GDP歴史的な下落 コロナ不安の中で新事業に乗り出す動きも

GDP歴史的な下落 コロナ不安の中で新事業に乗り出す動きも
ことし4月から6月までのGDP=国内総生産は、実質の伸び率が、年率に換算してマイナス27.8%で、リーマンショック後に記録した年率マイナス17.8%を超えて最大の落ち込みとなりました。
新型コロナウイルスの感染拡大による影響の長期化を懸念する声が出ている一方、新たな事業に活路を見いだそうという動きがあります。
ことし4月から6月までのGDPの実質の伸び率が最大の落ち込みとなる中、中小企業からは先行きの不透明さから経営へのさらなる影響を懸念する声が出ています。

東京 大田区にある従業員およそ40人の会社では自動車部品などの金属加工に使う工具の製造・販売をしています。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で経営に大きな影響が出ています。

会社によりますと自動車の生産台数の減少や、企業の設備投資の抑制などでことし4月から6月までの売り上げは去年の同じ時期と比べておよそ3割減少しました。7月と8月の売り上げも去年より大幅に減少しているということです。

このため会社では国の雇用調整助成金を活用し従業員を休業させるなどして全員の雇用を維持しています。

一方、夏のボーナスは会社の業績に応じて支払われるため去年よりも減少しました。工場では感染の拡大を防ぐために作業にあたる人数を通常の8割ほどに減らして稼働していて残りのおよそ2割の従業員は休業させるなどして対応しています。

会社では新型コロナウイルスの感染が再び広がる中で先行きの不透明さから経営にさらなる影響が出るのではないか懸念しています。

大学3年生の息子がいる50代の男性社員は「日本の経済に大きな打撃が出る中で、今のまま働き続けることができるのか、大学の学費を払い続けることができるのか不安になります」と話しています。

江口國康社長は「新型コロナウイルスの影響がどこまで続くのか私たちも計り知れないという気持ちです。雇用調整助成金などを活用して従業員の雇用を維持していきたいです」と話しています。

収入減 募る影響長期化への不安

愛知県の機械整備メーカーで正社員として働く40代の男性は売り上げの減少などで夏のボーナスが去年の半分近くに減っておよそ3万6000円となりました。
また、感染拡大の影響でことし4月から月収が減少したといいます。とくに、6月の月収は5月は多くの日が休業を余儀なくされたため、手取りでおよそ13万円でした。
男性の月収は残業代を含めずに通常は24万円ほどだということで、これと比べるとおよそ11万円少なくなりました。
男性は国の特別定額給付金、10万円を受け取りましたが、スーパーマーケットで安売りのカップラーメンをまとめて購入するなどしてできるだけ食費を抑えてきました。
収入は先月からは元の水準に戻りつつあり、今月下旬からは仕事が増える予定だということです。しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大するなかで、再び休業を余儀なくされて収入の減少などの影響が長期化しないか不安だといいます。
男性は「会社からは仕事量が増えると説明を受けていますが、その期待よりもどこまで元の水準に戻るのかという不安のほうが大きいです。今後の生活が不安なのでできるだけ節約して少しでも貯蓄にまわしたいと思っています」と話しています。

