離婚前の“ひとり親”世帯 70%超が年収200万未満

離婚が成立していないものの実質的にはひとり親の状況にある家庭について、支援団体が初めて実態を調査したところ、年収200万円未満の世帯が70%を超えることがわかりました。団体では、「離婚前でひとり親を対象にした経済的な支援を受けられず厳しい状況にある」と指摘しています。

調査は、ひとり親を支援しているNPO法人「フローレンス」や、「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」が、DVなどが原因で配偶者と別居しているものの正式に離婚が成立していない実質的なひとり親を対象に、ことし9月にインターネット上で行い、262人から回答を得ました。

この中で、昨年度の年収を聞いたところ、
▼「収入なし」が16%、
▼「100万円未満」が28%、
▼「100万円から200万円未満」が29%と、
200万円未満の世帯は合わせて70%を超えていて、母子世帯全体の58%を10ポイント以上、上回っています。

また、離婚が成立しないまま別居している期間が「1年以上」となっている人は63%となりました。

NPOでは、正式に離婚が成立していないことで、子ども1人の場合は最大4万3000円余り受け取れる児童扶養手当や、医療費の減免など、ひとり親を対象とした経済的な支援が、受けられないことが背景にあると見ています。

調査では、中学生以下の子どもを育てている世帯に対し、1人当たり最大で月に1万5000円支払われる「児童手当」も23%が受け取れておらず、その多くが別居中の夫が受け取り続けていることがわかりました。

「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の赤石千衣子理事長は「離婚前は住まいや仕事、子どもの保育所や学校の安定など、たくさんの苦労を抱え、経済的にも困窮している。本来もらえるはずの児童手当まで受け取れていない現状を改善できるよう、国などに早急な対応を求めていきたい」としています。

コロナ禍で収入減 66%

コロナ禍におけるひとり親の状況について、一般社団法人の「ひとり親支援協会」が10月から11月にかけてインターネット上で調査を行ったところ、収入が去年より減った、もしくは減る見込みだと答えた人は66%にのぼりました。

一方で、去年より支出が増えたと答えた人は80%で、自宅で過ごす時間が増えたことで光熱費などの負担が増しているとみられるということです。

調査では、「子どもにごはんを食べさせるため母親が食事をせず痩せてしまった」とか、「家賃や光熱費の支払いが足りない」「貧困状態が続き、毎週食料の支援をうけている」といった切実な声が寄せられています。

この団体では、ひとり親に対する追加の臨時特別給付金を求める提言を厚生労働省に提出しています。

公園で水を取りに行ったことも…

生活が厳しい家庭に無料で食料を配付している神奈川県鎌倉市の団体では、コロナ禍で厳しい状況に置かれるひとり親が増えているといいます。

鎌倉市で「子ども食堂」を運営している団体では、感染拡大の影響で従来のような頻度で活動できない中、8月以降、地元の商店や家庭から寄付された米やパン、野菜や乾物などの食料を無料で配布しています。

現在、食料を届けているのはおよそ20世帯のうち8割がひとり親だということで、この日は団体の代表の渡邉公子さんたちがひとり親家庭を3世帯回っていました。

このうち、赤ちゃんを含む4人の子どもをひとりで育てる母親は、玄関先で米などを受け取り、「子どもが多いのでお米はすごく助かります。夜勤をやらないと社員になれないので、子どもが小さいうちはパートで頑張るしかありません」と話していました。

3人の子どもがいる母子家庭では、小学生の男の子が大好物のあんパンを受け取って喜んでいました。

母親は、「もともと元々薄給なんですが、コロナの影響で月4万円減給になりました。週末、子どもたちと公園にペットボトルを持って水を取りに行ったこともあります。支えてくださる人たちがいてありがたいです」と語っていました。

渡邉さんが、子どもたちから受け取った感謝の手紙にはチューリップのイラストの下に、「しえんをありがとうございます。うれしいです。お米がいただけてお肉が買えます」とつづられていました。

団体には、これまで把握できていなかった人からも困窮して支援を求める連絡が入っていて、中には、「食べるものが何もない」、「食料の無料配布のおかげで、電気代を払うことができた」という声もあるということです。

