体操の国際大会 東京で開催 内村航平など4か国の選手が参加

新型コロナウイルスの感染拡大のあと、オリンピックの実施競技では国内で初めて開かれる体操の国際大会が8日東京で開催され、内村航平選手など4か国の選手たちが観客を前に演技を披露しました。

新型コロナウイルスの感染拡大のあと、国内で予定されていたスポーツの国際大会は中止や延期が続いていましたが、オリンピックの実施競技では感染拡大後、国内で初めてとなる体操の国際大会が8日、東京の代々木第一体育館で開かれました。

大会は東京オリンピック・パラリンピックを見据え、選手の入国や感染対策などの面でロールモデルとなるか注目される中で行われ、オリンピック2大会連続金メダルの内村選手など日本やアメリカ、ロシア、中国の選手が参加しました。

会場には、人数を制限して観客も入り、開会式では、内村選手が「スポーツ選手は皆さんに夢や希望を与えることが使命だ。感染対策で歓声は上げられないが、観客が立ち上がってくれるような演技をしたい」とあいさつしました。

試合は4か国の男女の選手が、2つのチームにわかれて演技を行い、内村選手も4種目に出場しました。
このうち「鉄棒」ではH難度の大技で、2回まわりながら2回ひねる「ブレットシュナイダー」を成功させ、その後の難度の高い手放し技もすべて決めて15.200と高い得点をあげ、観客から大きな拍手がおくられていました。

五輪を強く意識 徹底した感染対策

今回の国際大会は、新型コロナウイルスの感染拡大以降、オリンピック競技ではじめて海外から選手を迎えて日本で開催されました。

主催した国際体操連盟は来年の東京大会を強く意識して「感染者を出さない。ウイルスを国内に持ち込まない」ことを掲げ、徹底した感染対策と大会に臨む選手の負担軽減を両立させることに力を注ぎました。

来日する選手の競技への影響を最小限にとどめるために政府から特別な許可を得て、日本入国の際に必要な2週間の隔離を免除し、代わりにそれぞれの国で出発前に2週間程度の隔離と複数回のPCR検査の実施を徹底しました。

日本選手も大会の2週間以上前に都内のナショナルトレーニングセンターに入り、隔離された状態で合宿を行いました。

国内外を問わず選手たちは、PCR検査の結果とともに毎日の検温や体調をアプリなどで送信し、透明性の確保のため、検温の写真や安全な場所で練習を行っている様子なども動画や画像で送ることを義務づけました。

なかでも大会3日前にチャーター機で到着した中国の選手たちは防護服を着て空港に降り立つ徹底ぶりでした。

一方で先月29日には、ナショナルトレーニングセンターで合宿中の内村航平選手がPCR検査で「陽性」と判定され、関係者に緊張が走りました。

これについては合宿当初の先月21日に1回目のPCR検査を実施し「陰性」と判断されていたこと、その後も内村選手に発熱などの症状が全くないこと、さらには「陽性」となった翌日に行った3回目のPCR検査を3つの医療機関で分析しいずれも「陰性」となったことで最終的に「偽陽性」だったと結論づけました。

これは大会の医師団がおよそ1%の確率で「偽陽性」が起こりうることを前提に事前にマニュアルを用意しそれにのっとって対応した結果でした。

感染対策はホテルでも徹底されました。

選手は専用のフロアに入り警備員が常駐してほかの客との接触を防ぎました。

朝食前には毎日PCR検査を行い、選手たちは向かい合わずに、同じ方向を向いて距離を保ちながら食事をし、移動の際は専用のバスを使って会場以外に外出することはありませんでした。

大会会場では、「ゾーニング」と呼ばれる対策を行いました。

会場内のスタッフと選手との接触を極力避けるために動線を分け、スタッフは4つのカテゴリーに分類され、カテゴリーごとに入れるエリアが制限されました。

さらに選手たちが同じ器具を使う必要があるため演技終了ごとに器具の消毒が行われたほか、選手の待機場所には空気清浄機を置いて換気を徹底しました。

国際体操連盟は「ここまでやるかと言われるほどの対策を徹底したつもりだ。今大会で得られた知見を、今後の大規模な国際大会に生かしてもらえればありがたい」としています。

大会開催の意義

新型コロナウイルスの影響で国内でストップしていた国際大会が再び動き出したことで、スポーツ界は開幕まで9か月を切った東京オリンピック・パラリンピックに向け大きな一歩を踏み出しました。

今回の体操の国際大会はウイルスの感染拡大以降、東京オリンピックの実施競技では初めて海外から選手が参加して開催されました。

主催した国際体操連盟の渡辺守成会長は「誰かが先陣を切って国際大会を開催しなければオリンピックに向けた知見は得られない」として、ことし6月から政府やオリンピック関係者などと交渉を重ね、厳格な感染対策と選手の負担の軽減を両立させました。

大会にあたってはIOCのバッハ会長がビデオメッセージを送り、「感染対策の制限があるなかでも大会を安全に開催できることを示す例になる。スポーツ界全体にとって非常に重要なシグナルで、特に東京オリンピックの準備を行ううえで自信を与えてくれる大会になるだろう」と述べ、東京大会を見据えた開催の意義を強調しました。

今月10日には、渡辺会長と大会組織委員会の森会長との会談も行われる予定で、今大会で得られた知見を東京大会にどう生かしていけるかが、鍵となります。

内村航平「東京オリンピックに向けてつなげられる大会に」

内村航平選手は今大会について、「東京オリンピックに向けて確実にいい形でつなげられる大会になったと思うし、何よりもめちゃくちゃ楽しかった。各国の選手たちは新型コロナウイルスの影響でそれぞれ試合や練習ができなかった選手がほとんどだが、久しぶりに会って、ためていた感情を演技にぶつけていい化学反応が起きたと思う。非常にいい大会だったし、オリンピックに向けたいいモデルケースになったのではないか。他の体操選手や、他の競技の選手も参考になる大会になったはずだ」と笑顔で話していました。

また、「鉄棒」で15点台の高得点をマークした自身の演技については、「2018年以来の国際大会なので、戻ってきたなという思いだ。ただ、鉄棒は高得点が出たわりには、満足はしていない。H難度のブレットシュナイダーはひじの角度などをもっといい形で決められたし、着地ももっときれいに止められた。完成度では満足できない」と話しました。

そして、来年の東京オリンピックに向けて「新型コロナウイルスの感染拡大で、東京オリンピックができないと思っている人が多くいると思うが、“できない”ではなくて、“どうやるか”と考えられるように、皆さんの考えを変えてほしい。開催するのは非常に困難だということはわかっているが、アスリートと国民が同じ気持ちにならないとオリンピックはできない」と述べました。

ロシア ニキータ・ナゴルニー「来年は絶対に勝ちたい」

去年の世界選手権の個人総合金メダリストでロシアのニキータ・ナゴルニー選手は、今大会について、「久しぶりの大会で、とても出場したいと思っていた。自分の演技については、すべての力を出せたとは言えず、もっともっと、いい演技ができたかなと思う。それでも、日本の観客はとても印象的だった。みんな親切で体操のことをよく理解している。自分のきょうの演技もいい評価をしてくれて、感動的だった」と振り返りました。

そして、今大会の感染対策については「とても厳しい対策だと思ったが、最も大事なのは選手や観客などの安全なので、受け入れることができた。東京オリンピックでも同じような対策をやるのかなとイメージすることもできた。来年に向けてもっといろいろな試合に出場して調整し、来年のオリンピックでは絶対に勝ちたい」と話していました。