アメリカ大統領選TV討論会「ひどい討論会だった」 米メディア

アメリカ大統領選TV討論会「ひどい討論会だった」 米メディア
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アメリカのトランプ大統領と民主党のバイデン前副大統領が初めての直接対決の場となるテレビ討論会にのぞみました。新型コロナウイルス対策などで激しい論戦を交わしましたが、非難や中傷の応酬でたびたび中断し、アメリカメディアは「これまでで最もひどい討論会だった」などと伝えています。
アメリカ大統領選挙に向けたトランプ大統領とバイデン前副大統領の初めてのテレビ討論会は29日、中西部オハイオ州で行われ、両氏は90分余りにわたって激しい論戦を交わしました。

このなかで大きな争点となっている新型コロナウイルス対策を巡りバイデン氏がトランプ大統領について「彼は何もしなかった。いまだに計画がない」と述べて対応が不十分だと批判したのに対し、トランプ大統領は「ワクチンが得られるまであと数週間だ。あなただったらできなかっただろう」と反論しました。

また大統領選挙の結果を受け入れるかどうかについてバイデン氏は「私は勝っても負けても結果を受け入れる」と述べましたが、トランプ大統領は郵便投票に言及し「大惨事だ。結果は何か月たってもわからないかもしれない」として明言を避け、法廷闘争の可能性も示唆しました。

討論はたびたび中断

討論会ではトランプ大統領が何度もバイデン氏や司会者の発言を遮って一方的に持論を主張し、司会者が「質問をさせてください」とか「ルールを守ってください」と制止する場面もありました。

一方のバイデン氏もトランプ大統領を「うそつき」とか「最悪の大統領」と述べるなど非難や中傷の応酬となり討論はたびたび中断しました。

今回の勝者について一部のメディアは直後の世論調査でバイデン氏を評価する有権者が多かったと伝えましたが、ABCテレビは勝敗の前に「討論と言えない」とか「これまでで最もひどい討論会だった」としたほか、FOXニュースも「疲れるけなしあいだった」と表現し、討論の様相への否定的な評価が目立っています。

投票日まで1か月余りとなるなか両候補は来月15日と22日にも討論会で対決する予定ですが、世論調査でリードするバイデン氏が勢いをつけるのか、それともトランプ大統領が巻き返すのかが焦点です。

慶應義塾大学 渡辺靖教授 “バイデン氏が優勢”

アメリカの社会問題に詳しい慶應義塾大学の渡辺靖教授は、今回の討論会を振り返り、バイデン氏が優勢だったと分析しました。

理由について、渡辺教授は、「バイデン氏が当選した場合、これまでで最も高齢での大統領就任となるため、その健康状態が1つの注目点だったがきょうの討論会で不安を払拭できたのではないかと思う。トランプ大統領に途中で話を遮られてもバイデン氏は失笑してかわしたり、反論すべきところは反論したりして、総じてうまく対応していた。また、途中でトランプ大統領のことをあえてこの人、この男と呼んでカウンターパンチを出す部分もあり、弱々しいバイデン、寝ぼけたジョーというイメージを払拭できた」と述べました。

一方、トランプ大統領については、「やつぎばやに話を遮ったり個人攻撃を仕掛けたりと、余裕がない感じがした。議論を錯乱する戦略だったかもしれないが、そこまで強いカウンターパンチは作れなかった。バイデン氏が言い間違うなど、反論できないシーンを作りたかったが、バイデン氏の受け答えが予想以上にしっかりしていた」と指摘して、支持率でバイデン氏にリードされているトランプ大統領は、巻き返しにつながるような場面は作れなかったという認識を示しました。

さらに、討論会全体について、「本来、討論会は、政策論議の場だが、感情のもつれが全面に出ていて、アメリカの現状の分断を示唆しているように見えた。これまで両者が主張したことの繰り返しで、そこから深く論戦を繰り広げる場面はなかった。予想された範囲でのコメントが多く、流れを大きく変えることはなかった」と指摘しました。

また、バイデン氏の目線が頻繁にカメラに向けられていたと指摘し、そのねらいについて、「有権者により強く訴えようとしていた。トランプ支持者からすると、トランプと目を合わさないバイデン氏の弱さと感じる可能性があるが、バイデン支持者からすると、トランプの挑発にのらず、あくまで有権者のほうをみていた指導者と好意的に受け止めたと思う」と話しました。

