コロナで生活困窮の人の自治体相談窓口 相談員の負担深刻に

コロナで生活困窮の人の自治体相談窓口 相談員の負担深刻に
新型コロナウイルスの影響が長期化し、生活に困窮する人たちの対応にあたる、自治体の相談窓口の負担が深刻になっています。

大阪弁護士会が行った調査では、窓口の相談員の75%が「体も気持ちも疲れ果てたと思うことがある」と回答していて、担当者は「『相談崩壊』とも言うべき危機的な状況になり始めている」と指摘しています。
生活困窮者を支援する自治体の相談窓口には、仕事を失った人などに家賃を支給する「住居確保給付金」などの申請が殺到しています。

こうした中、大阪弁護士会は、ことし6月から先月にかけて府内の自治体の相談窓口で対応にあたっている相談員を対象にアンケート調査を行い、100人から回答を得ました。

その結果、相談件数の急増による深刻な人手不足や労働環境の改善を訴える声が相次ぎ、
▽「体も気持ちも疲れ果てたと思うことがある」と回答した人が全体の75%を占めたほか、
▽「仕事を辞めようと思ったことがある」と回答した人も43%に上りました。

また、現在困っていることとして、全体の47%が住居確保給付金の手続きが煩雑であることを挙げていて、「態勢は変わらないまま相談数だけ増加し、制度も日を追うごとに変更になるなど、現場に混乱と疲弊が広がっている」とか「本来の生活困窮者支援が全くできていない」という声が寄せられたということです。

調査を行った大阪弁護士会貧困・生活再建問題対策本部の小久保哲郎事務局長は「相談員は生活に困窮した人を支援する最前線の存在だが、同じ職場で1度に3人の相談員が辞めたケースもあり、市民の相談を受け止められなくなる『相談崩壊』とも言うべき危機的な状況になり始めている。給付金の申請手続きをもっとシンプルにして相談員の負担を減らしたり、大幅に増員したりする対策が必要だ」と指摘しています。

「住宅確保給付金」申請件数が去年同期比270倍

大阪市では、「住居確保給付金」の申請件数がことし7月までの4か月間で6000件余りと、去年の同じ時期のおよそ270倍に上っていて、大阪 旭区の生活困窮者の相談窓口にも申請が殺到しています。

業務は多忙を極めていますが、これまでと同じ3人程度の相談員で対応しなければならず、ことし7月、相談員の1人が精神的に追い詰められ、退職したということです。

人手不足に加え、相談員を悩ませているのが、給付金の手続きの煩雑さです。

「住居確保給付金」は、離職や廃業、もしくは休業などで収入が減り、世帯の収入や預貯金が一定の基準額を下回っている場合に申請できることになっています。

このため、離職や減収を証明したり収入や資産を確認したりする、合わせて10種類ほどの書類を提出してもらう必要があります。

しかし、書類に不備が見つかるケースが多いため、切迫した状況の相談者に何度も再提出を求めなければならず、精神的な負担になっているということです。

相談員の男性は「申請に必要な書類が多すぎて集められない人も多く、やり直しが2回、3回になると怒る人がほとんどです。相談に来る人は生活に困っている人ばかりなので、強い口調でどなられることも多く、給付できない場合には『死ねということか』と迫られることもあります。相談者の顔やことばが頭に残って、家に帰っても眠れないことも多く、精神的に持つのか心配です」と打ち明けました。

そして「相談者が次から次に来ている状況なので、就労支援や引きこもりの相談などの通常の支援がおろそかになってしまいました。本来は生活に困った人に寄り添い伴走型の支援をしなければならないのに、『さばく』状況になってしまっていることを本当に申し訳なく思います」と話していました。

「心身ともに限界 自分が倒れる」

大阪弁護士会のアンケート調査に「近々辞める」と回答した相談員の男性がNHKの取材に応じ、「心身ともに限界が来て自分が倒れる未来しか見えなかった」と話しました。

男性が働いていた自治体の相談窓口には、感染拡大後、これまで年に数件しかなかった「住居確保給付金」の申請が月100件を超えるようになりました。

当時の状況について、男性は「日中は相談者からの電話が鳴りやまず、相談の合間にも人が押し寄せるような状況でした。新型ウイルスの影響で生活に困りパニックになっている人や怒っている人の対応でストレスがある状態が続いていて、いつか大きなミスをするのではないかという不安が常にありました」と述べました。

月収は20万円ほどでしたが、連日、早朝から深夜まで勤務が続き、帰りの電車では意識がもうろうとして、駅を乗り過ごすこともあったということです。

男性は「困った人を支えるこの仕事を長く続けたいという思いはありましたが、心身ともに限界が来て自分が倒れる未来しか見えませんでした。もう辞める選択肢しかありません」と話していました。

全国の自治体アンケート 国に改善を求めたい点など

自治体の相談窓口の負担が深刻な状況は、大阪だけではなく全国で起きています。

NHKは、感染者数が多い上位10の都道府県のうち人口の多い東京23区や政令指定都市など合わせて36の区や市にアンケート調査を行いました。

その結果、
▽全体の94%に当たる34の自治体が「住居確保給付金の申請の急増で多忙になり職員の数が足りない」と回答したほか、
▽全体の81%に当たる29の自治体が「相談者の中に高圧的な人や感情的になる人がいて対応に苦慮している」と回答しました。

このほか
▽全体の67%に当たる24の自治体が「申請手続きが煩雑で困窮した人が利用しづらい」と回答したほか、
▽10の自治体が「多忙が原因で退職や休職する職員が出ている」と回答しました。

アンケートでは、国に改善を求めたい点についても自由記述で回答を得ました。

自治体からは「新型コロナウイルスへの対策として、住居確保給付金とは別の家賃補助制度を新設してほしい」とか「申請手続きが複雑なので簡便になるように変更してほしい」という回答が相次ぎました。

また「以前は、困窮者1人1人の状況を勘案しながら十分な相談をして、個別の課題に応じた支援を行ってきたが、申請件数が前の年度の100倍以上となり、本来の支援ができない状態にある」という回答もありました。