河井前法相夫妻 参院選めぐる大規模買収事件 きょう初公判

河井前法相夫妻 参院選めぐる大規模買収事件 きょう初公判
河井克行前法務大臣と、妻の案里議員が起訴された去年の参議院選挙をめぐる大規模な買収事件の初公判が25日、東京地方裁判所で開かれます。初公判で2人は無罪を主張するとみられ、現金の提供が案里議員を当選させる目的だったかどうかが争点になる見通しです。
前の法務大臣の河井克行被告(57)は、去年の参議院選挙で、妻の案里議員を当選させるため、地元議員や後援会幹部など合わせて100人に2900万円余りを配ったとして公職選挙法違反の買収の罪に問われ、参議院議員の案里被告(46)も、このうち地元議員5人に合わせて170万円を配った罪に問われています。

関係者によりますと、2人はいずれも無罪を主張し、河井前大臣は「現金を配ったのは統一地方選挙の陣中見舞いや、党勢拡大などのためで、票の取りまとめを依頼する趣旨ではない」と主張する見通しです。

裁判では、現金の提供が案里議員を当選させる目的だったかどうかが争点となる見通しです。

2人が公の場に姿を見せるのは逮捕後初めてで、法廷でどのような主張をするのか注目されます。

裁判は、迅速に審理される「百日裁判」で行われ、ことし12月18日まで55回の期日がすでに決まっていて、100人を超える証人の尋問が行われる見通しです。

証人の多くが広島にいるため、東京地裁への出廷が難しいおよそ40人については、広島地裁と映像と音声をつなぐ「ビデオリンク方式」での証人尋問が検討されています。

初公判は、午前10時から東京地方裁判所で開かれます。

法務大臣経験者逮捕の前例ない事件

法務行政のトップだった前法務大臣と妻が大規模な買収の罪に問われている前例のない事件。一連の経緯をまとめました。

河井案里参議院議員の陣営の選挙違反疑惑が浮上したのは、去年10月。

去年7月の参議院選挙で、いわゆるウグイス嬢に法律の規定を上回る報酬を支払っていた疑惑が週刊誌で報じられ、夫の河井克行前大臣は、法務大臣就任からわずか50日後に辞任しました。

ことし1月15日、広島地方検察庁が公職選挙法違反の疑いで広島市内の河井夫妻の事務所や自宅マンションを捜索。

およそ1か月半後の3月3日、ウグイス嬢に違法な報酬を支払ったとして、夫妻の公設秘書らが公職選挙法違反の運動員買収の疑いで広島地検に逮捕されました。

検察当局は河井夫妻の議員会館の事務所も捜索し、一連の捜査の過程で現金の配布先とみられる広島県内の市長や町長、地元議員、それに後援会幹部など合わせて100人以上の名前や金額が記載された複数のリストを押収。

河井夫妻が保守分裂の激しい選挙戦のさなかに、票の取りまとめを依頼する目的で、幅広い関係者に現金を配っていた大規模な現金買収の疑いが浮上しました。

検察当局は、東京地検特捜部の検事を広島に派遣するなど捜査態勢を拡充し、3月下旬からはリストに記載された地元議員などの一斉聴取に乗り出します。

その結果、現金が配られた疑いがある地元議員ら100人近くの大半が河井夫妻から現金を受け取ったことを認めました。

国会が閉会した翌日の6月18日、東京地検特捜部は、河井夫妻を逮捕。

とりわけ高い順法精神が求められる法務大臣の経験者が逮捕される前例のない買収事件に発展しました。

河井前大臣と案里議員は逮捕の前日、これ以上党に迷惑をかけたくないなどとして自民党を離党しました。

そして、特捜部は先月8日、河井前大臣が選挙運動を取りしきる立場の「総括主宰者」に当たると判断し、合わせて100人に2900万円余りを配ったとして、公職選挙法違反の買収の罪で起訴。

案里議員も河井前大臣と共謀し、地元議員5人に170万円を配った罪で起訴されました。

河井前法相が「総括主宰者」

検察は、河井克行前大臣が去年7月の参議院選挙で、案里議員の選挙運動を取りしきる立場の「総括主宰者」だったと位置づけています。

そのうえで克行前大臣は、去年3月下旬から8月上旬にかけて、案里議員を当選させる目的で票の取りまとめを依頼し、報酬として広島県内の市長や町長、それに地元議員や後援会幹部など、合わせて100人に2900万円余りを配ったとして、公職選挙法違反の買収の罪に問われています。

