日産ゴーン元会長事件 ケリー元代表取締役 15日初公判

日産ゴーン元会長事件 ケリー元代表取締役 15日初公判
日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の共犯として元会長の報酬を有価証券報告書に少なく記載した罪に問われているグレッグ・ケリー元代表取締役と法人としての日産の初公判が、15日、東京地方裁判所で開かれます。ゴーン元会長が海外に逃亡し不在となる中、一連の事件の裁判が初めて開かれることになります。
日産の元代表取締役、グレッグ・ケリー被告(64)は、中東のレバノンに逃亡した元会長、カルロス・ゴーン容疑者(66)と共謀し、平成29年度まで8年間の元会長の報酬を有価証券報告書に合わせて91億円余り少なく記載したとして、法人としての日産とともに金融商品取引法違反の罪に問われています。

ケリー元代表取締役は「報酬の過少記載はなく、元会長の報酬を決定する立場でもなかった」などと全面的に無罪を主張する予定で、法人としての日産は起訴された内容を争わない方針です。

検察は元会長が報告書に記載しなかった91億円余りの受け取りを退任後に先送りしたと主張する方針で裁判では、先送りされたとされる報酬が確定していたかどうかや、ケリー元代表取締役が、その検討に関わっていたかどうかが、争点となる見通しです。ゴーン元会長の逃亡によって、ケリー元代表取締役と日産については分離して裁判が開かれることになり、日本で一連の事件の裁判が初めて開かれることになります。

来年7月まで70回以上の審理日程がすでに決まっていて、検察との司法取引に応じた日産の元秘書室長のほか、西川廣人前社長などが証人として出廷することになっています。初公判は、15日午前10時半から東京地方裁判所で開かれます。

ケリー元代表取締役とは

グレッグ・ケリー元代表取締役(64)は、アメリカの大学を卒業後、法律事務所で弁護士として勤務し、昭和63年にアメリカの日産系列会社に入社しました。

平成20年からは日産本社の執行役員となり、ゴーン前会長の直属の「CEOオフィス」に所属していた経験もあり、ゴーン前会長の側近として知られていました。

平成24年からは日産の代表取締役に就任し、逮捕当時は非常勤として代表取締役にとどまっていて、ふだんはアメリカに住んでいました。

逮捕当時、代表取締役はゴーン元会長と西川前社長、それにケリー元代表取締役の3人でした。おととし11月、ゴーン元会長とともに逮捕され、およそ1か月後に保釈されました。

保釈された直後には「私が無実であることは法廷の場で明らかにされていくでしょう。無罪の判決を受け、私の名誉が回復されて、一刻も早く家族のもとへ帰りたいと思っています」とコメントを出しました。

しかし、保釈の条件の1つで海外への渡航が禁止され、ケリー元代表取締役は2年近くにわたって日本国内にとどまっています。

都内の制限住居で妻と暮らしていて、アメリカにいる家族とは会えていません。裁判の資料を読み込み、裁判所で開かれる争点を整理する手続きにも積極的に参加して、法廷で無罪を主張する準備を進めてきたということです。

ケリー元代表取締役は初公判を前にNHKのインタビューに応じ、「私は日本のいかなる規制にも違反していない」と無罪を主張したうえで、ゴーン元会長に対しては「法廷で証言してほしかった。逃亡を決断した責任を今後も負わなければならない」と思いを述べました。

また、どのような気持ちで裁判に臨むかについては、「ゴーン元会長は非常に優れた経営者で日産の独立性をルノーから守ってもらいたいと思っていた。法廷では日産と元会長の関係を長く維持することがなぜ日産にとって重要だったかを話したい」と述べました。

事件の起訴内容は

グレッグ・ケリー元代表取締役(64)は、カルロス・ゴーン元会長(66)と共謀し、平成29年度まで8年間の有価証券報告書にゴーン元会長の報酬を合わせて91億円余り少なく記載したとして金融商品取引法違反の罪に問われています。

法人としての日産も同じ罪に問われています。一方、ゴーン元会長は、報酬の過少記載の罪に加えて、オマーンの販売代理店に日産から支出させた資金の一部を還流させたなどとして特別背任の罪にも問われていますが、レバノンへの逃亡を受けて裁判は分離され、開かれる見通しは立っていません。

今回の裁判では、報酬の過少記載の事件だけが審理されます。

裁判の争点と双方の主張は

【裁判の争点は】
今回の裁判で検察はゴーン元会長がみずからの高額な報酬が明らかになるのを避けるため、8年間の報酬総額およそ170億円のうち91億円余りの受け取りを退任後に先送りしたと主張する方針です。役員報酬は実際に支払われていなくても金額が明らかになった時点で開示する義務があり、裁判ではゴーン元会長が退任後に受け取るよう先送りした報酬が確定していたかどうかや、ケリー元代表取締役が報酬の先送りや将来の支払い方法の検討に関わっていたかどうかが争点になります。
【双方の主張は】
検察はゴーン元会長の署名が入った複数の合意文書の存在などから先送りした報酬の支払いが決まっていたことは明らかだと主張する方針です。

