内モンゴル自治区 中国語教育強化に抗議の保護者ら 当局に拘束

内モンゴル自治区 中国語教育強化に抗議の保護者ら 当局に拘束
k10012637361_202009271941_202009271942.mp4
中国で少数民族のモンゴル族が多く住む内モンゴル自治区では、学校教育でモンゴル語の授業が減り、中国語の教育が強化されたことへの反発が強まっていますが、当局は抗議活動に参加した生徒の保護者らを相次いで拘束するなど、締めつけを強めています。
内モンゴル自治区では、今月の新学期から小学1年生と中学1年生の「国語」の授業が従来のモンゴル語ではなく中国語で行われるようになったほか、来年以降、別の教科でも順次、中国語による授業に切り替えられることが決まりました。

これに対してモンゴル族の人たちの間では、自分たちの言語が失われかねないという危機感が高まり、各地で抗議活動が行われ、現地の複数の住民によりますと、デモの参加者や授業をボイコットした生徒の保護者らが相次いで逮捕されているということです。

このうち元教師の女性はNHKの電話取材に対し、「多くの人が違法な抗議活動を行ったとして逮捕され、政治犯のような扱いを受けている。新しい方針に反対した教師も免職や減給処分にすると脅されている」と話していました。

アメリカに拠点を置く人権団体「南モンゴル人権情報センター」は、現地からの情報として、先月下旬以降、4000人以上のモンゴル族が当局に拘束されたと伝えています。

中国外務省の報道官は今月3日の記者会見で「国の公用語は国家主権の象徴であり、これを学び、使うことは、人々の権利であり義務だ」としたうえで、「中国語とモンゴル語の2つの言語での教育体系は変わらない」と強調し、批判の高まりをかわしたいねらいがあるものとみられます。

現地の様子は

内モンゴル自治区で何が起きているのか。NHKは今月、抗議活動があった中心都市フフホトを取材しました。

市内には、民族の団結などを訴える中国共産党のスローガンを、漢字とモンゴル文字で併記した看板やポスターがあちこちに掲げられていました。

モンゴル族の子どもたちが通う民族学校の周辺では、警察による検問が行われ、通行する車を止めて身分証を確認する様子が見られました。

中国語による教育の強化や抗議活動について、街なかで話を聞くと、みな一様に口を閉ざし、逃げるように立ち去る人もいました。

抗議活動が起きた別の地区では、地元の警察が騒ぎを起こしたとする100人以上の顔写真をインターネット上に公開し、懸賞金をかけて情報提供を呼びかけています。

こうした中、複数のモンゴル族の住民が、匿名を条件に日本からの電話インタビューに応じました。

このうち元教師の女性は、抗議デモに参加した人や授業をボイコットした生徒の保護者らが次々と逮捕されているとしたうえで、中国語による教育強化について「政府は私たちの合法的な要求に耳を傾けず、強硬に実施しようとしている。母語であるモンゴル語で教育を受ける権利を奪うもので、誰もが怒っている」と話していました。

また、ある村の幹部は「電話を盗聴されたり、監視されたり、場合によっては逮捕されてしまうので、抵抗しようにもできない」としたうえで、「今回の政策は民族の言語や文化を守ることを定めた憲法や法律に明らかに違反していて、抑圧以外の何物でもない。漢族を中心とする考え方を押しつけるもので、私たちにモンゴル語を忘れさせ、内モンゴルを自分たちの意のままにしようとしている」と話していました。

「団結」の一環として 少数民族への中国語教育に力入れる

2012年に発足した習近平指導部は「中華民族の偉大な復興」というスローガンを繰り返し唱え、すべての国民に共産党のもとで中華民族として団結するよう呼びかけてきました。

その一環として、少数民族への中国語教育に力を入れ、今回の内モンゴル自治区と同様の措置は、民族政策への不満が根強くある新疆ウイグル自治区とチベット自治区で2017年以降、相次いで導入されています。

中国語による授業は「国語」のほか、「道徳」と「歴史」の合わせて3教科で行われ、少数民族の小中学生に「中華民族」という意識を持たせ、共産党の価値観や歴史観を浸透させるのが目的とみられます。

習近平国家主席は、26日まで開かれた新疆ウイグル自治区の統治政策に関する重要会議でも、教育を通じて「中華民族の共同体意識を心に深く植え付ける」と述べています。

習近平指導部は共産党による一党支配を維持するために、国内の安定を最優先の課題としていて、民族政策が抑圧的だとする少数民族の不満を抑え込もうと、教育現場での統制を今後も強めていくものとみられます。

漢族への不満くすぶる

内モンゴル自治区は、モンゴルと国境を接し、面積は日本のおよそ3倍、人口は2010年の調査でおよそ2400万人です。

このうち、モンゴル語を母語とするモンゴル族は全体の17%に当たるおよそ420万人です。

中国の憲法では、それぞれの民族が独自の言語を使う自由を認めていて、内モンゴル自治区でも、長年、民族学校でモンゴル語を主体とした授業が行われてきました。

一方で、中国の経済発展に伴い、近年は進学や就職に有利な中国語を日常的に使う機会が増え、モンゴル族の間では、民族の文化が失われてしまうとして危機感が強まっていました。

また、自治区では、このところ、石炭やレアアースなどの大規模な資源開発が進んでいて経済発展が期待されていますが、モンゴル族には恩恵が少ないうえ、環境破壊も進んでいるとして、政治や経済の実権を握る漢族への不満がくすぶっています。

専門家「寝た子を起こす形に」

内モンゴル自治区の事情に詳しい日本モンゴル協会の窪田新一理事長は、中国語による教育の強化について、中国政府による少数民族に対する同化政策の一環だと指摘したうえで、「反政府活動を抑え込むために、新疆ウイグル自治区やチベット自治区で先行して導入していた中国語教育の強化を正当化する必要があったのではないか。このまま内モンゴル自治区だけ民族の言語を守っていては、ほかの地域の民族政策に悪影響を及ぼす可能性があり、ウイグルやチベットと横並びで強化すべきと判断したのだと思う」と分析しています。

そのうえで、中国が新型コロナウイルスへの対応や香港情勢などをめぐってアメリカなどとの対立を深めていることを挙げ、「国際世論の圧力が強まり、孤立せざるをえない対外的な状況の中で、国内の安定を図るうえで重要な民族問題で、1つの原則に統一して対処しようとしたとも考えられる。一方で、今回の措置は、反政府的な考えや民族感情を強く持っていなかった人たちにまで、モンゴル民族だという自覚を強く持たなければならないと再認識させる結果となり、中国共産党からすれば、必要のないことをして寝た子を起こす形になったのではないか」と話しています。