また案里議員も克行前大臣と共謀し、地元議員5人に票の取りまとめを依頼し、合わせて170万円を配ったとして、買収の罪に問われています。

争点と双方の主張

【争点1…現金提供の目的】
裁判の大きな争点は、現金の提供が案里議員を当選させる目的だったかどうかです。
公職選挙法では候補者を当選させる目的で票の取りまとめなどを依頼し、現金を渡すことを禁じていますが、党勢拡大などを目的に、政治活動として政治家の政治団体などに寄付することは認められています。
関係者によりますと克行前大臣は「現金を配ったのは統一地方選挙の陣中見舞いや党勢拡大などのためだ。票の取りまとめを依頼する趣旨ではない」として、無罪を主張する方針です。
また案里議員も「現金を配ったことはおおむね認めるが、票の取りまとめを依頼する趣旨ではない」として無罪を主張するものとみられます。
一方、検察は、過去の統一地方選挙で陣中見舞いなどを渡していない議員にも現金が提供されていることや、受け取った側が票の取りまとめの趣旨を認めていることなどを指摘し、現金提供は案里議員を当選させることが目的だったと立証するものとみられます。
現金が配られた時期もポイントとなります。
去年は3月に案里議員が参議院選挙への立候補を表明したあと、4月に統一地方選挙、7月に参議院選挙が行われました。
検察は、案里議員が立候補を表明した去年3月から選挙直後の8月までの現金の配布を起訴しています。
一方で、これまで公職選挙法の買収罪が適用されたのは選挙期間中や直前の現金配布が多く、今回のように3か月から4か月前の配布を買収罪に問うケースは少ないとされています。
こうしたケースが買収に当たるのか裁判所の判断が注目されます。

【争点2…刑事処分見送り違法な司法取引か】
また、検察が現金の提供先とされる100人全員の刑事処分を見送っていることの是非も争点の1つになります。
公職選挙法には、現金を提供した側だけではなく受け取った側も「被買収」として処罰する規定がありますが、検察は、克行前大臣から一方的に現金を渡されたケースが多いことなどを総合的に考慮し、刑事処分を見送ったものとみられます。
しかし、検察OBや専門家の一部からは、過去の買収事件の処理と比べバランスを欠くというの指摘が出ているほか、広島市の市民団体も「現金を受け取った側の刑事責任も問うべきだ」として、近く広島地検に100人全員を刑事告発する方針です。
克行前大臣は、不起訴を約束する見返りに供述を得る違法な司法取引が行われた疑いがあり、起訴したこと自体が違法だとして裁判を打ち切る「公訴棄却」を求める方針です。
今後、裁判では現金を受け取ったとされる地元議員などが次々に証人として出廷する見通しで、刑事処分の見送りが証言の信用性に与える影響を裁判所がどのように判断するかも焦点になります。

河井夫妻の勾留は続く

克行前大臣と案里議員は6月18日に東京地検特捜部に逮捕され、その後、60日以上にわたって東京拘置所で勾留が続いています。

それぞれの弁護士は先月8日に起訴されたあと、2回、保釈を請求しましたが、いずれも裁判所に認められませんでした。

関係者によりますと、2人とも体調に問題はないということですが、克行前大臣は逮捕前よりも痩せた様子だということです。

2人は、いずれも裁判で無罪を主張する方針で、克行前大臣は弁護士と定期的に接見し、拘置所では裁判資料を読み込むなどして過ごしているということです。

そして裁判での無罪主張に強い意欲を見せているということです。

2人は同じ拘置所にいても、面会することはできず、克行前大臣は案里議員の体調を気遣う様子を見せることもあるということです。

初公判で2人は逮捕後初めて公の場に姿を見せ、みずからの主張を述べることになります。

2人は逮捕の前日に自民党を離党した際に、克行前大臣は記者団に対し「迷惑をかけて本当に深くおわび申し上げる。良心に照らして、やましい政治行動や、法にもとるような政治活動を行ったことはない」と述べましたが、案里議員は「弁護士から止められているので申し訳ありません」と述べるにとどまっています。

今回の裁判は「百日裁判」で、おおむね週4回のペースで開かれるため、拘置所の中では、被告と弁護士が打ち合わせ時間を十分確保することが難しいという指摘もあり、弁護団は3回目の保釈請求についても検討を進めているものとみられます。

判決は来年に

「百日裁判」は、連座制などの適用が想定される選挙違反事件の審理を迅速に進めることを目的に公職選挙法で定められ、裁判所は起訴から30日以内に初公判を開き、100日以内に判決を出すよう努めなければならないと規定されています。

裁判が長引くことで当選した候補者の任期中に結論が出ず、連座制などの効果が失われるのを避けるのが目的です。

対象となるのは公職選挙法違反の買収などの罪で起訴された議員本人のほか、陣営の選挙運動を取りしきる「総括主宰者」や、「配偶者」などの議員の親族や、秘書などで、今回の事件の場合、河井前大臣は「総括主宰者」と「配偶者」の2つの立場で「百日裁判」を受けることになります。

