アメリカ大統領選挙 「投票妨害」など深刻化の懸念

アメリカ大統領選挙 「投票妨害」など深刻化の懸念
今回のアメリカ大統領選挙では、さまざまな方法で投票を妨げる「投票妨害」や「投票抑圧」が深刻化するおそれがあると懸念されています。

有権者登録の段階で実質的に選挙から締め出される

アメリカでは投票妨害を法律で禁止する一方、長年、さまざまな方法で投票をしにくくする行為が後を絶ちません。

その1つが、アメリカで選挙に参加するために不可欠な有権者登録の段階で実質的に選挙から締め出される問題です。

アメリカでは、選挙で投票するためには事前に選挙管理委員会に有権者として登録する必要がありますが、その際の身分確認を厳格化する州がここ数年相次いでいます。

身分の確認をめぐっては、黒人やヒスパニック層では経済的な理由などから運転免許証といった政府発行の身分証を取得できないため、要件を満たすことができず、投票したくてもできない人が出ているということです。

この問題を調べているアメリカ自由人権協会の調査では、投票権のある年代で写真付きの身分証明書を持っていない人の割合は、白人では8%ですが、黒人では25%だということです。

このため制度を厳格化する変更のしかたによっては、マイノリティ層が大きな影響を受けると指摘されています。

マイノリティー層多い地域で投票所減 共和党優勢地域で顕著

また、マイノリティー層が多く暮らす地域では投票所が減らされているという指摘も出ています。

民間団体の調査によりますと、2013年以降に全米で減らされたおよそ1700か所の投票所の多くがマイノリティー層の割合が高い地区だったということです。

このうちジョージア州では近年、投票所の削減が続いた結果、2年前の2018年の中間選挙では票を投じるのに8時間待たなければならない地区もあったということです。

こうした事例はアメリカ南部を中心に共和党が優勢な地域で顕著だということで、専門家は、マイノリティー層が民主党に投票する傾向が強いため、この層の増加により地盤を失うことへの共和党側の危機感が背景にあると指摘しています。

郵便投票でも妨害訴える事例

またトランプ大統領が反対する郵便投票でも、民主党支持者らが投票妨害を訴える事例も出ています。

テキサス州では、人口470万人のヒューストン都市圏で当局の指示で郵送されてきた投票用紙を直接投かんできる受付場所が12か所から1か所に減らされ、連日、長蛇の列ができています。

指示を出した共和党のアボット知事は、その理由について「感染が拡大する中、投票所の安全性を高める必要があり、投票の透明性を高め、不法な投票を防ぐこともできる」と主張しています。

これに対し民主党側は「投票する権利の抑圧だ」と反発していて、民主党を支持する団体が受付場所を12か所に戻すよう求める訴えを起こす事態になっています。

投票所周辺での威圧的行動を懸念

さらに今回の選挙では、各地でトランプ大統領を支持する過激なグループなどが投票所周辺で威圧的な行動をとるといった事態を懸念する声も出てきます。

バージニア州では先月、トランプ大統領の支持者の集団が投票所の入り口で大声をあげるなどして、投票に訪れた人が投票所の中で待機するという出来事がありました。

ミシガン州では16日、民主党のホイットマー知事のもと、州政府が「有権者が脅迫や脅し、嫌がらせを受けることなしに、投票という基本的な権利を行使できるようにする」として、投票所やその周辺で銃などの武器を見えるかたちで所持することを禁止すると発表しました。

一方で、トランプ大統領は繰り返し選挙で不正が起きると主張し、これを防ぐため投票を監視するよう呼びかけていて、今月13日にはツイッターで「トランプ選挙監視員のボランティアに応募を!」と投稿して監視の強化を訴えています。

アメリカのメディアや選挙の専門家からは、こうした呼びかけが監視を名目とした威圧的な行為を誘発しかねないと懸念する声も出ています。

“2018年中間選挙で100万人超が票を投じられなかった可能性”

民間のシンクタンクは、「投票妨害」や「投票抑圧」と指摘される行為により、2018年の中間選挙では100万人以上が票を投じられなかった可能性があると分析していて、ニューヨーク大学ブレナン司法センターのテッド・ジョンソン上席研究員は「今回の大統領選挙では、接戦となっている州でのマイノリティーの投票率が勝敗を左右する可能性がある。投票を難しくする法律を導入した州での投票率が注目される」と話しています。

ジョージア州の大都市アトランタに住むステーシー・ホプキンスさんは、2年前の中間選挙を前に州政府から「有権者登録を抹消した」とする通知を受け取ったと言います。

住所の変更がその理由とされましたが、ジョージア州の法律では、同じ郡の中で住所が変わっても郵政公社に届け出れば有権者登録は自動的に更新され、抹消されることはありません。

地元の新聞によりますと、ホプキンスさんと同じ日に、ジョージア州内でおよそ50万人がさまざまな理由で登録を抹消されていたということです。

ホプキンスさんは有権者登録を回復するため、こうした問題に取り組む民間の団体「アメリカ自由人権協会」=ACLUの支援を得て、州などに対して訴訟を起こし、最終的に登録を回復できたということです。

しかし、ホプキンスさんの友人の中には登録が抹消されたことに気付かないまま投票日を迎え、投票できなかった人もいると言います。

ジョージア州では当時、このほかにも有権者登録の制度の新たな変更で、およそ5万人が投票できなかったという指摘もあります。

この制度では名前のハイフンの有無などわずかな表記の違いだけで投票権を凍結されたということです。

またホプキンスさんの住む地域では投票所の削減で投票に長い列ができたということで、ホプキンスさんは「以前から白人の住む地域では投票は待たずに済むが、黒人の多い地域では何時間も待つのが当たり前でした。この時代になっても黒人が投票する権利を勝ち取らねばならない状態が続いていることに怒りを覚えます」と話していました。

ホプキンスさんは今回の大統領選挙では郵便投票を利用したということですが、「投じた票がちゃんと集計されるのか、まだ不安が残ります」と当局への不信感をにじませていました。