コロナでの休業支援金 支給決定約21万件 申請ためらうケースも

コロナでの休業支援金 支給決定約21万件 申請ためらうケースも
新型コロナウイルスの影響で休業を余儀なくされたのに企業から休業手当が支払われない人を支援する、「休業支援金」の制度で、支給が決定したのがおよそ21万件に上ることが、厚生労働省のまとめで分かりました。一方で労働組合などからは、企業の協力が得られずに申請をためらうケースが相次いでいるとして、対策を求める声が出ています。
「休業支援金」は、新型コロナウイルスの影響で企業の指示で休業したにもかかわらず、休業手当が支払われない人を支援するため、ことし7月、緊急的に設けられました。

中小企業で働く人が対象で、ことし4月からの休業に対して1日1万1000円を上限に賃金の8割が直接支給されます。

厚生労働省によりますと、1日の時点で申請は43万1572件、支給が決定したのは21万1950件に上ることが分かりました。

申請の際に企業の協力がない場合でも、労働局が調査を行った結果、休業を指示されたことなどが確認できれば、休業支援金は支給されます。

しかし、労働組合によりますと、「シフトを組んでいないので休業ではない」とか「休業を指示していない」などと企業から言われ、非正規雇用で働く人を中心に申請をためらうケースが相次いでいるということです。

厚生労働省は、休業手当が支払われない場合はためらわずに申請することや、企業の側にも労働者から相談があった時は適切に対応するよう呼びかけています。

また、申請に不備があったり、労働者と企業の認識が違い、調査を行う必要があったりするため、審査に時間がかかるケースが多くなっているということで、厚生労働省はできるだけ早く審査を行い、迅速な支援を行っていきたいとしています。

会社から「休業命じたとは言わない」と

非正規雇用で働く人からは、会社から協力が得られないので休業支援金の申請をためらうという声が多く聞かれます。

東京都内に住む40代の女性は、美容院を経営している会社のパートとして通算で9年余り働き、平均で週に4日間勤務していました。

結婚式場で新郎や新婦の着物の着付けの仕事をしてきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で式のキャンセルが相次ぎ、正社員だけで人手が足りているとして、ことし4月以降は一度も勤務できていません。

多い月で14万円ほどあった収入はゼロの状況が続き、会社から休業手当も支払われていないため、貯金を取り崩して生活をつなぐ毎日です。

そのため、先月、休業支援金の支給を受けようと会社とやり取りしましたが、会社からは「休業を命じてはいない」などと伝えられ、申請の協力を断られたといいます。

女性は、「会社からは『あなたのシフトは、こちらからこの日は入れますかという問い合わせに対し、入れる日だけ来てもらっている形なので、休業を命じたとは言わない』と言われました。制度を理解していないのか、何かほかに理由があるのか、わかりません」と話しています。

休業支援金は事業主からの協力を得られなかった場合にも申請ができますが、その場合は労働局が女性の勤務先に調査を行います。

これについて女性は、「会社が休業を命じたことを認めてくれない時点で会社と対立しかけているのに、申請すると、私のような働き方の場合はシフトに入れてもらえなくなる可能性もあるので、申請を迷っています」と話しています。

そのうえで、「好きでやってる仕事ですが、休業手当が出なければ生活に困ってしまうので、ほかの仕事を探したり、田舎に引っ越したり、人生設計を変えなければならなくなると思います」と話していました。