「百日裁判」の規定に基づくと、今回の事件は7月8日に起訴されたため、10月中旬までに判決を言い渡すことが求められます。

しかし、今回の裁判では100人を超える証人の尋問が行われる見通しで、ことし12月18日まで55回の期日がすでに決まってます。

このため、判決の言い渡しは来年になる見通しですが、100日以内の判決はあくまで努力規定で、これを過ぎても判決は無効にはなりません。

失職・当選無効の条件

克行前大臣と案里議員はいずれも無罪を主張し、議員を辞職していませんが、今回の裁判の判決によっては公職選挙法の規定で国会議員の地位を失う可能性があります。

克行前大臣については、今回の裁判で罰金以上の刑が確定すれば公民権停止となり、失職します。

案里議員については、裁判で有罪が確定すれば、去年の参議院選挙での当選が無効になります。

案里議員が無罪になった場合も、克行前大臣が陣営の「総括主宰者」として罰金以上の刑が確定し、連座制が適用されれば、案里議員の当選は無効になります。

また案里議員の選挙運動をめぐっては、いわゆるウグイス嬢に法律の規定を超える報酬が支払われたとされる事件でも広島地方裁判所が案里議員の公設秘書に執行猶予の付いた有罪判決を言い渡しています。

公設秘書は控訴していますが、禁錮以上の刑が確定し、連座制が適用された場合も、案里議員の当選は無効になります。

辞任した自治体トップも

今回の事件で、河井議員夫妻の地元の広島県内では、現金を受け取ったとされる自治体の首長や地方議員の辞職が相次ぐなど、影響が広がっています。

河井議員夫妻が現金を提供したとされる100人の中には、広島県内の首長や地元議員合わせて40人が含まれ、このうち、自治体のトップでは、三原市、安芸高田市、安芸太田町の3人が辞職する事態になりました。

三原市の天満祥典前市長は、当初、河井前大臣からの現金提供を否定しましたが、その後、一転して、現金150万円を受け取ったことを認め、ことし6月に辞職しました。

天満前市長は、記者会見で「河井前大臣と秘密の約束をしたと理解し、それを守っていた。しかし市民にいつまでも受け取っていないと言い続けることができないと思い、みそぎをすることにしたが、うその説明をしたと受け取られてもしかたない」と説明しました。

さらに、4人の地方議員がこれまでに辞職したほか、複数の議会で議員に対する辞職勧告決議案が提出されるなど、影響が広がっています。一方で、今も現金の授受を明らかにしない議員もいます。

現金を受け取ったとされる議員の多くは、公の場で説明しておらず、有権者からは「説明責任を果たしていない」などと批判の声が上がり、議員への不信感が高まっています。

また、現金を受け取ったとされる地元議員らの刑事責任について、検察は河井前大臣から一方的に現金を渡されたケースが多いことなどを総合的に考慮し、刑事処分を見送ったとみられます。

これについて、市民団体は「現金を受け取った側の責任も問うべきだ」などとして、検察に対し近く100人全員を刑事告発する方針です。

NHKの取材に対し、複数の議員は、今後の裁判で、検察の証人として証言する意向を示していて、中には「裁判が終わってから、自分の出処進退を考えたい」と話す議員もいます。

今後の審理の内容によっては、広島県の政界にさらに影響が広がる可能性もあります。

元刑事裁判官「現金の提供先がどう答えるか」

元刑事裁判官で法政大学法科大学院の水野智幸教授は「現金の提供が政治活動ではなく、案里議員を当選させるための買収目的だったと認定されるかどうかが、有罪か無罪かの決め手になる」と指摘しました。

そのうえで「カネには色が付いてないので、現金の受け渡しが行われた時期ややり取りの際の言動、現金の提供先との関係性などいろいろな要素を組み合わせて裁判所は政治活動か選挙目的かを判断していくことになる。録音などの物証はありえない世界なので、現金の提供先とされる地元議員らが、証人尋問でどのように答えるかが大きな意味を持つ」と述べました。

このほか現金の提供先とされる100人全員の刑事処分が見送られ、河井前大臣が違法な「司法取引」が行われた疑いがあるとして、裁判を打ち切る「公訴棄却」を求める方針であることについて水野教授は「これまで、裁判所が『公訴棄却』の判断をした例はほとんどなく、ハードルは高いが、現金の提供先が起訴されていないのは『不公平だ』という主張はもっともな部分もあると思う。地元議員らの証人尋問では検察の取り調べの様子も取り上げられると思うので、双方が主張を尽くす中で裁判所がどのような判断を示すか注目したい」と話しています。