「釣りキチ三平」 漫画家 矢口高雄さん死去

「釣りキチ三平」など自然と人間をテーマにした作品で知られる漫画家の矢口高雄さんが、今月20日、すい臓がんのため東京都内の病院で亡くなりました。81歳でした。

矢口さんは秋田県横手市出身で、地元の高校を卒業後、銀行員を経て、昭和45年に30歳を過ぎて漫画家としてデビューしました。

昭和48年に発表した「幻の怪蛇バチヘビ」は、みずからも見たとする蛇に似た未知の生物ツチノコにまつわる話を描き、ツチノコブームの火付け役になりました。

同じ年に連載が始まった「釣りキチ三平」は、主人公の三平が美しい自然の中で、さまざまな魚を釣り上げようと奮闘する物語が人気になり、全国に釣りブームを巻き起こして大ヒットしました。

自然と人間をテーマにした作品を描き続け、昭和51年には「マタギ」で日本漫画家協会賞大賞を受賞しています。

矢口さんは、ふるさとの横手市にできた「横手市増田まんが美術館」に作品の原画を寄贈したほか、ほかの漫画家の原画を保存する活動にも力を入れていました。

親族などによりますと、矢口さんはことし5月にすい臓がんが見つかり、およそ半年にわたって治療を続けていましたが、今月20日、東京都内の病院で亡くなりました。

81歳でした。

次女 かおるさん「自慢の父でした」

矢口高雄さんのツイッターアカウントでは、25日午後1時に矢口さんが亡くなったことを伝える書き込みがアップされました。

この中では、矢口さんの写真や描いた絵などとともに、「矢口の次女かおるです。父・矢口高雄は11/20に家族が見守るなか、眠るように息を引き取りました。今年5月に膵臓がんが見つかり、約半年病気と闘っていました。すごく辛くて苦しかったはずだけど、涙も見せず頑張りました。最後まで格好良い自慢の父でした。パパ、ありがとう。そして、お疲れ様」と記されています。

「横手市増田まんが美術館」では

矢口高雄さんが名誉館長をつとめる秋田県の「横手市増田まんが美術館」では、訪れた人たちなどから生前の活動への感謝の声が相次いでいます。

横手市増田まんが美術館では、矢口さんが漫画家としてデビューして、ことしで50年になるのを記念して、先月10日から「釣りキチ三平」をはじめ、手がけたすべての作品の原画や資料などを展示した企画展が開かれています。

企画展に訪れていた女性は「先ほど亡くなったと聞いてちょっと信じられず、びっくりしました。矢口さんがつくってくれたまんが美術館は、アニメなどが好きな人にとって宝物である原画が展示されていて、今の漫画家にも秋田に来てもらえるきっかけになると思うので、ありがとうございましたと言いたいです」と話していました。

また、臨終の場に立ち会ったという大石卓館長は「私たちの支えだった先生が亡くなられた喪失感は、表現できないぐらいです。先生に対しては感謝のひと言に尽きますが、残してくれた作品のすばらしさを後世に伝えるとともに、後進の育成のために本物の原画を飾るという、美術館のコンセプトをしっかり引き継いでいきたいです」と話していました。

矢口さんの出身地の人たちは

矢口高雄さんの出身地、秋田県横手市増田町では、突然の訃報を悲しむ声が聞かれました。

矢口さんがデビュー前に働いていた銀行の、支店に勤務していた60代の女性は「矢口さんが退職してから支店に来てお会いしたことがありましたが、プロデビュー50年を迎えた年に亡くなり、残念に思います」と話していました。

また、文具店で働く41歳の男性は「増田のことを題材にした漫画を描くとともに、美術館にも関わり増田のにぎわいに貢献してきた人なので、すごく残念に思います」と話していました。

店に矢口さんのサインや写真を飾っているという、寝具店の71歳の女性は「夫が釣り好きだったのもあって、サインを書いてくれたと思います。亡くなったと聞いて残念です」と話していました。

矢口さんと親交のあった人は

矢口高雄さんが亡くなったことについて、親交のあった秋田県内の人たちからも悼む声が聞かれました。

秋田県潟上市の近野俊一さん(72)は、子どものころ住んでいた横手市増田町の家の近くに、当時高校生だった矢口さんが下宿していて「ちゃんと勉強しろよ」などと、声をかけてもらったということです。

その後、交流はありませんでしたが、映画「釣りキチ三平」のロケ地の1つに、秋田県五城目町にある近野さんの妻、ユミ子さん(73)の実家が選ばれ、平成20年、撮影に立ち会うため町を訪れた矢口さんと、数十年ぶりの再開を果たしたということです。

この時の矢口さんについて近野さんは「勉強を頑張っていた若いころと違い、柔らかい感じの雰囲気だったが、昔のように『しゅんちゃん』と声をかけてくれた。次の年には五城目町で映画のシンポジウムとパーティーが開かれ、昔話に花を咲かせた」と振り返りました。

矢口さんが亡くなったことに、近野さんは「昼ごろに聞いたが、全く信じられない」とことばを失い、ユミ子さんは「実家を映画の舞台に選んでいただいて、ありがとうございますと言いたい」と話していました。

ちばてつやさん「魚を描かせたら右に出るものナシ」

矢口高雄さんが亡くなったことについて、漫画家のちばてつやさんが追悼文を寄せ「訃報をたった今聞いてビックリ。最近日本漫画家協会に出てこられないので案じていたところです。秋田のふる里を心から愛した人でした。日本の美しい山や川、魚たちを描かせたら右に出るものナシ」と、矢口さんの人柄や功績を振り返りました。

そして、矢口さんが秋田県の「横手市増田まんが美術館」で名誉館長を務めていたことを踏まえて、「どんどん散逸していく多くのマンガ家たちの原画や資料を保護するために頑張ってくれていました」とつづっています。

秋田空港では展示やグッズの販売も

矢口高雄さんの出身地、秋田県にある秋田空港では、デビューから50年になるのを記念した展示や、キャラクターグッズの販売が行われています。

代表作の「釣りキチ三平」のグッズを手に取った50代の女性は「訃報を聞いてグッズを買おうと思いました。子どものころに作品を読んだことがありますが、びっくりしました」と話していました。

また、国内線ターミナルビルの2階には、4年前に観光客の誘致につながることを期待して設置された「釣りキチ三平」の、レリーフが飾られています。

レリーフは縦3.5メートル、横6.7メートルあり、「釣りキチ三平」の主人公、三平三平が鳥海山を背に、ヤマメの群れの中で釣りざおを振り上げる姿が描かれています。

レリーフの前にいた30代の男性は「レリーフはマンガの世界観が出ていると思います。矢口さんのマンガは子どものころに読んだことがあり、釣りへの愛情を持った作家が亡くなって残念です」と話していました。