航空機部品メーカーは…

世界中で人の移動が制限され、需要が激減している航空機の部品メーカーの中には、少しでも売り上げの足しにしようと、全く異なる事業に乗り出す動きもあります。
およそ6000の工場が集まるモノづくりの町、大阪 東大阪市にある従業員20人の金属部品メーカーの「アオキ」は、2009年に中小企業の技術力を結集して打ち上げに成功した小型の人工衛星、「まいど1号」の計画を発案した会社です。
ミクロン単位、1000分の1ミリレベルの微細な金属加工技術を持ち、売り上げの60%以上を航空機の部品が占めています。
日本の大手メーカーを通じてアメリカのボーイング社に、787型機の主翼内部の構造をつなぐ金具などを納品しています。納入する部品は飛行機1機あたり、100個から200個になりますが、新型コロナウイルスの影響で航空機の需要は激減しています。
ボーイング社は旅客機を大幅に減産する方針を打ち出していて、部品メーカーにはその影響が直撃しています。4月、5月は新型コロナの影響が出る前に受注していた分の生産があったため、売り上げは前年並みでしたが、先月は30%減少したということです。
さらに今月と来月は航空機関連の部品の注文が全くないということです。
会社では国の雇用調整助成金を活用して多くの従業員を休業させていて、お盆の休み明けの17日は責任者2人だけが出勤していました。
会社では、少しでも売り上げの足しにしようとほかのメーカーが作った空気清浄機の販売代理店の業務を請け負うことにしました。
青木理社長は「コロナが収束しないかぎり、ビジネスは立ち上がらないし、早くて3年、普通で5年かかると言われている。中小企業で資金に余裕がある訳ではないので、今とは違う取り組みをしていかなければならない。不本意なことであったとしても頑張ってやれば努力は報われると信じていきたい」と話していました。

板金加工メーカーは…

新型コロナウイルスの感染拡大による打撃を受けながら、新たな事業へのシフトを進めることで成長を目指す企業が群馬県にあります。
群馬県伊勢崎市の板金加工メーカーはATM=現金自動預け払い機の外側の枠を製造していて、会社の年間売り上げの5割以上を占めていました。
しかしことし3月、感染拡大の影響で取引先の大手電機メーカーのATMの製造が滞ったため受注量が減少し、ATMの売り上げは前の年の同じ月と比べて5月には、およそ半分に、6月も30%減りました。
こうした中で、この会社が注目したのが医療機関向けの空気清浄機です。厚さおよそ10センチの薄型の本体の中に高性能なフィルターを取り付け、ウイルスを大幅に取り除けるというもので、診察室の間仕切りなどとして使われます。
もともと、ATMの需要が伸び悩んでいることもあって、新規事業として始めたものの、生産量は年間300台で、会社の売り上げに占める割合は10%に満たない程度でした。
ところが新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、病院や介護施設などから取引先のメーカーに注文が相次ぎ生産量は月に300台から500台と10倍以上に増えています。
部品はすべて国内で製造されていて海外の影響を受けないこともあり、会社は新たな主力事業の1つに育てていくことを決めました。
10億円を投じて来年には新たな工場を建設し、生産能力を月2000台以上に引き上げる計画です。
「岡部工業」の岡部浩章社長は「ATMは落ちているが、コロナウイルスの影響でほかの仕事が増えていることで、なんとか打ち消されやっていけている。一生懸命、準備計画を立てて進んでいきたい」と話していました。

飲食店 新たなニーズに活路見出せるか

飲食店の中には、飲み会を控える動きに対応して、仕事帰りなどの短い時間に1人や少ない人数で外食を楽しみたいというニーズに活路を見いだそうという動きもあります。
大手飲食チェーンの「プロント」は、先月下旬、東京 港区に立ったままで飲食する新しいスタイルの店舗をオープンしました。
ターゲットは、仕事帰りなどに短い時間で食事を済ませたいという女性です。
机やいすも置いていますが、立ち飲みもできるように机を高くしています。座席の数もおよそ20席と、これまで営業してきた店の半分ほどに減らしました。
メニューも大胆に見直し、「女子会」などの利用を想定していた大皿の料理をなくして、小さな食器で1人分の量を提供するように改めました。
新型店の来店客の数は、今のところ、目標の5割程度にとどまっていますが、客の滞在時間は平均およそ30分ともくろみ通り短時間での利用が多く、手応えを感じているといいます。
プロントの谷口青人さんは「コロナの影響で、飲食の需要は減っているが、外で食事をしたいというニーズは今でもあると思う。手探りだが、コロナ時代の店の形を作っていきたい」と話しています。

