政府の新型コロナ対策 新たな方針で何が変わる?

政府の新型コロナ対策 新たな方針で何が変わる?
新型コロナウイルスの対応をめぐって、政府の対策本部は今月(8月)28日、検査体制の見直しなど新たな方針を打ち出しました。何がどう変わるのか、具体的に見ていきます。

「検査体制」強化

まずは「検査」です。今後、秋から冬にかけてインフルエンザが流行することを見越して、厚生労働省は今月28日、新型コロナウイルスの検査体制を強化する方針を打ち出しました。

これまでは、保健所などに設置された「受診相談センター」に連絡し、専門外来で検査を受けるルートと、医師会などが設けた「地域外来・検査センター」で検査を受けるルートが中心でした。そこに、地域の診療所で診察から検査までを一括して行うルートを整えます。

その背景には、今後のインフルエンザの流行があります。
インフルエンザと新型コロナウイルスは発熱などの症状が似ていて、地域の診療所にインフルかコロナか分からない患者が相次ぐおそれがあります。

このため、厚生労働省は地域の診療所で、インフルとコロナの検査を同時に行えるよう体制を強化する方針です。主に短時間で結果が出る抗原検査の簡易キットを活用し、ことし10月中に1日当たり20万回分の簡易キットを調達する予定です。

一方で課題もあります。検査を行う診療所での感染対策です。
検査を実施するのは感染対策が整った診療所で都道府県に登録します。診療所の中には発熱患者を隔離することが難しいなど、感染対策が十分に取れないことから、検査に二の足を踏むところも出てくるおそれがあり、検査に協力してくれる診療所をどこまで増やせるかが課題となります。

厚生労働省は来月(9月)中にも全国の自治体に対し、事務連絡を出して、インフルエンザの流行期に備え、検査体制の整備計画を作るよう求めることにしています。

検査の費用は公費負担となるため、患者の自己負担はありません。

「入院」の運用見直し

新型コロナウイルスに感染した人の「入院」の運用も見直されます。

具体的には無症状や軽症の人は医療機関に入院せず、原則、宿泊施設か自宅での療養を徹底します。

これまでも症状がない人は原則、宿泊施設などで療養することになっていましたが、地域によっては入院を求められるケースも多いと見られています。

このため、今回の見直しによって、入院する人の数を抑えることで、限られた医療資源を重症者の治療に重点的に投入し、入院に対応する保健所の負担も減らそうというねらいがあります。

一方で、宿泊施設などで療養する人には保健所が経過観察を行わなければならないため、一部でその負担が増えることも懸念されています。

「ワクチン」の接種体制

このうち、新型コロナウイルスのワクチンについて、厚生労働省は来年前半にすべての国民が接種できる体制を作りたいとしています。

そのために、アメリカの製薬大手「ファイザー」から来年6月末までに6000万人分、イギリスの「アストラゼネカ」からも来年1月以降、少なくとも6000万人分の供給を受けることで、すでに基本合意しました。

また、アメリカの「モデルナ」とも来年上半期から2000万人分の供給を受ける方向で交渉を進めています。しかし、いずれも開発に成功した場合が前提で、十分な量が日本に供給されるかは不透明です。

また、効果がどの程度あって、どのくらい持続するかも現時点でははっきりしていません。安全性の確認も進められていますが、厚生労働省の中では「大勢の人が実際に接種しなければ、安全性を正確に見極めるのは難しい」という声も出ています。

「雇用対策」強化

新型コロナウイルスの感染拡大で経済が大きな打撃をうける中、政府は雇用を守るための対策を強化する方針を明らかにしました。

「雇用調整助成金」は売り上げが減少しても企業が従業員を休業させるなどして雇用を維持した場合に、国が休業手当などの一部を助成する制度です。

厚生労働省はことし2月以降、新型コロナウイルスの影響を受けた企業を対象に、特例措置を行っていて、1人1日当たり8330円の助成金の上限額を1万5000円に、従業員に支払った休業手当などの助成率は、大企業は75%に中小企業は100%に引き上げています。

特例措置の期限は来月(9月)末までとなっていましたが、厚生労働省は12月末まで延長することを決めました。

来年1月以降は失業者が急増するなど、雇用情勢が大きく悪化しないかぎり、特例措置は段階的に縮小していきたいとしています。

厚生労働省によりますと、雇用調整助成金の申請は、ことし2月から今月(8月)28日までに合わせて100万8864件あり、このうち、支給が決定したのは、86万6232件、金額にして、1兆914億円余りに上っています。

今回のような特例措置はありませんでしたが、リーマンショック後の平成21年度からの2年間に支給されたのは、合わせて9785億円で、およそ6か月間でそれを上回ったことになります。

一方で、雇用調整助成金の主な財源は企業が負担する雇用保険の保険料ですが、大きく減少しています。厚生労働省によりますと、「雇用安定資金」は平成30年度末には1兆4400億円ありましたが、今年度末には1256億円になると見込まれています。

また、雇用保険の失業給付の財源となる積立金は、今年度末には2兆6440億円となる見込みで、当面は特例によって「雇用安定資金」にこの積立金から借り入れることができるほか、一般会計から繰り入れる方法もあるということです。

新型コロナウイルスの感染拡大による経済への影響が続くとみられる中、どのようにして必要な財源を確保し、雇用を守るための制度を維持していくのかが今後の課題となっています。

専門家「充実したフォロー体制を」

政府が公表した新型コロナウイルス対策の新たな方針について、日本感染症学会の理事長で、東邦大学の舘田一博教授は「インフルエンザと新型コロナウイルスの同時流行という、今まで経験したことのない事態に備えるには、診療所も含めた地域での医療体制を整えていく必要がある。ただ、診療所には高齢の医師も多いため、ためらいがあるのもある意味、当然だと思う」と指摘しました。

そのうえで、舘田教授は「検査が実施できる診療所の登録を増やすには、診療所の負担や感染リスクが増えないように、国や行政が手当を付けて優遇したり、ガウンやマスクなど十分な量の防護具を用意したりするなど、充実したフォロー体制を整える必要がある。また、登録した診療所にだけ、しわ寄せが行かないように各地域の医師会などが協力して検査センターを設けるなど、地域一丸となって備えていく意識も大事だ」と話していました。

診療所で検体を採る際の医師の感染リスクについては「まずはそれぞれの地域でインフルエンザか新型コロナウイルスか、どちらが流行しているのかをしっかりと把握しておく必要がある。そのうえで検査をする際に、ガウンやフェイスシールドなどの防護具を正しくつけて、検体を採取すれば感染リスクは下げられるはずだ」と話していました。