ケリー元代表取締役についてはゴーン元会長の指示を受けて先送りした報酬を確実に支払う方法を検討し、退職後に報酬を支払う契約書の案にみずから署名しているなどと主張する方針です。

一方、ケリー元代表取締役は、契約書の案に署名したことを認めたうえで、契約は退職後に就任してもらう相談役などの業務への対価で役員報酬の後払いではない。日産をルノーから守るためにゴーン元会長をつなぎとめることが目的だったと主張する方針です。

さらに弁護側は仮に先送りした役員報酬が開示されていなくても刑事罰の対象ではなく、課徴金など行政処分にとどまると主張する方針です。

【「司法取引」の評価も注目】
今回の事件は検察が日産の元秘書室長ら2人を不起訴にする見返りに、供述や書類などの証拠を得る「司法取引」が使われたことも大きな特徴です。

ゴーン元会長の弁護団は逃亡前の去年、「司法取引は元会長を失脚させることが目的で違法だ」と主張していました。

司法取引に応じた元秘書室長らは証人として出廷する予定で、裁判所が法廷での証言の信用性をどのように評価するかも注目されます。

専門家「報酬が確定していたかどうかが有罪・無罪を分ける」

元刑事裁判官で法政大学大学院の水野智幸教授は、今回の裁判について「大企業のトップの報酬が有価証券報告書にしっかり記載されたのか、虚偽記載に当たるのかが争われる事件は初めてだと思う。司法取引が適用された事件の裁判としても非常に注目される」と述べました。

そのうえで「ゴーン元会長に将来支払う報酬が確定していたかどうかが有罪・無罪を分けることになると思う。未払いの報酬がその時点で確定していたのか、単に予定にすぎないのかを決めるのは非常に難しく、数多くの証人や書類を総合的にみて判断する必要がある」と指摘しました。

司法取引が今回の裁判に与える影響については「司法取引に応じた人たちはみんな一定の方向を向いているので法廷での証言の内容が一致しているだけで直ちに信用できるということにはならない。証言を裏付ける証拠があるかや被告側の反論に耐えて合理的な説明ができるかがポイントになる」と述べました。

事件の経緯と初公判までの動き

【突然の逮捕と海外からの批判】
ゴーン元会長とケリー元代表取締役は、おととし11月に東京地検特捜部に逮捕されました。

ゴーン元会長の報酬を有価証券報告書に少なく記載したという金融商品取引法違反の疑いでした。

突然の逮捕は、世界に衝撃を与えました。2人が容疑を否認し、勾留が続くと、海外メディアから日本の刑事司法制度の在り方が注目されます。

容疑者が長期間、勾留されることや、取り調べに弁護士の立ち会いが認められないことなどについて、人権が保障されていないと批判が高まりました。

ケリー元代表取締役は37日間勾留された後、保釈され、ゴーン元会長は特別背任の疑いでも逮捕され、勾留は合わせて130日間におよびました。

去年3月の保釈の際には東京拘置所に海外のメディアも含めた大勢の報道陣が待ち構える中、ゴーン元会長は作業員の姿に変装して現れ、世界中を驚かせました。

【ゴーン元会長逃亡】
ゴーン元会長は保釈後、連日のように都内の弁護士事務所を訪れ、裁判に向けた準備を進めていました。

しかし、保釈からおよそ8か月たった去年の年末、驚きの行動に出ます。

関西空港からトルコに向かうプライベートジェットに大型のケースに隠れて乗り込み、出国。海外への渡航を禁止した保釈の条件を破ってレバノンに逃亡したのです。

ゴーン元会長は逃亡後の記者会見で、「日本では公正な裁判を受けられる望みがなかった」などと述べ、逃亡を正当化する主張をしました。これに対し特捜部は、ゴーン元会長が出国審査を受けずに不正に出国したとして、出入国管理法違反の疑いで逮捕状を取っています。

また、アメリカ軍の特殊部隊の元隊員ら2人が出国の手助けをしたとして、ことし5月、アメリカの捜査当局に逮捕され、アメリカの裁判所が日本への引き渡しを認める判断を示しています。

【裁判は分離】
ゴーン元会長の逃亡により、元会長の裁判が開かれる見通しは立たなくなりました。

ケリー元代表取締役と法人としての日産は、ゴーン元会長の裁判とは分離して開かれることになり、初公判を迎えました。