新型コロナウイルスのワクチン 保存用冷凍庫の確保が課題

新型コロナウイルスのワクチンは複数の候補で有効性が確認されたとの発表が相次ぎ、このうち製薬大手の「ファイザー」が開発しているワクチンは、早ければ今月10日以降にアメリカで供給が始まる見通しです。こうした中、課題となっているのがワクチンの保存に必要な冷凍庫の確保です。

新型コロナウイルスのワクチンについては、アメリカの製薬大手「ファイザー」が先月20日にFDA=アメリカ食品医薬品局に緊急使用の許可を申請していて、早ければ今月10日以降に供給が始まる見通しです。

ファイザーのワクチンは、マイナス60度から80度という低温であれば、最大6か月間保存できますが、通常の冷蔵庫と同じ2度から8度だと保存期間は5日間とされています。

専門家によりますと、「mRNA」という傷みやすい成分が入っているためで、適切な温度管理ができないと、接種しても効果が出ないおそれがあるということです。

このためアメリカでは州の保健当局や病院、それにワクチン接種を行う薬局や輸送を担う大手物流会社などの間で、マイナス80度に対応できる特殊な冷凍庫を購入しようとする動きが活発になっています。

オハイオ州の冷凍庫メーカー「スターリングウルトラコールド」には、感染拡大前のことし1月時点と比べて2倍以上の注文が来ているということです。

具体的な名前は明らかにできないとしながらも、出荷を待っている州や薬局、物流会社などが相次いでいるとしていて、現時点では出荷まで1か月待ちだといいます。

会社によりますと、一方で、低温管理が必要になるという情報をかなり早い段階で得て購入に動いた州もあるということで、ノースダコタ州がこの夏に購入を済ませたほか、ニュージャージー州、カリフォルニア州、オハイオ州などもすでに購入済みだということです。

現在、会社では、生産にあたる人員を1.5倍に増やしたほか、週7日、休みなく工場を稼働させるなど、生産体制を強化して納期を短縮しようとしているということです。

「スターリングウルトラコールド」のダスティー・テニーCEOは「需要にこたえるため、優先順位をつけて最大限、製造にとりかかっている。出荷までの待ち時間を減らしてアメリカだけでなくグローバルな需要を支えていきたい」と話しています。

国内メーカーも安定供給に向けた対応進める

マイナス80度に対応できる冷凍庫をめぐっては、日本国内のメーカーも今後の需要を見越して安定供給に向けた対応を進めています。

このうち、神奈川県相模原市の「カノウ冷機」では、アメリカの製薬大手、ファイザーが、新型コロナウイルスのワクチンの有効性に関する暫定的な結果を発表した、先月9日ごろからマイナス80度に対応できる冷凍庫に関する問い合わせが通常の倍以上に増えました。

自治体や病院などからの問い合わせが多く、中には、一度に数百台注文した場合の納期や価格について尋ねるケースもあったということです。

この会社では、マイナス80度に対応できる冷凍庫の生産をデンマークにある会社に受注生産で依頼しています。

このため、今後、注文が入った際にすぐに出荷作業に取りかかり、納期をなるべく短縮できるよう、手元の在庫の量を増やす対応を取りました。

また、デンマークのメーカーには、各国から同様の生産の依頼が入るため、日頃から現地と緊密に連絡を取り、生産に必要な部品の在庫が足りているかどうかなど状況の把握に努めているということです。

また、群馬県に工場がある「PHC」は、マイナス80度に対応できる冷凍庫の海外からの注文が増え、ことし1月から10月までの出荷台数は前の年の同じ時期と比べて1.5倍に増えました。

今後、日本でも需要が高まると見込んでいて、来年1月以降24時間体制で工場を稼働させる計画です。

PHCバイオメディカ工場の西尾新一工場長は「今後の需要をしっかり読み取って、先手先手で生産計画を組んでコロナの感染の終息に向けて少しでも貢献できればと思っています」と話しています。

冷凍庫の購入以外の方法を模索する動きも

薬局や物流会社なども相次いで冷凍庫の購入に動く中、別の方法で対応できないか工夫を模索する動きも出ています。

全米各州にいるワクチン接種の担当者らでつくる団体が、ファイザーのワクチンにどのように備えるのかことし10月、聞き取り調査したところ、およそ半数の州は、購入しないと回答しました。

対応方法を聞いたところ、すでに冷凍庫を持っている大学の研究施設などから必要に応じて借りたり、ファイザーが開発しているドライアイスを使った専用の小型容器を活用し、ワクチンを複数の施設で分け合って短期間に使い切ったりするなどの工夫を検討しているということです。

調査を行った団体のクレア・ハナン事務局長は「ファイザーのワクチン接種にはかなり綿密な計画が必要だ。ワクチンが命を救うのではなくワクチン接種が命を救う。ワクチンを扱う人がどう扱えばいいのか、きちんと理解していることが重要だ」と話していました。