「ふらっとカフェ鎌倉」代表の渡邉公子さんは、「多くのひとり親家庭のお母さんはパートの方が多く、コロナ禍で解雇されてしまったという家庭もありました。中学生と小学校高学年の子どもがいる家庭で、夏休みだったからかもしれませんが、1日1食なので助かりますと言われたのは涙しました。さらに活動を広げていきたい」と話していました。

離婚調停 コロナ影響で延期され苦境に

配偶者と別居し、離婚調停中のひとり親の中には、新型コロナウイルスの影響で調停が延期され、苦境に立たされた人もいます。

都内に住む40代の女性は、ことし4月、自宅で過ごす時間が増えた夫からのDVがエスカレートし、3歳から8歳の3人の子どもを連れて、民間の保護施設に避難しました。

その後、離婚に向けて5月に調停を申し立てましたが、通常だと1か月ほどで開かれる調停が、新型コロナウイルスの影響で2か月後の7月半ばになりました。

さらに緊急事態宣言の間に延期されていた調停が立て込んでいるという理由で次の期日がなかなか決まらず、結局、2回目が開かれて離婚が成立したのはその3か月後の10月でした。

別居を始めてから実質的にひとり親だった半年間、児童手当は、子ども3人合わせて月に3万5000円支給されたものの、女性の場合、月におよそ4万円受け取れるはずの児童扶養手当や、コロナ禍で困窮するひとり親に支給された臨時特別給付金、子ども3人で11万円を受け取ることができず、貯金もない中で厳しい生活をしていたと言います。

女性は「ひとり親が対象の支援はやはり離婚の成立が前提で、書類上ひとり親であると証明できないと支給できないと役所で言われました。私1人で家族を養っていくことになったので、手元にお金が少なくすごく不安な日々でした。離婚が成立して、ようやく手当が受け取れるので、ほっとしていますが、まだまだ気持ちを引き締めて生活していかないといけない」と話していました。

支援団体 離婚成立前の相談増加

ひとり親の支援を行う団体には離婚調停に関する相談や、離婚が成立する前でも受けられる支援に関する相談も多く寄せられています。

静岡県でひとり親の支援をしている田中志保さん(46)は、自身も夫からの精神的なDVで追い詰められ、幼い子ども2人を連れて別居し、離婚調停に1年かかったという経験があります。

実家に引っ越したあと、仕事を始めましたが離婚が成立していなかったため、子どもの保育料の減免が受けられず、月12万円のパートの収入から子どもの一時保育の料金、3万円を支払う状態で、経済的にも精神的にもつらかったと振り返ります。

こうしたみずからの経験から、田中さんは現在、ひとり親の支援を行っていますが、コロナ禍で離婚成立前の親たちから経済的な相談も増えているといいます。

この中では、調停が延期されたことで離婚成立に時間がかかってしまい生活が苦しいという相談も多く寄せられています。
田中さんは「法的にひとり親と認められるかどうかで、受けられる福祉サービスや手当てに本当に大きな溝がある。離婚前は住居や保育園など生活をすべて立て直さなくてはいけない上にいつ離婚できるのだろうと精神的にもつらい状況。ひとり親支援の窓口では、どうすればよいかを一緒に考えてくれると思うのでご相談いただきたい」と話しています。

ひとり親への支援制度は

ひとり親が受けられる支援の中でも、さまざまな制度の基準となるのが児童扶養手当です。

ひとり親で年収が365万円未満の世帯を対象に収入に応じて支給され、子どもが1人の場合は、最大で月に4万3160円支払われます。

児童扶養手当を受給している世帯は、自治体の医療費の助成や、就労にむけた支援金なども受けられます。

また、ことし8月からはコロナ禍でひとり親を支援するため、「ひとり親世帯臨時特別給付金」の支給が始まり、子どもが1人の場合は5万円、2人以上の場合は、1人3万円ずつ加算され、収入が減った世帯であれば5万円が追加で給付されます。

このほか、ひとり親に限らない制度として、中学生までの子どもを育てる世帯に支給される「児童手当」があり、所得に応じて最大で子ども1人当たり月に1万5000円が支給されます。

コロナ禍で困窮するひとり親の支援をめぐっては、厚生労働省は実態を把握し、状況をみながら検討していくとしています。