巨大地震時の津波浸水想定 自治体で防災計画の見直し相次ぐ

巨大地震時の津波浸水想定 自治体で防災計画の見直し相次ぐ
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国の検討会が公表した「千島海溝」と「日本海溝」で巨大地震が起きた場合の津波の想定で、全国の38の自治体の庁舎が浸水する可能性があることが示されていますが、半数近くが災害時に備え、庁舎の代わりとなる施設を定めたり、避難計画を見直したりしていることがNHKの取材で分かりました。
国の検討会は東日本大震災を受け、千島列島から北海道の沖合にかけての「千島海溝」沿いと、「日本海溝」のうち、北海道の南の沖合から岩手県の沖合にかけての領域で起きる地震について、最大クラスの巨大地震や大津波の想定を検討し、岩手県を除く地域はことし4月に、岩手県については先月公表しました。

それによりますと、北海道から茨城県にかけての38の自治体の庁舎が津波で浸水し、街の中心部が被災する可能性があると示されました。
NHKがこの38の自治体に取材したところ、青森県や岩手県釜石市など9つの自治体が、災害時に代わりとなる代替庁舎の新たな指定や変更を検討していることが分かりました。

また、北海道登別市と青森県風間浦村では、庁舎を新設する予定地が浸水するおそれがあることが分かり、計画の見直しを迫られています。
中心市街地が被災するおそれがあることから、住民の避難計画にも影響が出ています。

北海道日高町や岩手県宮古市など13の自治体では一部の避難場所を変更するなど、計画の見直しを検討しています。

一方、新たな想定への対応に苦慮する自治体もあります。

最も高い10.6メートルの浸水が想定されている北海道様似町の庁舎では、財源の問題で庁舎の移転や代替庁舎の設置ができないということで、国からの財政支援を求めたいとしています。

大震災を上回る津波を想定 被災地の釜石も対策見直し

東日本大震災の被災地の岩手県の自治体では、公表された日本海溝沿いの最大クラスの津波の想定が震災を超える地域もあり、震災後に進めてきた防災対策の見直しを迫られる事態となっています。

国によりますと、岩手県では5つの自治体の庁舎が浸水すると想定され、このうち釜石市や久慈市など4つの自治体では代替庁舎の変更や新たな指定を検討することになりました。

また、中心市街地の浸水が想定されることから、5つの自治体すべてで避難場所の一部を見直しすることを検討しています。

東日本大震災で1064人が犠牲になった釜石市では、防潮堤の整備や宅地の高台移転などに1800億円余りが投じられ、県と市が復興事業を進めてきました。

また、市役所が津波で浸水したため、夜間や休日に大津波警報が出された場合は内陸に建てられた消防庁舎を代替庁舎として災害対策本部を置くことなど対策を進めてきました。

しかし今回、震災を上回る津波の想定が示され、消防庁舎やさらに内陸の住宅地にまで津波が浸水するおそれが出てきました。

これを受けて市は代替庁舎の場所を変更し、海からおよそ5キロの所にある公民館を代替庁舎として指定することにしました。

また、釜石市では今回新たに浸水域になった地区の住民にも詳しい情報を伝えようと、地区ごとに説明会を開いています。

市は今後、すべての地区で説明会を行ったうえで、今年度中に避難場所の変更や追加を行っていきたいとしています。
釜石市の佐々木亨危機管理監は「東日本大震災の教訓を生かし、住民に避難する意識を改めて持ってもらうよう精いっぱい呼びかけ、津波による犠牲者が出ないように取り組んでいきたい」と話していました。

青森 風間浦村 役場の移転計画も見直し

北海道沖から岩手県沖にかけての「千島海溝」と「日本海溝」で巨大地震が起きた場合、青森県の風間浦村では役場の移転先が津波で浸水するおそれがあることが分かり、移転計画の見直しを迫られています。
津軽海峡に面した青森県の風間浦村は役場の庁舎が84年前の昭和11年に建てられ、老朽化が進んでいるうえ、8年前に県が示した津波の想定で1メートルから2メートル程度浸水するとされたため、おととしから移転計画を進めています。
移転先は海抜がおよそ6メートルの小学校の跡地で、早ければ4年後に移転する計画でしたが、ことし4月に国の検討会が公表した「千島海溝」と「日本海溝」の巨大地震による津波の想定で、小学校の跡地周辺も2メートルから5メートルほど浸水するおそれがあることが分かりました。

このため、村は計画を白紙に戻し、新たな移転先を探していますが、村内の高台には庁舎を建設できる広さを持つ公有地がなく、移転のめどが立っていないということです。

また、およそ20億円の移転費用については、防災上の理由などで役場を移転する際に費用の7割を国が実質的に負担する「緊急防災・減災事業債」を活用して賄う計画でしたが、東日本大震災から10年となる来年3月で制度が終了するとされていることなどから、移転先が見つかったとしても村の財政負担は増える見込みです。
風間浦村の冨岡宏村長は「新たな津波の想定の公表が新型コロナウイルスの感染拡大の時期と重なり、二重の痛手だが、時間がかかっても安全な場所を確保して移転を進めていきたい」と話していました。

専門家「新たな想定踏まえた代替庁舎の整備と訓練を」

自治体の防災計画に詳しい東京経済大学の吉井博明名誉教授は新たな浸水想定への自治体の対応について、「熊本地震では5つの市町村で庁舎が使えなくなるなど、庁舎が被災するとその後の災害対応が非常に困難になる。新たな想定を踏まえて代替庁舎を整備し、訓練を行うなど準備を進めておく必要がある」と指摘しています。

一方で、新たな想定に対応するのは小規模な自治体にとって大きな負担になるため、国や県も支援し、実効性のある計画づくりを進めることが求められるとしています。

また、吉井名誉教授は「東日本大震災の時のように庁舎が被災し、多くの職員が亡くなる悲劇を繰り返してはならない。今回の想定の見直しで職員の避難計画もしっかり作ることが重要だ」と述べ、住民への対応だけでなく、職員の命を守るための対策を行う必要があると指摘しています。