「恥ずかしくて行けなかった」

「恥ずかしくて行けなかった」
「あんな子でも妊娠するのね」
中学生が月経痛で婦人科を受診したら、たまたま居合わせた年配の女性からこんなことばをかけられたとの投稿が、最近SNS上で話題になりました。産科や婦人科の受診=妊娠というイメージから発せられたことばでしょうか。でも、ちょっと待って。受診が必要なのは妊娠したときだけですか? 女性も男性も知っておきたい大事な話です。
(ネットワーク報道部 記者 吉永なつみ・杉本宙矢・小倉真依)

ジロジロ見られてる?

産婦人科への若者の通院をめぐっては、過去にもSNS上に投稿され、たびたび話題になっていました。
「私も生理痛がひどすぎて中学生の頃から通ってたけど、待合室でジロジロ見られたりした」
「病院に行くのは甘えだと思っていて、鎮痛剤を飲んで我慢する人生を送ってきた」
「男性に限らず女性にも偏見があると思う」
「安心して病院に行ける世の中になって欲しい」
かつて私(吉永)も同じような体験をしました。今回の書き込みをきっかけに周囲の女性に取材してみると、同じような思いを抱く人たちは次々に見つかりました。

そのうちの1人、22歳の大学生は、日常生活に支障をきたすほどの痛みがある月経困難症で、定期的に婦人科に通院しています。

初めて受診したのは大学1年の時。腹部の激しい痛みを感じ、総合病院を訪れました。

その時、婦人科の待合スペースにいると、近くにある別の診療科を受診する人たちからの視線が気になりました。

具体的に何かを言われたわけではありません。でも、振り返って見られたとき、“婦人科を受診した自分”に向けられたものだと感じたと言います。
女性
「妊娠は恥ずかしいことではないけれど、それを疑われてジロジロ見られているように感じ、恥ずかしい気持ちになりました」

壁は自分の中にも

さらに、「恥ずかしさ」以外にも壁がありました。

腹部の痛みを感じたときに女性がまず考えたのが「盲腸」だったといいます。

症状は高校生の時からありましたが、市販の痛み止め薬を飲んで我慢していました。“病院は妊娠した時に行くもので生理の痛みくらいで行く必要はない”そう考えていたといいます。
女性
「婦人科は妊娠した人が行く場所で自分には関係ないと思っていました。重い月経痛に病名があるとも知りませんでした」

10代の半数が“恥ずかしい”

周囲だけでなく若い女性自身も感じている「産婦人科受診のハードル」は、調査からも浮き彫りになっています。

女性の健康に関する情報を提供するサービス「ルナルナ」を運営する会社などは、去年、会員およそ1万1000人を対象に共同調査を行いました。

その結果、婦人科を「受診したことがある」と答えた割合は、▼30代以上で9割、▼20代後半で8割、20代前半でも6割でしたが、▼10代だと3割にとどまりました。
また、「婦人科を受診することのイメージ」への回答を10代について見ると、「恥ずかしい」と答えた割合が51.7%に上り、最も多くなりました。「どのようなときに行くべきかわからない」と答えた人も51.1%に上りました。

この結果について、「ルナルナ」運営会社の広報担当者は、こう指摘しています。
広報担当者
「日本では『生理は我慢するもの』『ピルは避妊のため』といった偏見や誤った印象がいまだに強く、特に周りの目線を気にしやすい10代には受診のハードルが高いのだと思います」
調査の中では、10代の女性から「学校の授業で正しい知識を教えてほしい」とか、「男性にも考え方を変えてほしい」といった意見があったといいます。

“我慢”は危険

「恥ずかしい」「生理の痛みぐらいで」と受診を後回しにすると、病気の発見が遅れることもあります。

全国の産婦人科の医師などでつくるNPO法人「日本子宮内膜症啓発会議」によりますと、月経困難症が子宮内膜症や子宮筋腫などの病気が原因であった場合、将来、不妊や卵巣がんを誘発するおそれがあるといいます。

