼びかけるかなど、追加で行う対策についてもいま示すべきだ」と話しています。

基礎疾患ある人の思いは

「Go Toトラベル」の東京発着の旅行では基礎疾患のある人にも利用の自粛が呼びかけられました。

これについて東京 多摩地区の心臓病の患者団体の代表を務める男性は、重症化のリスクの高い人だけでなくより多くの人に新型コロナウイルスへの感染対策を徹底してほしいと話しています。

東京 八王子市の加藤恒治さん(81)は、多摩地区で心臓の病気の患者120人が集まる団体の会長を務め、自身も心臓の病気で人工の弁を取り付けています。

秋に一時、新型コロナの感染者がやや減少したときには仲間と山梨県に旅行をしましたが、先月から感染が再拡大したことを受け、マスクの着用や手指の消毒に加え家族以外との会食を控えるなど対策を徹底しているといいます。

こうした中、1日、国と東京都が「Go Toトラベル」の東京発着の旅行で、基礎疾患のある人に自粛を呼びかけました。

これについて加藤さんは「基礎疾患を持っている人は、むしろ、これまで対策に気をつけてきた。リスクを分かっていて無鉄砲なことはしないと思う」と話しています。

そのうえで「新型コロナウイルスへの感染では、症状が出ない人が多くいると聞いている。そうしたところでも対策が必要ではないか」と話し、基礎疾患などで重症化のリスクの高い人だけでなく、より多くの人に感染対策を徹底するよう求めていました。

一方、基礎疾患がある人の課題の一つが外出の自粛などで周囲の人と交流する機会が減っていることです。

加藤さんが会長を務める患者団体では例年行ってきた会員どうしの交流が難しくなり、毎年、春と秋に数十人が集まって行ってきた旅行や勉強会もすべて中止になりました。

会員には高齢者が多くパソコンやスマホを使って交流をできる人も少ないため、加藤さんは会員の近況報告をはがきで集め、今月、会報として配ることにしました。

はがきの内容を見ると、「精神面と運動不足で気力も体力も落ちた」、「うつさない、うつらないの緊張の毎日で少々疲れ気味」、「足腰が弱り、気もめいり一気に年を取った感じ」など深刻な現状が寄せられました。

一方、「4人の孫たちが少しでも楽に過ごせるようにとマスクづくりを始めました」「『ありがとう』の気持ちで生活して参りたい」など日常の楽しみを報告したりお互いに励まし合ったりするメッセージもありました。

加藤さんは「それぞれの思いを共有することで、自分で心配だったことが解決されたり、安心につながったりすればいい。患者会は健康に関する語りをするのが大切だと思う」と話していました。