中東和平 パレスチナ側交渉団の代表が死去 新型コロナに感染

中東和平問題で、長年パレスチナ側の交渉団の代表を務めてきたサエブ・アリカット氏が新型コロナウイルスに感染し亡くなりました。65歳でした。

エルサレム近郊で生まれたアリカット氏は、イギリスの大学で平和構築の分野で博士号を取得したあと、パレスチナのヨルダン川西岸に戻り大学で教べんをとりました。

1991年に中東和平交渉の発端となった国際会議にパレスチナ側の代表団の一員として参加し、1993年のオスロ合意を受けてパレスチナ側とイスラエル側の和平交渉が始まると交渉団のリーダーを任されました。

アリカット氏は当時のアラファト議長やアッバス議長からの信頼が最も厚かったとされ、和平交渉が2014年に中断したあともアメリカなどとの対話の窓口となってきました。

3年前に肺の移植を受けたアリカット氏は先月、新型コロナウイルスへの感染が確認され、エルサレムの病院で治療を受けていましたが、病院によりますと多臓器不全により10日亡くなりました。

65歳でした。

暫定自治政府のアッバス議長は声明で、「私たちの土地や人々、それに国際的な領域での闘争を最前線で守りつづけた偉大なるアリカット氏を私たちは忘れない」と述べて哀悼の意を示しました。

立山良司 名誉教授「交渉による和平に強い信念」

亡くなったアリカット氏について、長年親交がある中東情勢に詳しい防衛大学校の立山良司名誉教授は、「暴力ではなく、交渉によって和平を実現することに強い信念を持った人だった。イスラエル側の占領による移動の不自由さや経済発展への妨げ、それに人権侵害など、さまざまな問題を彼自身が目の当たりにし、イスラエル側に対し厳しい態度で臨んでいた」と振り返りました。

それでも、「どなり合いになるようなイスラエル側との交渉でも、ユーモアを織り交ぜながら熱くなりすぎず、次につなげるように議論を進めていた」としています。

イスラエル側からも弔意「パレスチナ人と家族に哀悼の意」

一方、イスラエル側からもさまざまな声が聞かれ、イスラエルの有力メディアは「厳しくイスラエルを批判し、全く容赦のない交渉人だったにもかかわらず、イスラエルや世界に多くの友人を得た」と指摘したうえで、「イスラエルメディアの取材に応じ続けた数少ない高官だ」と評価しています。
また、イスラエル側の交渉担当者を務め、アリカット氏と議論を交わしたツィピ・リブニ氏は、ツイッターに、「『和平の実現が私の使命だ』が彼の口癖だった。アリカット氏は、具合が悪くなるなか私にくれたメッセージで、『私はまだ使命を果たしていない』と言っていた。パレスチナ人と家族に哀悼の意を表する」と投稿し、弔意を示すとともに個人的なやり取りを続けていたことを明らかにしました。

ただ、イスラエルの右派の一部からはアリカット氏が亡くなったことについて、「テロリストが死んだ」という声も上がっています。

米ケリー元国務長官「疲れを知らない交渉相手」

中東和平問題をめぐり、アメリカ側で交渉を担った元高官らからも弔意が示されました。

このうちケリー元国務長官はツイッターに「私たちは何時間も交渉のテーブルを囲んでともに時間を過ごした。彼は決然とした、疲れを知らない交渉相手だった」と投稿しました。

また、2014年に和平交渉が中断するまでオバマ政権の特使として交渉に臨んだマーティン・インディク氏は、「交渉相手だった兄弟よ、安らかに眠ってください。平和的なやり方でパレスチナ人の自由を求め続けるあなたの決意は、今後もずっと人々を導く光となって輝き続けるだろう」と投稿し、死を悼みました。