アストラゼネカ 新型コロナのワクチン 臨床試験 一時的に中断

アストラゼネカ 新型コロナのワクチン 臨床試験 一時的に中断
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イギリスの製薬大手アストラゼネカは、オックスフォード大学とともに開発を進めている新型コロナウイルスのワクチンの臨床試験を一時的に中断したことを明らかにしました。詳細は明らかにしていませんが、安全性に関するデータを検証するためだとしています。
アストラゼネカは8日、声明を出し、ヒトでの安全性や有効性を確かめるためにイギリスやアメリカで行っているワクチンの最終段階の臨床試験を一時的に中断したことを明らかにしました。

声明は、「独立した委員会が、安全性のデータを検証するためだ」としたうえで、「大規模な臨床試験では、試験の参加者に何らかの症状が出ることがあり、独立した検証を行う必要がある」としています。

一方で、具体的にどのような症状が出たのかなど詳細は明らかにしていません。

アストラゼネカは、「開発のスケジュールへの影響を最小限にとどめつつ、試験の参加者の安全にも十分配慮する」としています。

新型コロナウイルスのワクチン開発は中国やアメリカなど各国で続けられていますが、アストラゼネカとオックスフォード大学が開発中のワクチンは、その中でも最も進んでいるものの1つです。

日本政府は、アストラゼネカが開発に成功した場合、来年初めから1億2000万回分、2回接種で6000万人分の供給を受けることで基本合意しています。

一方で、新型コロナウイルスのワクチン開発は、各国が実用化を急ぐ中、過去に例のないスピードで進められていて、専門家からは、安全性を十分検証するよう求める声が出ています。

日本での臨床試験も中断

アストラゼネカは、新型コロナウイルスのワクチンの開発に向けて日本でも先月下旬から臨床試験を始めています。

アストラゼネカによりますと、国内の複数の施設で、18歳以上のおよそ250人を対象に臨床試験を行う計画で、ワクチンを接種した人と接種していない人を比較して安全性や有効性を検証します。

しかし、日本で行っていた臨床試験も、安全性を確認するために中断したということです。

専門家 中断の判断を評価

アストラゼネカが新型コロナウイルスのワクチンの臨床試験を一時的に中断したことについて、ワクチン開発に詳しい東京大学医科学研究所の石井健教授は「どのような事情で止まったのか分からないが、臨床試験が止まることは時々あることで、一喜一憂すべきではない。ワクチンは一度打つと、元には戻らない免疫反応を起こすので、安全性に問題があってはいけない。しっかり安全性を見るのがワクチンの臨床試験の基本で、有害事象が起きて止まること自体は何ら問題ないし、止めないで進めてしまうほうがリスクが高い」と話しています。

そして「最終段階にあたる第3相の臨床試験は、数か月ではなく、何年も続くことが普通で、オリンピックやアメリカの大統領選挙までに終わらせないといけないという政治的な圧力がかかる事態のほうがリスクだ。このプレッシャーの中でしっかり止めて様子を見る決断をしたのは正しい判断だと思う」と述べて、中断した判断を評価しました。

菅官房長官 投与一時中断との説明あった

菅官房長官は、午後の記者会見で、厚生労働省がアストラゼネカ社に確認したところ、事案の詳細を調査するまでの間、日本国内を含めた新たな投与を一時的に中断するとの説明があったことを明らかにしました。

そのうえで、「ワクチンについては、来年前半までに全国民に提供できる数量を確保することを目指して、わが国で承認申請があった場合は治験のデータと最新の科学的知見に基づき、有効性と安全性の確保の観点から、承認の可否について適切に審査していく」と述べました。

厚労省「安全対策検証し再開可否の判断を」

厚生労働省は「症状が出た場合に安全性などを調査するのはワクチンに限らず臨床試験では一般的に行われることだ。安全対策などを詳しく検証したうえで再開の可否を判断してもらう必要がある」としています。

アストラゼネカのワクチンめぐる経緯

新型コロナウイルスのワクチンについて、政府は、来年前半までにすべての国民が接種できる量を確保する方針を打ち出しています。

そのため、欧米の複数の製薬会社との間で、開発に成功した場合、来年以降、ワクチンの供給を受ける方向で交渉を進めています。

「アストラゼネカ」とは、先月、少なくとも6000万人分の供給を受けることで基本合意し、このうち1500万人分については来年3月までの供給を目指すことになっていました。

症状出たのはイギリスで1人

厚生労働省によりますと、会社側からは、イギリスで実施している臨床試験で、ワクチンを接種した1人に重い症状が確認されたと9日、報告を受けたということです。

接種との因果関係は不明で、具体的な症状については調査中と説明を受けたということです。

厚生労働省は「臨床試験が最終段階で中断されるのは決して珍しいことではない。中止ではなくあくまで中断なので、現時点で日本のワクチンの確保に影響があるとは考えていない」としています。

開発難しいが再開で成功したケースも

ワクチンは、かつて多くの命を奪った天然痘の撲滅に大きく貢献するなど、感染症対策には欠かせない大きな武器で、多くの病気について、感染や重症化を防ぐために接種が行われています。

ワクチンは、健康な人に接種することから、安全性と有効性の評価が厳密に行われていて、臨床試験の段階で副作用が指摘されるなどして、実現していないものもあります。

このうち、発熱やせきなどかぜに似た症状が出て、乳幼児に肺炎などを引き起こす「RSウイルス感染症」に対するワクチンの開発では、1960年代に行われた臨床試験で接種した人の症状が悪化し、死に至ったケースもあったということです。

また、エイズを引き起こすウイルス、HIVに対するワクチンも1980年代以降、複数の臨床試験が行われ、中には、最終の第3段階まで進んだものもありましたが、感染を防ぐ効果が十分確認されずこれまでに有効性が確認されたワクチンは実現していません。

さらに、ワクチンによっては、接種でできた抗体がかえってウイルスの感染や増殖を促すなどして、症状を悪化させてしまう「ADE」という現象が起きることもあり、SARSのワクチンを開発する中では、動物実験でADEが見られたということです。

一方で、臨床試験が一度中断したあと、再開されてワクチンの開発に成功したケースもあるということです。

ワクチン開発に詳しい北里大学の中山哲夫特任教授は「ワクチン開発で安全性の確認は欠かせない。第3段階の臨床試験では対象となる人数も増えて何が起こるか分からないので、望ましくない反応が起きたときは、しっかり検証することが大切だ」と話しています。

臨床試験再開するか早急に判断

ワクチンの安全性などを管理するイギリスの医薬品・医療製品規制庁は、コメントを発表し、アストラゼネカとオックスフォード大学が開発を進めている新型コロナウイルスのワクチンについて安全性のデータの確認を進めていることを明らかにしました。

臨床試験を行ううえで決められた手続きだということで「臨床試験を再開するかどうか判断するため、研究者たちとともに早急に情報の確認作業を進めている」としています。

西村官房副長官「承認の可否 適切に審査」

西村官房副長官は記者会見で、厚生労働省がアストラゼネカ社に確認したところ、事案の詳細を調査する間、日本国内を含め、新たな投与を一時的に中断するもので、通常の治験プロセスの一環だとの説明があったことを明らかにしました。

また、西村副長官は、アストラゼネカ社は安全性確認のために臨床試験を停止したが、重大な遅れが発生しないよう取り組んでいると説明しているとしたうえで「来年前半までに全国民に提供できるワクチンの数量を確保することを目指して、わが国で承認申請があった場合は、治験などのデータと最新の科学的知見に基づいて、有効性と安全性の確保の観点から、承認の可否について適切に審査していく予定だ」と述べました。