大企業でも休業手当支払われず 支援拡大の声

休業支援金は大企業で働く人を支給の対象外としていますが、大企業の中にも休業手当を支払わないケースがあり、支援を広げてほしいという声が出ています。

大学生の子ども2人と暮らす40代の女性は、おととしから都内にある大手飲食チェーンの居酒屋でパート従業員として働いていました。

週5日、1日12時間以上働き、月25万円ほどの収入がありましたが、感染拡大の影響でことし4月と5月の2か月間、店が休業し、収入が途絶えました。

会社から休業手当として支払われたのは、すでにシフトが決まっていた4月初めの8日間の給与の6割とされ、社会保険料などを差し引くと1万円余りでした。

女性は2か月分の休業手当を支払うよう会社側に訴えましたが、「パートのシフトが決まっていなかったので休業とは言えない」などとして、支払いを拒まれたということです。

その後、休業支援金の制度を知って申請しようとしましたが、労働局の担当者から「店の運営会社が大企業にあたる」などとして、支給の対象外だと説明されたということです。

勤務していた居酒屋は6月から営業を再開しましたが、客足が戻らないことから7月末に閉店し、女性は2か月以上仕事がありません。

毎日家計簿をつけ、スーパーの特売日にまとめ買いをするなど支出を抑えながら生活しています。

しかし、貯金を取り崩しながら子どもと暮らす生活は、年内が限界だと感じています。

女性は、「これまで頑張って働いてきましたが、非正規雇用のパートはこういう扱いなんだとわかって、正直がっかりするとともに、悲しい気持ちになりました。1人で子どもを育てていると大変なことはありましたが、何ともならないつらさを感じています。当面の生活費が必要なので、会社からの休業手当をもらえていないすべての人に支援が行き渡る仕組みをつくってほしいです」と話しています。

労働組合の電話相談でも

労働組合やNPOなど全国14の団体が先月13日に共同で行った電話相談では、新型コロナウイルスの影響で仕事を失うなどした人からの相談が、合わせて80件寄せられました。

このうち、「休業手当が支給されない」とか「支給額が少なく暮らしていけない」といった休業手当に関しての相談は21件寄せられたということです。

さらに休業支援金については、「雇用主が申請に協力してくれない」といった相談が11件寄せられたということです。

総合サポートユニオンの池田一慶さんは「最近いちばん増えているのが休業支援金に関する相談です。多くは非正規雇用の人たちで、休業ではなくて仕事がないだけだと会社から言われています。労働者が不安を持たずに申請できるようにしなければいけないと思います」と話しています。

休業手当 4人に1人「全く支払われていない」

使用者側の事情で労働者を休ませた場合、平均賃金の6割以上の「休業手当」を支払わなければならないと労働基準法で定められ、罰則規定も設けられています。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、営業を自粛した会社が労働者を休業させた場合などについて、厚生労働省は、雇用調整助成金を活用して休業手当を支払い、雇用を維持するよう呼びかけています。

一方で、休業手当を支払う余裕のない中小企業が少なくないとして、休業手当が支払われていない人に直接支給する「休業支援金」の制度を緊急的に設けて、ことし7月から申請の受け付けを始めました。

新型コロナウイルスの感染拡大による生活や仕事への影響について、独立行政法人「労働政策研究・研修機構」は、ことし8月、民間企業で働く20歳から64歳までのおよそ4300人を対象にインターネットを通じて調査を行いました。

この中で、休業や休業手当について尋ねたところ、勤務先の企業などから休業を指示されたのは603人でした。

このうち休業手当について、「半分以上、支払われた」と回答したのは54%にあたる326人だった一方、「全く支払われていない」と回答したのは、24%にあたる145人と、4人に1人に上ることが分かりました。

休業手当が「全く支払われていない」と回答した人のうちおよそ70%はパートや派遣などの非正規雇用で働く人で、企業規模では小規模な企業ほど「全く支払われていない」割合は高くなっています。

休業者数の推移

総務省の労働力調査によりますと、休業者は、ことし4月が597万人と、去年の同じ月と比べて420万人多くなり、統計が比較可能な1967年12月以降、最多となりました。

その後は、
5月が423万人、
6月が236万人、
7月が220万人、
8月が216万人と、
減少傾向にあるものの、いずれも去年よりも多くなっています。

労働力調査を行っている総務省統計局は「新型コロナウイルスの影響が続いていて、引き続き注視していきたい」としています。

専門家「支援の形を改めて検討すべき」

雇用の問題に詳しい中央大学の阿部正浩教授は「新型コロナウイルスの感染拡大で、混乱した人たちの生活を守るために、休業支援金の制度を設けたことで、支援を受けることができた人も多い」と、長期の休業で収入が大幅に減少した人たちの生活を支える緊急的な制度として、効果があるとしています。

一方で、休業手当の支払いは労働基準法で企業が支払わねばならないと義務づけられていて、感染対策を徹底したうえで経済活動を再開する動きが広がっている今、国は休業手当を支払わない企業への指導を強化すべきだと指摘しました。

そのうえで「休業支援金は緊急時の策として設けられた制度なので、ここでいったん制度を見直すなどして、企業が労働者の休業手当をきちんと支払うという本来の在り方に戻すべきだ。そのうえで、現在の支援金の制度をやめて、引き続き生活費を補助する必要性がある場合には別の仕組みを新設するなど、支援の形を改めて検討すべきだ」と話しています。