レムデシビル WHO 入院患者への投与勧められないとの指針公表

新型コロナウイルスの治療薬として日本で特例承認されている、抗ウイルス薬レムデシビルについて、WHO=世界保健機関は、世界各地の臨床試験を分析した結果、「死亡率の低下などにつながる重要な効果はなかった」として、入院患者への投与は勧められないとする指針を公表しました。
レムデシビルを開発した製薬会社ギリアド・サイエンシズは、患者が回復に至るまでの期間は大幅に短縮しているなどと反論しています。

WHOは20日、抗ウイルス薬レムデシビルを使った世界各地の入院患者に対する臨床試験を分析し、治療に関する指針を公表しました。

それによりますと、
▽死亡率の低下や
▽人工呼吸器の必要性、
それに
▽症状の改善にかかる時間について、
「重要な効果はなかった」としています。

このため、WHOはレムデシビルについて「症状の軽い重いにかかわらず、入院患者への投与は勧められない」としています。

レムデシビルについては、アメリカのFDA=食品医薬品局が、ことし5月、緊急での使用を許可し、これを受けて日本も特例で使用を承認していて、アメリカでは先月、新型コロナウイルスの治療薬として正式に承認されています。

製薬会社 ギリアド・サイエンシズが声明

ギリアド・サイエンシズは、WHOが指針を公表したことに対して声明を出しました。

それによりますと「製品は、アメリカ、日本、イギリス、ドイツの信頼度の高い多くの治療指針で、入院患者への標準治療薬として認識されている。これらの推奨は、複数の試験からの強固なエビデンスに基づいていて行われている」としています。

そのうえで「患者が回復に至るまでの期間の大幅な短縮などの効果は、医療機関に恩恵をもたらしている。WHOの指針はこのエビデンスを軽視しているように見え、残念に思う。現在世界中で患者数が劇的に増加している中、およそ50か国で、初めてかつ唯一の承認された治療薬として、医師たちに信頼されている」としています。

厚生労働省「承認 見直す予定ない」

レムデシビルは、日本で初めての新型コロナウイルスの治療薬として、ことし5月に承認されました。
アメリカで重症患者に対する緊急的な使用が認められたことを受けて、厚生労働省は審査を大幅に簡略化する「特定承認」の制度を適用し、製薬会社の申請から3日という異例の早さで承認しました。

厚生労働省が公表している「診療の手引き」では、原則、人工呼吸器や人工心肺装置=ECMOなどを装着する重症患者に投与することとしています。

レムデシビルは新型コロナウイルスの増殖を抑える作用がある治療薬としては、今も国内で承認された唯一の薬となっています。

供給量が限定されるため、現在は厚生労働省から使用を希望する医療機関に配付されています。

今回のWHOの指針について、厚生労働省は「承認時に根拠にした治験のデータが否定されたわけではないうえ、有効性がないという結果でもないため、承認について見直す予定はない」と話しています。

加藤官房長官は閣議のあとの記者会見で、指針について「レムデシビルの効果がないとまでは証明されておらず、また、レムデシビルに効果があるとする十分なエビデンスもないという説明などが記載されている」と述べました。

そのうえで「日本ではアメリカでの緊急使用許可を契機に、複数の臨床試験の結果から一定の有効性が確認できたことから、5月に特例承認を行い、現在、レムデシビルを使った治療がなされている。厚生労働省では特段、承認について見直す必要はないというのが、現時点での認識だと承知している」と述べました。

現場の医師「効果を実感 引き続き使っていく」

これまでレムデシビルを使った治療を行ってきた、東京 渋谷区の日本赤十字社医療センターの出雲雄大呼吸器内科部長は、「日本で特例承認されてから、これまでおよそ40人の新型コロナウイルスの重症患者に対してレムデシビルを投与してきたが、生存率の向上や、人工呼吸器から離脱できるようになるなど、効果を実感してきた。レムデシビルは、1人に25万円程度かかるなど高価なこともあり、WHOは『推奨しない』と判断したのかもしれないが、命はお金より重いはずだ。ほかに特効薬が出るまでは、私たちとしては引き続き使っていくことになる」と話していました。