しかし、この団体が行った調査でも受診のハードルの高さは浮き彫りになっています。

2016年に千葉県内の中学校と高校の女子生徒およそ600人を対象に行ったアンケートでは、勉強や運動に影響を与えるほどの月経痛があるとの回答が全体のおよそ7割に上りました。しかもそのうち43%は、月経痛を「我慢している」と答えたのです。
日本子宮内膜症啓発会議の事務局長、堀内吉久さんは次のように指摘します。
堀内事務局長
「病気の早期の治療に結びつけるためにも、“月経痛”の症状の段階で手を打っていく必要があります。学校と家庭が連携して女子学生が相談しやすい環境づくりが大切です」

青森県では40年以上前から…

ハードルをどうやって下げていくか。

各地で取り組みが行われていますが、堀内さんが気になる話を教えてくれました。
堀内事務局長
「青森県では、夕方、学校帰りの女子学生が婦人科を訪れる風景が珍しくないそうですよ」
青森県には何があるのか。

調べてみるとその背景には、42年前(昭和53年)から続く「産婦人科校医配置制度」があるとのこと。

この制度、具体的には、県教育委員会が県内60の県立高校を地域ごとに6つに分け、それぞれの地域の産婦人科医を「校医」として委嘱します。

そのうえで、年に1度、必ず性教育の授業を行います。
さらに興味深いのがその内容です。月経や妊娠のしくみや避妊の方法、感染症の予防などについてだけでなく、「産婦人科への受診・相談の呼びかけ」を積極的に行うのです。

校医になって25年の産婦人科医、蓮尾豊さんは、次のように話します。
蓮尾所長
「産婦人科は『何かあったら受診するところ』ではなく、『特になくても相談しに行くところ』だと強く伝えます。そのうえで、『月経痛改善のための低用量ピルの処方で済む場合は、内診台に乗る必要はないし、下着を脱ぐ必要もない』などといったことも話し、具体的な不安に応えるようにしています」
症状や診療内容などを詳しく話すことで、一緒に授業を受けている男子生徒や、同席している学校の教員にも理解を深めてもらい、“偏見”の解消にもつなげているといいます。
蓮尾所長
「地域の産婦人科医が学校で話すことで、具体的なイメージがつくのではないでしょうか。どんな人が診察しているのかも知ることができ、学生にとってはより身近になるのだと思います」

“受診・相談を当たり前”に

青森県で長年続いてきた学校での取り組み。

産婦人科医の不足などもあり、ほかの県が同じように実施するのは簡単ではありませんが、厚生労働省は今年度から、自治体に対して学校で性教育を行う医師などの育成を支援する事業を始めています。

また、オンラインの活用も新たな可能性を示しています。
契約した自治体の住民などからの相談に産婦人科医などがオンラインで相談に応じる事業を展開する会社「Kids Public」では、経済産業省の委託を受けて、ことし5月から8月までの4か月間、全国を対象に無料で相談事業を実施しました。

その結果、10代からの相談が、全部で数万件あった相談のうち、およそ15%を占めました。

相談の中では、「恥ずかしい」とか「内診が怖い」といった話も出ていて、受けた医師などは、病院に行ったとしても必ず内診を行うわけではないことのほか、もし病気の場合は、発見が遅れると体に影響が出ることなどを説明し、診察が必要な可能性がある人には受診を促したということです。

「恥ずかしさ」や「我慢は当然」といった、かつて私(吉永)も持っていた同じような意識。でも、妊娠をきっかけに受診をし、“我慢の必要がない”とわかったとき、人生が変わったとまで感じました。

女性だけでなく、男性にも。若い人だけでなく、年配の人にも、そのことをもっとわかってもらいたいと思います。

「10代でも産婦人科に行くのは当たり前」、そんな社会を実現する必要があるのではないでしょうか。