コロナで運動不足の子どもたち 学校再開で抱えるリスクとは

コロナで運動不足の子どもたち 学校再開で抱えるリスクとは
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新型コロナウイルスによる臨時休校や外出の自粛で子どもたちの運動不足が懸念されていますが、学校が再開し急に激しい運動をした子どもが、けがをするケースが起きていることがわかりました。専門家は、本格的な運動から遠ざかり、けがのリスクを抱えた子どもは多いとみて、学校現場での対策の必要性を指摘しています。
新型コロナウイルスの影響で、全国の小中学校や高校では、ことし3月以降、数か月にわたって臨時休校となり、部活動も休止される中、子どもたちの運動不足や体力の低下が懸念されています。

このうち、さいたま市の岩槻中学校は、およそ3か月間、臨時休校が続き、例年より大幅に遅いおととい、ようやく春の健康診断が実施されましたが、「疲れやすい」といった体の不調に加え、体が硬くなったり筋力が低下したりしている生徒が、明らかに増えていたということです。

この学校では再開後、体育の授業中にジャンプの着地に失敗して足をけがした生徒もいるということで、健康診断を受けた生徒は「休校明けに学校の階段で転びそうになった」とか「体育の授業がこれまでよりつらく感じた」と話していました。

横田早苗養護教諭は「ステイホームしていた子どもたちの運動不足を感じています。体育の授業中に転んでしまうとか、これまでにないことが起きています」と話していました。

日本臨床整形外科学会の名誉会員で、健康診断を担当した林承弘医師は「自粛期間が長くなればなるほど運動機能が低下した状態は続いていくので、軽い運動でもけがをしやすくなる」としたうえで、本格的な運動から遠ざかり、けがのリスクを抱えた子どもは多いとみて、学校現場での対策の必要性を指摘しています。

多いのは「肉離れ」や「ねんざ」

東京 江東区の整骨院には今、急に激しい運動をしてけがをした子どもたちが訪れています。

けがは「肉離れ」や「ねんざ」が多く、この日も、右太ももの肉離れを起こした中学3年の男子生徒が来院していました。

陸上部に所属しているこの生徒は、部活動が再開された6月、ダッシュの練習中に肉離れを起こしたということです。生徒は「今、練習しないと大会でも記録が出せないと思い、焦って練習をやりすぎてしまった」と話していました。

整骨院の篠田善雄院長は「自粛が続き、部活動の時に使っていた筋肉の収縮性や関節の柔らかさが失われた状態で急激な運動をするので、けがが起きている」としたうえで、「自粛明けに体を痛めた子どもが驚くほど多い。肉離れやねんざ、骨折など、けがをしている子どもは全国的に増えているのではないか」と話しています。

アンケートから見えた異変

自粛生活によって、子どもたちの体にどのような変化が起きているのか。全国の整形外科で診療に当たっている医師らでつくる日本臨床整形外科学会は、先月下旬から今月中旬にかけて、医療機関を訪れた人など小・中・高校生817人を対象に、初めてアンケート調査を行いました。

それによりますと、「体力がなくなった」と回答したのは、
▼小学生で35.3%、
▼中学生で44.1%、
▼高校生で55.1%に上っていました。
また、「体重が増加した」と回答したのは、
▼小学生で36.9%、
▼中学生で40.7%、
▼高校生で34.9%でした。

こうした傾向は、いずれも「自粛期間中に運動をしなかった」と答えた子どもほど、強かったということです。
このほか、「自粛期間後に体に何らかの痛みが出たか」聞いたところ、
▼小学生は「足・足関節」、
▼中高生は、「足・足関節」に加え「首・腰」と答えた人が多かったということで、日本臨床整形外科学会は、
▽小学生は、自粛の影響で体の柔軟性が低下したこと、
▽中高生は、それに加えて、スマートフォンやゲームをする時間が長くなったことなどが背景にあると分析しています。

“けが対策”始める学校も

東京 調布市の市立第三小学校では再開後の体育の授業で急に激しい運動をしたため、児童がけがをするケースが増えているということです。そこで学校では、ふだんの準備体操に加えて、「補助運動」を新たに取り入れました。

例えば、「とび箱」をする前には、踏み切りや手を着く動作、それに着地の動作などをまず別々に行い、体に感覚を覚えさせたうえで、とぶようにしているということです。

小島大樹教諭は「学校再開後、子どもたちの動きが重くなったと感じ、“子どもの体の状態に運動を合わせる”必要があると思いました。子どもの今の体の状態を出発点にしないと、けがにつながると痛感しています。指導する際は、急に激しい運動をするのではなく、どの筋肉を動かしているか、子どもたちが自分の体と向き合えるように心がけています」と話していました。

専門家「運動不足1か月 体の回復3か月」

子どもたちの体の異変について、スポーツ医学が専門の東京大学の武藤芳照名誉教授は「近年、子どもたちは運動不足の傾向にあったが、これに新型コロナウイルスの感染拡大が加わって、さらに進んだ状態だ。ベースとなっている体力が低下しているので、大けがをするような事故が1件あれば、その背景にけがの予備軍の子どもたちが数百人はいると見るのが妥当ではないか」と指摘しています。

そのうえで、「運動不足が1か月続くと、体の回復には3か月程度かかると言われる。学校教育の現場などでは、多くのけがの予備軍がいることを考慮し、いきなり激しい運動はしないなど、ふだん以上に段階的に指導していくことが必要だ」と話しています。