明治大学 鈴木健教授 “トランプ大統領が優勢”

アメリカ大統領選挙の演説や討論会を研究している明治大学の鈴木健教授は今回の討論会を振り返り、トランプ大統領が優勢だったと評価しました。

理由について、鈴木教授は「どちらを支持するか決めていない人は、テレビを見終わったときの印象で最終的に決めることが多い。トランプ大統領の場合は、後半で経済の実績を強調したり、バイデン氏を激しく攻撃したりと多少、強引でも結果的に相手を押しているという印象を視聴者に与えることができた」と指摘しました。

一方でバイデン氏については、「ゆっくりとした話し方で、相手の攻撃を笑ってやり過ごすなど、冷静な印象を与える戦略はよかったと思う。前半は政権の新型コロナウイルス対策を批判して、トランプ大統領が論理的に説明できない場面があるなど、バイデン氏が優勢に進めたが、後半はややアピールに欠けるところがあったのではないか」と評価しています。

そのうえで、「大統領選挙は祭りのようなもので、有権者を熱狂させられる人が当選する傾向にある。また、アメリカでは現在、新型ウイルスの感染拡大により悪化した失業率が改善しつつある状況なので、どちらを支持するか決めていない有権者にとって、新しい大統領を選ぶことはリスクをとることになる。バイデン氏が有権者に対して自分のほうが経済を改善できるとアピールできないかぎり、今後もトランプ大統領が有利なまま進むのではないか」と分析しています。

上智大学 前嶋和弘教授 “勝ち負けつかず”

アメリカの現代政治が専門の上智大学の前嶋和弘教授は、今回の討論会を振り返り、双方が自分たちへの支持固めに終始して政策論争が深まらず、勝ち負けがつかなかったと評価しました。

理由について、前嶋教授は、「さまざまな政策について話されたが、相手の言ったことに対してすぐに反論していて政策論争が深まらず、全体的に何が話されていたか覚えていない。ただ、議論は全くかみ合っていなかったものの、自分たちの支持者に対しては個々の政策をアピールしたという意味で甲乙付けがたい」と述べました。

そして、討論会の性質がこれまでとは変わってきていると指摘し、「かつての討論会はまだ誰を支持するか決めていない人に向けて政策論争をする場だったが、いまは自分の支持者へのアピールに終始し、分極化の時代だと感じた。反対側へのメッセージはほとんど何もないので、無党派の人も心が揺れないという感じだと思う」と述べました。

そのうえで、「2回目、3回目の討論会では答えにくい質問に対しても答えざるをえない場面がでてくるはずなので、もう少し議論は深まるはずだ。残りの討論会に加え、オンラインや戸別訪問などの地道な戦略で無党派層がどれだけ動くのか、また、大統領選挙の勝敗を左右するとされる『激戦州』の中でまだ迷っている人がどちらを支持するかがポイントになる」と述べ、今後の討論会でどこまで深い議論ができるかがカギとなるという考えを示しました。

トランプ大統領 白人至上主義を明確に非難せず

討論会では人種差別問題でも議論が交わされましたが、アメリカのメディアはその際、トランプ大統領が白人至上主義を明確に非難しなかったと大きく報じています。

トランプ大統領は討論会で司会者から「白人至上主義者や武装集団のメンバーを今夜この場で非難し、暴力的な行為に加担しないように言う準備はありますか?」と問われました。

これに対してトランプ大統領は「もちろん」と言いながらも議論の矛先をかえるような発言を繰り返しました。

このため司会者と民主党のバイデン候補が改めて明言するよう求めたのに対し、トランプ大統領は「具体的にどの団体を名指しすればいいか?」と聞き、バイデン氏があるグループに言及するとこのグループに呼びかけるように「後ろに下がり、待機せよ」と述べました。

メディアや市民団体によるとこのグループは白人至上主義を掲げ全米各地で続く人種差別への抗議デモに銃などで武装して対抗する行動をとり、問題視されているということです。

トランプ大統領の一連の発言について、複数のメディアは名指しされたグループのメンバーらが白人至上主義と暴力的な行為を暗に支持したと受け止めただろうとしたうえで「トランプ大統領は白人至上主義者を明確に非難しなかった」と批判的に伝えています。