新型コロナ 自治体のPCR検査“対象拡大”加速も検査体制に課題

新型コロナ 自治体のPCR検査“対象拡大”加速も検査体制に課題
新型コロナウイルスの感染拡大を防ごうと、PCR検査の対象を拡大する自治体が相次いでいます。都内では複数の区で高齢者施設などの入所者や職員の一斉検査に乗り出しています。一方で、対象の拡大に伴って検査体制の確保が課題となっています。
保健所が実施するPCR検査をめぐっては、政府がことし8月、感染が拡大する地域の高齢者施設で定期的な検査を実施するなど、対象を拡大する方針を打ち出しました。

こうした中、これまで検査の対象となってきた「発熱などの症状があり感染の疑いのある人」や「感染者の濃厚接触者」以外にもPCR検査を積極的に実施する自治体が相次いでいます。

東京 世田谷区では今月から、高齢者施設のほか、障害者施設や保育園などで働く職員を中心に延べ2万3000人を対象に検査を始めています。

また、東京 千代田区ではすでに7月から特別養護老人ホームなどに新たに入居する高齢者にPCR検査を実施していますが、今後は、施設の職員などおよそ1000人に定期的に検査を行う方針です。

こうした検査対象の拡大で、頼りとなるのが民間の検査会社です。厚生労働省によりますと、民間の検査会社では1日当たり4万件ほどの検査が可能になっています。

しかし今後、検査対象を拡大する自治体や社員に検査を受けさせる企業がさらに増えた場合、今の検査体制で十分なのかと懸念する声も自治体などから上がっています。

検査会社誘致する自治体も

民間検査会社の激しい争奪戦が起きることを見越して、早めに動き出した自治体もあります。

東京 墨田区はことし6月、検査枠を確保するため区内に民間の検査会社を誘致しました。設立に必要となる手続きや条件を緩和し、この誘致によって、区は優先的に検査を請け負ってもらうことになりました。

区はこうした優先枠を活用し、今月から、高齢者施設と障害者施設の入所者や職員およそ3000人に対し無料の定期検査を始める予定にしています。

また、「行政検査」の対象外で自己負担が必要となる人についても、一般的な費用よりも安いおよそ6000円程度で検査を受けられるようにしました。

これによって学校や保育園などの職員やそこに通う人たちが、希望すれば少ない負担で検査を受けられるようになったということです。

墨田区保健所の西塚至所長は、「区では高齢者の割合が多く、感染が拡大すれば重症化リスクも高まるので、素早く検査して感染を封じ込めることが欠かせない。検査体制の拡充には民間検査機関との連携は欠かせず、今後さらに、検査の拡大を図っていきたい」と話しています。

検査会社には問い合わせ相次ぐ

PCR検査を請け負う民間の検査会社では、今、各地の自治体や企業から問い合わせが相次いでいます。

東京にある民間の検査会社はもともと訪問看護事業などを手がけていましたが、ことし6月、需要の増加を見越して検査事業に乗り出し、墨田区に施設を設立しました。

最新の検査機器を導入し、1つの検体に対して2人のスタッフがチェックするなど、検査の精度には細心の注意を払っているといいます。

この会社では企業や医療機関などからの依頼が比較的多くありましたが、8月に国が高齢者施設などの検査を強化する方針を掲げて以降は、関東地方の自治体などから「検査を請け負ってもらえるか」という問い合わせが相次いでいるといいます。

これまで、自治体が行う濃厚接触者などのPCR検査は、主に地方の衛生研究所で分析が行われてきました。しかし、濃厚接触者以外に対象を広げた場合、これまで以上に検査体制を拡大しなければならず、問い合わせが相次いでいるのです。

現在は1日で最大240件の検査が可能ですが、今後、需要が高まると検査が追いつかなくなるおそれがあるとして、都内に別の検査施設を作る計画です。

検査会社「メディカル・コンシェルジェ」の佐藤清代表取締役は「国が高齢者施設などの検査を強化する方針を打ち出してから、問い合わせが相次いでいる。今後も、高齢者施設などへの定期的な検査を行う自治体が増えると思うので設備投資を拡大していきたい」と話しています。

専門家「民間検査の活用欠かせない」

自治体が民間の検査会社を活用して検査を拡大していることについて、公衆衛生が専門の新潟大学の齋藤玲子教授は「感染の拡大が見られる地域で、高齢者施設などを対象に検査を拡大していくのはクラスターを防ぐうえで意味のあることだと思う。自治体の検査能力に限界があるなか、今後、民間の活用は欠かせない」と話しています。

一方で、「民間も検査を拡大するためには設備投資や人材育成が必要だが、需要が何年続くか分からない中、積極的に動くには難しい面もある」と指摘しています。

そのうえで、「民間の検査枠を増やすために国の支援は欠かせないが今後どのような検査体制が必要になるのか大枠を示すことも重要だ。また、民間が検査枠を増やしやすいように自治体が地域の検査ニーズを細かく把握し、検査計画に反映していくことも求められている」と話しています。