老舗旅館では従業員の負担増加

日本を代表する観光地の一つ、広島県の宮島にある旅館では宿泊客の減少が続く中でも、感染防止の対策や行政の補助を受けるための事務作業で従業員の負担が増えています。

広島県廿日市市の宮島にある創業400年の老舗旅館、「宮島グランドホテル有もと」では、先月の売り上げが去年の同じ月よりおよそ70%減りました。

観光需要の喚起策、「Go Toトラベル」に加えて県や市の補助事業が一定の呼び水にはなっていますが、今月も売り上げは去年よりおよそ60%の減少となる見込みです。

この旅館では、感染防止の対策を業界のガイドラインより厳しく実施しています。客室ではハンガーや案内の冊子なども消毒し、ロビーなどの共用スペースは2時間おきに消毒しています。

こうした感染防止対策に加えて、行政の補助を受けるための事務作業も重なり、従業員の負担が増えているといいます。

フロントの担当者が食事の配膳も行うなど、担当の垣根を越えて1人の従業員が複数の業務を行って乗り切ろうとしています。

「宮島グランドホテル有もと」の有本隆哉専務は「宿泊客への対応を日々改善して不安感を与えないようにし、なおかつ楽しんでもらうことを目指してこれからも努力したい」と話していました。

筑波観光鉄道「秋の紅葉シーズンには…」

今回、GDPの伸び率が最大の落ち込みになった背景には新型コロナウイルスの感染拡大で旅行や外食を控える動きが広がり、「個人消費」が大きく落ち込んだことがあります。
毎年250万人の観光客が訪れる茨城県の筑波山でケーブルカーやロープウエーを運行する筑波観光鉄道では、新型コロナウイルスの影響で大型連休の期間を含めて23日間、運休を余儀なくされました。
乗客の数は6月までの3か月間で去年の同じ時期に比べて13万4000人、率にして75%減少したということです。
会社では現在、密になるのを避けるため乗客の定員を半分以下に減らすなどして運行していますが、お盆休みの今月11日から15日までは、乗客数が例年の85%まで回復しました。
しかし、山頂付近の展望台にあるレストランを利用する人は少なく、密になるのを心配している人もいるとみられています。会社では、土産物店で販売している商品をオンラインで買えるサイトを今月(8月)から設け、少しでも売り上げを確保しようとしています。
筑波観光鉄道運輸部の須藤淳課長補佐は、「大型連休中に営業ができなかったこともあり大きな影響を受けている。秋の紅葉シーズンには多くの人を迎えられるような状況になってほしい」と話しています。

伝統工芸品にも影響

新型コロナウイルスによる経済活動の低迷は地域の伝統工芸品にも深刻な影響を与えています。
群馬県で生産が盛んな「創作こけし」は、東北などで生産がさかんな「伝統こけし」と違い、自由な形とデザインが特徴で、東京の浅草や京都などで日本の土産として特に外国人観光客に人気があります。
年間12万個を製造している榛東村の工房「卯三郎こけし」でも、おかっぱ頭の女の子のこけしなどが人気で、去年まではインバウンド需要で生産が追いつかないほどでした。
ところが、新型コロナウイルスの影響で、外国人観光客が大幅に減少したため、ことし3月以降は、土産物店からの注文がほとんどなくなり、売り上げは去年の5分の1ほどに落ち込んでいます。
このため工房では新たな需要を掘り起こそうと日本人に関心を持ってもらえるような新たな創作こけしを作り始めました。
新型コロナウイルスの終息が見えない中、疫病から人々を守るとされる妖怪の「アマビエ」をデザインしたこけしを販売したところ、好評だということです。
このほかにも群馬名物の釜飯の上に県のゆるキャラ「ぐんまちゃん」が乗ったこけしを作って、SNSでPRするなど知恵を絞っています。
この工房では4月からは、雇用調整助成金を活用し、25人の従業員全員を休ませていますが、助成金の上限額を引き上げる特例措置の期限が来月末となっているため、その先の雇用の維持が課題になっています。
「卯三郎こけし」の岡本有司社長は、「ことしは東京オリンピックで最高に忙しくなると思っていましたが、途方にくれています。職人がせっかく腕をあげてくれたところでこうした状況になったのは非常に残念で、雇用を維持できるようにインターネットを使った宣伝や販売を強化するなど、できるかぎりのことをしていきたい」と話していました。