コロナ感染者への差別 専門家 “感染対策に影響 社会に有害”

新型コロナウイルスに感染した人たちに対する差別によって、深刻な人権侵害が起き、感染対策などにも影響が出ているとして、国のワーキンググループは差別的な行為によって法的な責任を問われる場合があることを周知するなどの対策を国に求める報告書をまとめ、12日、政府の分科会に示しました。

ワーキンググループは、感染者などへの差別の実態や求められる対策について、被害にあった学校や病院、それにインターネットへの違法な書き込み対策を行う団体などにヒアリングを行って報告書を取りまとめました。

それによりますと、未知の感染症に対する不安などから、感染者や感染対策をおろそかにしているように見える人への処罰的な感情が生まれ、深刻な人権侵害が起き、感染対策や社会や経済の活動にも負の影響が出ているとしています。

そして、実際にあった例として、感染対応にあたる病院関係者や介護従事者の子どもへのいじめや保育所での預かり拒否、クラスターが発生した学校の生徒の写真のSNSでの拡散、それに感染を理由にした雇い止めなどを挙げていて、報告書ではふだんから感染症についての正しい知識を広めるとともに、悪質な差別行為は法的な責任が問われる場合があることを国が広く周知するべきとしています。

また、自治体が発表して報道された情報をきっかけに、被害が出たケースも確認されたとしていて、感染拡大の防止に役立つ情報の公表と、個人情報の保護とのバランスを取ることを基本としつつ、感染者の特定や差別につながる情報が公表されないよう国に考え方を示すことを求めました。

そして報道機関に対しても、差別につながる誤った情報を正すような報道を行うことなどを求めています。
中山ひとみ座長は「どんなに気をつけていてもウイルスの感染を100%免れることはできず、感染したことの責任は問うべきではない。差別を受けるかもしれないという恐怖から、感染の事実を言い出せなかったり、保健所の調査に協力しにくくなったりして、感染防止対策にも大きな影響が出るなど、感染者への差別は社会にとって有害だということを多くの人に認識してもらうことが必要だ」と話しています。

“地方都市は感染者が目立ちやすく差別など受けやすい傾向”

新型コロナウイルスに感染した人やその家族に対する差別。

相談に応じている団体は特に地方都市での深刻な実情を訴えています。

NPO法人「WorldOpen Heart」は、ことし9月から感染を理由に差別やひぼう中傷を受けた人たちの電話相談に応じています。

これまでに寄せられた相談は10件余りで、ほとんどが感染者が比較的少ない地方の都市に住む人からだということです。

このうち、四国に住む40代の女性は東京の大学に通う長男が帰省した際に発熱したところ、地域の人から「感染を広めたら犯罪者だ。家族として責任を取れ」などと詰め寄られ転居も考えたということです。

また、医療関係者の妻がいる九州の50代の男性は、職場の人から無視されたり業務連絡はメールでするよう指示されたりしたということです。

さらに親族からは、妻の仕事を辞めさせるように促されたり別の親族の結婚式には出席しないでほしいと言われたりしたということです。

このほか、関西に住む50代の女性は感染が拡大している大阪に仕事で行く必要があるにもかかわらず、同僚や友人から「地元にコロナウイルスを持ち込まないでほしい」などと言われたということです。

NPO法人は、感染者が少ない地方都市は感染した人が目立ちやすく、周りから差別やひぼう中傷を受けやすい傾向にあると分析しています。
阿部恭子理事長はもともと犯罪加害者の家族を支援する活動を行っていますが、犯罪を犯した人の家族が悪いわけでもないのに、ひぼう中傷を受けたり謝罪に追い込まれたりする状況と、コロナを理由とした差別がよく似ていると指摘しています。

そのうえで「地方では相談の窓口が少なく差別の解消が進んでいない地域もあり、相談・支援体制を全国で拡大していく必要があると思う。また差別を禁止する条例を制定するなどして地域で意識を高めていくことが重要だ」と話しています。

加藤官房長官「偏見や差別はあってはならない」

加藤官房長官は午後の記者会見で、政府の分科会で感染者の差別への対策をまとめた作業チームの報告書が示されたことに関連し、「政府としてもSNSやホームページなどにより、差別や偏見などの防止に向けた啓発に資する発信を強化するなど、さらに取り組みを進めたい」と述べました。

そのうえで、「新型コロナウイルスは誰もが感染するおそれがあり、偏見や差別はあってはならない。この機会を通じて、改めて国民に呼びかけたい」と述べました。